第324回 キングス・クロスがゴッド・クロスに変わるとき
ユーロスターの発着駅セント・パンクラス駅及び、隣接するキングス・クロス駅の西側には大英図書館があります。その北側にある生物医学研究のフランシス・クリック研究所との間にはロンドン中心部では珍しく広い空き地が残されています。この空き地に日本の大手不動産会社が過去最大の11億ポンド(約2300億円)を投じて大英図書館を拡張し、賃貸ラボ&オフィスを含む地上11階の大型ビルを建設する計画が発表されました。
アラン・チューリング研究所のある大英図書館
大英図書館の拡張予想図
賃貸ラボとは生物医学や化学実験に必要な給排水や排気設備、床荷重、天井高を備えた実験室と研究施設のデスクワーク機能が一体化した施設です。キングス・クロスにそんなにたくさんの実験室が必要なのでしょうか。実は今、この一帯では生物医学分野で世界最先端を走るAI研究所や新興のバイオ企業が設備の整った環境を待ち望んでいる状況にあり、実験室が慢性的に不足しています。では一体、ここで何が起きているのでしょう。
グーグル・プラットフォーム37のオフィス
今夏、キングス・クロス駅近くにプラットフォーム37というグーグルの欧州本部ビルが開設されました。ビルの名称はグーグル傘下のAIチームが初めて当時の囲碁の世界チャンピオンに勝利したことに由来しています。AIはチェスや将棋、オセロではすでに人類に勝利していましたが、囲碁だけは最後の難関でした。ようやく2016年の囲碁の世界王者戦で第37手に歴史的な妙手が放たれAIが囲碁の壁を突破して、知の地図が塗り替えられました。
2016年、AIが囲碁チャンピオンに
グーグルのAIチームの勢いは止まらず、22年には地球上に存在する約2億個のたんぱく質の3次元構造を解明しました。たんぱく質は20個のアミノ酸から構成されますが、折り畳まれて形成される複雑な構造のため、解析が非常に困難で人類が半世紀かけても約15万個しか解明できませんでした。ところがAIチームはほんの数年でその構造を全て解明し、無料公開しました。医療・医薬関係者が歓喜に包まれたのは想像に難くありません。
たんぱく質の図
大英図書館内にあるアラン・チューリング研究所はAIとデータサイエンスに関する中枢の国立研究機関であり、隣接するクリック研究所は生物医学の最前線です。グーグルのプラットフォーム37の周辺には世界中の製薬・医学・医療の研究機関、つまり、産・学・医・AIが驚くほど高密度で結集しています。難病やがんの治療薬だけでなく、地球温暖化を解決する植物や環境負荷の少ない製造業が生まれる可能性もあります。King's Crossは、知が交差して新たな価値が生まれる「神の十字路=God's Cross」に変わりつつあります。
生物医学を研究するフランシス・クリック研究所
寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。



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