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Mon, 23 December 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第7回 悩みは尽きない英国の食生活

2 December 2010 vol.1278

ボリュームたっぷりの料理が並ぶロイヤル・オペラ・ハウスの食堂 「ボリュームたっぷりの料理が並ぶ
ロイヤル・オペラ・ハウスの食堂

ロンドンのスーパーマーケットに初めて入ったときに思ったこと。「なぜこんなに電子レンジ用の温め料理が、たくさんあるのだろう……」。フランスや日本でよく耳にしたフレーズ、「英国人は味音痴」が、私の心に蘇ってきました。

フランスに住んでいたとき、フランス人がよく「英国は肉の塊とフィッシュ & チップスしかない国」と馬鹿にしていたことを覚えています。私の知り合いの大袈裟なフランス人は、英国にラグビーの試合を観に来るたびに、パンから始まり、ワイン、チーズ、サラミやフォアグラなどを鞄一杯持ち込み、一切、英国の食料に手を出そうとしません。いくら何でもそれはやり過ぎだと私は言うのですが、ワイン工場の持ち主である彼は食通で、英国の食べ物は信用出来ないと言うのです。さすがフランス人……。


食べることも料理をすることも大好きな私のこだわりかもしれませんが、英国人は食に対して無関心なのではないかと思うことがよくあります。スーパーマーケットの食料品売り場も、半分は出来合いの食品にスペースを取られ(それもあまりおいしくない……)、新鮮な野菜や肉、魚のスペースが限られてしまっているところがほとんどで、食の国フランスや日本とは正反対です。


それでもここ数年、セレブリティー・シェフたちの活躍でこうした現状も少しずつ良くなってきているように思えます。特にジェイミー・オリバーは学校給食の改善や、料理が苦手な人たちのためのTV料理教室などで、おいしく食べ物を食べることがどんなに大事なのかを市民に語り掛けています。私は彼にオペラ・ハウスに来ていただいて、食堂を改善していただきたいと思うことがたびたびです。体が資本のダンサーたちが集うオペラ・ハウスの食堂だからこそ、特別に工夫されているかと思えば、全くそうではないのが驚きです。

見るからに重たそうなインド・カレーにフィッシュ & チップス、茹で過ぎの上、ソースの掛け過ぎパスタなどなど……。このようなものを、どうやって激しく動き回るリハーサルの合間や、公演の前に食べられるのかと思うのでしょうか。

本当にどうしようもないときは外にまで出て、オペラ・ハウスのそばにあるマークス & スペンサーの電子レンジ料理か、お寿司らしきものを購入しなければなりません。バレエ団にいる私たち日本人ダンサーたちは、「おにぎりやお弁当があったらなあ」などと、よく夢見ています。


バレエ・ダンサーといえば、皆さんの中にはイメージ的にサラダとか果物くらいしか食べないのだろうと思っている方が大勢いらっしゃると思います。確かにそれに近い食生活を送らなければならないダンサーもいることにはいますが、やはり、腹が減っては戦はできません!

私個人は、公演前は炭水化物を、公演後はタンパク質や野菜を中心に摂取するようにしています。炭水化物は踊るエネルギーに早変わり、タンパク質は筋肉の疲労回復、野菜はミネラルやビタミンの補給といったところでしょうか。

食べ物は人間にとってのガソリンですが、やはりおいしく食べないとつまらないですよね!

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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