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Sun, 13 October 2024
秋山正子マギーズ東京プロジェクト共同代表
秋山正子さん

[ 後編 ]英国独自のがん相談支援施設「マギーズ・センター」を日本にも設立するプロジェクトを推進中の秋山さん。日本にある既存のがん相談支援センターには欠けていて、英国のマギーズにあるものとは何か。また病院の付近に建てることが必須である一方で、医療機関とは独立した施設を運営するという点にこだわるのはなぜなのか。全2回の後編。

前編はこちらから


プロフィール
1950年生まれ、秋田県出身、聖路加看護大学卒。助産師、看護教員としての勤務を経験。実姉の在宅療養をきっかけに、訪問看護に本格的に携わるようになる。白十字訪問看護ステーション統括所長(CEO)。訪問看護・介護などのサービスを行うとともに、住民の医療相談に応える「暮らしの保健室(東京都新宿区)」を運営。東京女子医科大学非常勤講師。著書に「在宅ケアの不思議な力(医学書院)」など。英各地にあるがん相談支援施設「マギーズ・センター」を東京に設立することを目指すプロジェクト「マギーズ東京プロジェクト」の共同代表を務めている。
www.maggiestokyo.org
 

「今すぐにでも日本につくりたい」

英国独特のがん相談支援施設「マギーズ・センター」を日本にも設立したい。秋山さんの夢は、2008年に東京都・築地にある国立がん研究センターで開催された「国際がん看護セミナー」で芽生えた。このセミナーに出席していたのが、スコットランドにある「マギーズ・エディンバラ」のセンター長。彼の話を聞くと、マギーズでは家庭のリビング・ルームのようなのどかな空間を用意し、予約なしで訪問客を温かく受け入れ、必要とあらば健康管理や福祉制度についての専門的な助言を行うという。それまで訪問看護に従事しながらも、重病となれば病院で医療的な処置を受ける以外の選択肢がほぼないに等しい日本の現状に限界を感じ始めていた秋山さんは、目から鱗が落ちる思いだった。「建築と景観が一体となった環境をつくり、患者の不安を軽減する」。マギーズの理念とは、まさに秋山さんが思い描いていた夢を具現化したものだったからだ。「会場で『私にお金がたくさんあったら今すぐにでも日本につくりたいです』と言って、ほかのセミナー参加者の方々に大笑いされた記憶があります」。その3カ月後には、マギーズ・エディンバラを訪問。「日本にもつくらなければならない」と決心を固めたという。

日本人の2人に一人ががんに罹るという現状において、日本の政府もただ手をこまねいているわけではない。2006年に制定されたがん対策基本法では、がん拠点病院に相談支援センターを置くことを義務付けた。ただ秋山さんによると、担当者がほかの業務と兼務する忙しそうな場所。「窓口が一体どこにあるのかさえ分からない」という声を聞く。日本の政府関係者も何度かロンドンのマギーズを視察しているが、彼らが関心を寄せるのは、あくまでも病院内につくる医療相談所のあり方。マギーズの理念とは異なる。

マギーズ・ウェスト・ロンドンを視察
マギーズ・ウェスト・ロンドンを視察する

同センターの発案者であるマギー・ケズウィック・ジェンクス氏は、がんを告知された際に「胃にパンチを食らった」かのような衝撃を受けたという。彼女には、その衝撃が和らぐ間もなく病院を後にするほかに選択肢がなかった。そんな場面で「医療」ができることはごく限られている。そのとき彼女が必要としていたのは、混乱をすべて受け止めてくれた上で、「まず今日は家に帰って夕食をちゃんと食べないと。そしてまた明日できることを一緒に考えよう」と言ってくれる人だったはずだ。

マギーズ東京の実現に向けて

「マギーズ東京プロジェクト」は、様々な障害をくぐり抜けながら、実現に向けて少しずつ歩みを進めている。計画は敷地探しの段階から難航した。各方面から「病院の敷地は駐車場スペースで埋まっている」「病院の横にある空き地は災害時の避難エリアなので使用することができない」とつれない返事。しかし、思わぬところから話があり、がん関連の医療施設が多い東京都湾岸エリアに土地を借りられることになった。次は「建築と景観が一体となった環境」づくりだ。「自然光が入って明るい」「オープン・キッチンがある」などの諸条件をそろえれば、建築デザインは自由。これまでに東京・新国立競技場の設計案で話題を集めたザハ・ハディド、日本人建築家の黒川紀章といった面々が英各地におけるマギーズの設計を手掛けている。着工目標は今年の初夏。クラウド・ファンディングを通じて既に2200万円の寄付金が集まったが、建築費・運営費ともにまだ足りない。

マギーズ・ウェスト・ロンドンのキッチン
マギーズ・ウェスト・ロンドンのキッチン

夢が叶うまで、あともう少し。がんを抱える人に対して、相談に乗ってあげられる誰かがいつも待っている。そんな人間的な場所が日本にもうすぐ実現することを、秋山さんは信じている。

秋山正子さん - マギーズ東京プロジェクト共同代表インタビュー 前編

 

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