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Tue, 19 November 2024

第8回 ウィリアム・ワーズワース

イギリス浪漫派を代表する自然詩人のワーズワース。湖水地方に生まれ、美しい故 郷をこよなく愛し、生涯をそこに暮らして自然とともに生きた。引用した言葉は、 1798年、親友の詩人コールリッジとともに出した「抒情歌謡集」の中の詩「The Tables Turned(発想の転換を)」の一節で、若き日のワーズワースが自然をどのように見てい たかがよく分かる。

自然は癒しであるとよく言われる。ストレスに疲れがちな現代人は自然に憩うこと を知っており、今では観光ビジネスも「自然」抜きにはあり得ない。美しい自然と温泉 を訪ねるような旅は、日本のテレビ番組の定番の一つになっている。

だが、ワーズワースが語る自然は、もう少しその先を行く。ここでは、自然はただ の美しい風景ではなく、人間の生き方と深く結びついている。癒しや憩いを超えて自 然に学ぶことを提唱し、自然は私たち人間の師となる存在だと言っているのである。

引用部分のすぐ後には「自然は、私たちの精神と心が祝うよう蓄えられた宝。健や かさによって呼吸される天然の知恵、快活さによって呼吸される真実」という文言が 来る。さらに「春の森に受ける衝撃は、人間について、また悪や善について、全ての 賢者たち以上に教えてくれるであろう」と続く。人生も倫理も、自然が私たちに教え てくれるのである。

私もイギリス暮らしをするようになって初めて、自然に囲まれ、自然とともに生き るようなことを知った。散歩を日課とし、牧場や田園で自然と語らい、調和のとれた その美しさに天意を感じるように思った。自然には嘘がない。とりわけ植物は、じっ とその場に動かず、風雨に耐え、芽を吹き、花を咲かせ、実を結んでと、その謙虚に して懸命な命の輝きに生きるとは何であるかを教えられる。自分の命もまた、この自 然と同列同格にあるのだと、深く呼吸するような想いになる。

ワーズワースの言葉に反して、人間はその後、自然を師と仰がず、自然を制圧し、 開発し利用するような逆の道を進んだ。万物の長であると自認して、人間は驕り昂ぶ り、我が物顔で振る舞ってきた。

それから200年、地球は今、自然を師とすることを怠ってきた人間に、復讐を始め たかのように見える。地球温暖化と異常気象。ワーズワース的な心を人間が取り戻す ことができたら、再び地球は優しく人に微笑みかけるのではないだろうか。

 

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