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Sun, 24 November 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第4回 私が住んだ国 スイス編「温泉と言葉」

2 September 2010 vol.1265

1996年、チューリッヒのオペラ・ハウス前で 1996年、チューリッヒのオペラ・ハウス前で

一人前のプロのバレエ・ダンサーとして生活を始めたスイスのチューリッヒ。お給料をもらって舞台に立つということの重要さ、それと同時に喜びを感じた国でした。

スイスの第一印象は「清潔な国」。道や駅にゴミ一つ落ちていなく、電車やバスもピカピカ。パリと比べると大違いでした。ゆっくりと道を歩く人々、満員になっているのを見たことがないゆとりのある路面電車、昼休みになると閉まってしまう商店、鍵を付けっぱなしでも盗まれない車などなど……。今まで大都市にしか住んだことがなかった私は、この国のゆっくりとした時間の流れに、始めの頃は多少戸惑いを感じたのを覚えています。


私が所属していたバレエ団でも、お昼休みが1時から4時までと何と3時間もありました。また、年間の公演回数も約60回ととても少なく、今のロイヤルの年間150回と比べてしまうと、雲泥の差です。

お客様にしても、バレエ・ファンというよりは、むしろ何かきれいなものを観る、きれいな音楽を聴きに来る、という方が多かったような気がします。ロイヤルのように、お気に入りのダンサーを観るためにチケットを買うというということはありませんでした。


チューリッヒは素晴らしい自然に囲まれた静かな街ではありましたが、当時、まだ若かった私には、少々活気に欠けていると思うこともありました。でもそうした中、お気に入りだったのが、温泉です。スイスは山国なので、日本のように温泉が至る所で吹き出ているのです。

チューリッヒから電車で20分くらいのところにあるバーデンという街は、温泉(バーデン)という名が付いているだけあり、温泉で世界的に知られる場所です。この街には週末、よく出掛けていました。

日本の温泉が大好きな私は、日本の様な風情がなく、水温の低いスイスの温泉に物足りなさを感じましたが、水着着用で入る温水プールに喜んで入っていました。というのも、バレエ・ダンサーには筋肉痛がつきものなのですが、温泉は筋肉にとても良いのです。

話はそれますが、温泉でなくとも熱いシャワーを体が真っ赤になるくらいにかけ、その後、冷たいシャワーをまた真っ赤になるくらいにかけるのを2、3回くらい繰り返すだけで、筋肉痛や疲労の回復に役立ちます。


スイス滞在で一つ、後悔していることは、言葉です。スイスは4カ国語(フランス語、イタリア語、ドイツ語、ロマンシュ語)が公用語となっており、人々はたいてい数カ国語を話します。私が生活していたチューリッヒはドイツ語圏でしたが、フランス語で十分生活をしていけたため、全くドイツ語を覚えなかったのです。

バレエ団内でもフランス人が多く、スイス人は2人くらい。後は世界各国からダンサーが来ていたため、団内では英語とフランス語が共通語でした。

3年間も住んでいながら言葉を覚えようとしなかった自分の未熟さが、今では恥ずかしいです。言葉が理解できなかったため、スイスという国を深く知ることができなかったようにも思います。まるで目隠しをつけながらおいしい食事をしているよう。全く、今頃になって気が付くのですよね、こういうこと……。

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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