ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Sun, 13 October 2024
レイコ・カネコ日英文化を内包する陶磁器をつくり出す
プロダクト・デザイナー
レイコ・カネコさん

[ 後編 ] 斬新なフォルムを持つボーンチャイナを次々と発表する傍ら、英国屈指のレストランやバーとのコラボレーションも展開するレイコさん。特に2013年、英インテリア・ショップ「SCP」の創業者シェリダン・コークレー氏と日本に赴き、伝統技術を目の当たりにしたことは彼女に大きなインスピレーションを与えた。レイコさんの新たな挑戦を追う、 全2回の後編。
プロフィール
れいこかねこ- 英国人の母と日本人の父を持つ。英国に生まれるが、生後直後から父の実家、福島県郡山市で育つ。父の逝去に伴い8歳のときに英国に移住。名門セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインでアート & デザインを学び、2005年に卒業。07年、ロンドン東部にデザイン・スタジオをオープンし、自らのブランド「レイコ・カネコ」を立ち上げる。その後は英国の伝統的な磁器ボーンチャイナをベースに、機能美あふれるフォルムとウイットに富んだデザインが特徴のホームウェアを次々に発表し、デザイン業界で大きな注目を浴びる。現在は英中部ストーク・オン・トレントにアトリエを移し、創作活動を続けている。
www.reikokaneko.co.uk

 

ボーンチャイナからテラコッタへ

レイコさんのトレードマークとも言える、 ボーンチャイナの作品コレクションを目の当たりにすると、伝統の中に息づく個性に魅了される。研ぎ澄まされた機能美に、洒脱なアイデアを絶妙のさじ加減で融合させた彼女の作品は、ともすれば気取った高級磁器とも映るボーンチャイナに新たな息吹を吹き込んだ。英国内外のメディアは、 この新進気鋭のプロダクト・デザイナーのフレッシュな才能を大きく取り上げ、ミシュランの3ツ星を冠する英国きってのレストラン「ファット・ダック」や、ロンドンのトレンドを牽引するカクテル・バーなどからのビスポーク食器製作の依頼もレイコさんの元に飛び込んでくる。

「ボーンチャイナでクリスマス・デコレーションを製作して以来、この磁器の持つ深い魅力にとりつかれています。磁器には色々な『白』が存在しますが、ボーンチャイナの持つブライトで気品あふれる乳白色、その輝きや光沢は特別です。光を通す繊細さを持ちながら、強固な構造も併せ持つ素晴らしい素材」とレイコさんは熱っぽく話す。機会あって2012年から、英国のデザイン界に大きな影響力を持つロンドンのインテリア・ショップ「SCP」とコラボレーションして、ハンドメイド・テラコッタのテーブルウェアを製作し始めたというレイコさん。「テラコッタもボーンチャイナ同様、機能的で耐久性に優れ、かつ素朴で独特の風合いがあります。毎日使うことによって存在感が増すとても興味深い素材で、テラコッタへの新しい挑戦を今、とても楽しんでいます」。

伝統技術を受け継ぐ、サフォーク州の工房で作られるテラコッタ
伝統技術を受け継ぐ、サフォーク州の工房で作られるテラコッタ

日本の職人に受け継がれる「民芸」に触れる旅

「機能美」という言葉が大好きだと語るレイコさんにとってプロダクト・デザインの真髄とは、日常生活で使われて輝きを増していくものを生み出していくこと。特に、「日々の暮らしの中で使われてきた、職人の魂が宿る日用品の中に『用の美』を見出す」という日本の「民芸運動」の精神は、日英のハーフであるレイコさんの創作の根っこに常に横たわっているそうだ。それだけに2013年6月、前出のSCPの創業者であるシェリダン・コークレー氏とともに日本を訪れ、日本の伝統技術に直に触れ、職人たちと深い交流を持ったことは大きな刺激となった。全行程5日間で、宮城県石巻市を本拠地とするクリエイティブ集団「石巻工房」、その昔「民芸運動」の創設者の一人である濱田庄司が窯を抱えていた栃木県の益子町、薄吹きグラスの伝統で有名な東京の「松徳硝子」の3カ所を巡る弾丸ツアー。「中でも『石巻工房』は印象的でした。日本を襲った恐ろしい津波から4年近く経っても、石巻では復興作業が続いています。そんな状況にありながら、工房にはクリエイティブな人が全国から集まり、創作の新しい潮流を生み出している。創作することが人々を元気にし、ひいては町に精気を吹き込んでいる。とても素敵なことだと思いました」。

栃木県益子町、「濱田庄司記念益子参考館」にて記念撮影
栃木県益子町、「濱田庄司記念益子参考館」にて記念撮影

10年前から弓道をたしなみ、現在は4段の保持者だというレイコさん。「あなたのアイデンティティーは日英のどちらにあるのか」という問いには「心の故郷は、様々な人種と文化が共存するここ『ロンドン』だと思っている」と柔和な表情をうかべて答えてくれた。来年には、ストーク・オン・トレントのスタジオの1階に、一般の人も足を運べるショールームをオープンする予定だそう。またSCP向けに、室内装飾の新プロジェクトも進行中だ。プロダクト・デザイナーとしてその裾野を華麗に広げつつあるレイコさんの次のステップに、今後も目が離せそうにない。

取材・文: 長谷川 ゆか

 

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