第12回 バース・プランと英国のお産形態
お産前の入院準備として、真っ先に挙げられるのがバース・プランの作成だ。バース・プランとは、へその緒は誰々に切ってほしいとか、ペイン・リリーフ(痛み止めの手段)は何々を希望するなど、お産の際の処置に対する自分の希望を書き出し、病院に表示するもの。病院スタッフはこれを参考資料とする。
例えば出産後の胎盤の扱い一つをとっても、病院に処理してもらうのが当たり前の日本と違い、英国では持ち帰る人々もいる。多民族国家英国において、自分で作成するバース・プランは宗教や文化の違いによる後々の衝突を未然に防ぐ役目を果たしているのだろう。
さて、お産のスタイルだが、一般に日本=自然分娩、欧米=無痛分娩(局部麻酔注射の使用)と見られがちだけれど、英国では意外と自然分娩志向が強い。もちろん無痛分娩も広く利用されてはいるが、計画的な無痛分娩というよりは、最後の手段的存在のようだ。
出産前に参加する両親学級で一緒になった人たちは、ペイン・リリーフに興味津々ではあったものの、ほぼ全員が自然分娩を希望していた。。一方で、4回の出産とも帝王切開を選んだビクトリア・ベッカムは「too posh to push」などと揶揄されている。
とはいえ、理想通りにことが進まないのがお産というもの。痛みの程度も、人それぞれ。皆それを知っているから、「何がなんでも自然分娩!」と言う人は少なく、枕元にそっと、の感覚で無痛分娩という選択肢を温存している。こういった選択の幅の広さは英国のお産の利点かもしれない。また、事態が急変して緊急帝王切開というシナリオも十分あり得るので、何よりも大切なのは、柔軟な心の準備。こうした準備は、何事にも動じない母親になるための一歩となるのだろう。