サウンド・プログラマーがつくり出す音楽に乗せて映像やレーザー光線がステージを染めるなか、生身の人間である4人の「表現者」たちが、ときにシャープに、ときにコミカルにパフォーマンスを繰り出していく――言葉を発することなく、音と映像、そして生身の人間によるフィジカルなパフォーマンスで、今年始め、3カ月に及ぶロンドン公演を成功させたエンターテインメント集団「SIRO-A」が、8月、再びこの地でロングラン公演に挑む。彼らのステージは、はたして最新テクノロジーを駆使する近未来型ショーなのか、はたまた観客を笑いの渦に巻き込むコメディーなのか。公演に先駆けて渡英した彼らに、話を聞いた。
● 演出: Cocoona(コクーナ、以下C)● サウンド・プログラマー: 岩井宏行
● 映像作家: 佐藤良介 ● 表現者: 阿部俊紀 ● 表現者: 荒井 寿也
● 表現者: DAIKI ● 表現者: YOHEI
演出、サウンド・プログラマー、映像作家、 そして4人の「表現者」という計7名から なる、「テクノ・サウンド」と「映像」、そして「パフォーマンス」の融合を表現するエンターテインメント集団。日本のみならず、英国やドイツ、イタリアといった欧州各国や中国など世界各国で公演を行い、2011年8月には、世界中から劇団やコメディアンなどが一堂に会する 「エディンバラ・フリンジ・フェスティバル」に参加。同フェスに多大なる貢献をしたパフォーマーに贈られる「スピリット・オブ・ザ・フリンジ」を受賞した。今年2月から4月にかけては ロンドン中心部にあるレスター・スクエア・シアターにてロングラン公演を敢行。8月21日からは再び同劇場にて3カ月に及ぶ公演を予定している。
チーム結成
現在、SIRO-Aに所属しているオリジナル・メンバーは5人。コクーナと荒井は小学校の同級生、佐藤と岩井が中学校で同じ学年だった。その後、4人が進学した宮城県宮城広瀬高校で、コクーナと荒井が所属する演劇部に、一年遅れて入部してきたのが阿部。車ならばメンバー全員の家を10分以内で回れるという、実にローカルで私的なつながりからSIRO-Aは始まった。
SIRO-A結成前から皆さん仲が良かったのでしょうか。
佐藤)僕は阿部のことは知りませんでしたし、岩井は僕のことしか知らなかった。お互いを知ったのは結成してからですね。
阿部)近いけれども近いなかですれ違いというか。
それでは結成に至るまでの経緯を教えてください。
C)もともと荒井と僕がお笑いコンビをやっていまして、演技力を伸ばすために演劇部に入ったんです。そこで阿部君と出会いました。お笑いではプロの前座として出させていただいていたんですが、次第に日常がお笑いと言いますか、普段の生活でも面白いことをやるようになるわけです。
佐藤)高校時代の休み時間は毎回、おふざけの時間でしたね。
C)授業の後は、部活に通って、劇場のライブがあるときは劇場へ行って。そんな生活を送っているうちに、お笑いのライブに音楽を入れよう、映像を入れよう、という風に色々な形式がどんどんミックスされて表現の幅が広がっていきました。そしてこれはもう、一つの団体として活動していこうと思って立ち上げたのがSIRO-Aです。でもそのころは、アートや漫画、ポエム、写真、歌、ダンス、とにかくごちゃごちゃに色々な表現を試していたんですよ。
佐藤)現在、僕たちがやっている映像をうネタなんて、たくさんあるネタの一つにすぎなかったんです。色々と試しているうちに、映像とライブの組み合わせがはまるんじゃないかと思って、そこを伸ばしていくようになった、と。
C)映像と人間のコラボレーションはノンバーバルなので、世界でも絶対通用すると気付いたところがあったんです。それでこの表現方法をどんどん模索して、広げていこうというときに、海外で勝負したいという気持ちが沸いてきたんですよね。それが2008~09年ごろのことです。2010年には上海万博で、映像と人間のコラボレーションのみで構成された30分ほどのステージを作りましたが、とてもお客さんの受けが良くて、この方法でやっていこうという自信につながりました。
映像と音楽はそれぞれ担当者の方々がいらっしゃいますが、もともと専門的に活動されていたのでしょうか。
佐藤)音楽に関しては、始め担当する人間がいなくて、音楽ができる人材をということで僕が岩井を引っ張ってきました。彼はもともと専門学校で音楽を勉強していて、バンド活動もしていたんです。映像に関しては誰もいなくて、「じゃあ僕やるよ」って挙手制で僕がやるようになりました。その時点ではまだパソコンの知識なんて全くなくて、まずはパソコンを買うところから始めて独学で勉強しました。失敗しましたね。こんなに大変だとは思わなかった(笑)。
コクーナさんは演出に専念される前は表現者としても活躍されていたそうですね。なぜ演出のみに?
C)どんくさいからです(笑)。
阿部)練習しながら演出するというのが非常に難しくなってきたんですね。次第に自分を演出することができなくなってきて、テンションが下がってきちゃったんですよ。それで演出に専念した方がいいんじゃないかということになって。演出に落ちたわけじゃない、格上げされたんです(笑)!
佐藤)僕ら全員が舞台に出ると、誰もそのライブを生で観られないんですよね。やはりどうしても客観的に舞台を観る人間が必要で、彼がその役目に抜擢されたわけです。始めのころはやっとSIRO-Aのライブを観ることができたって喜んでましたよ。
C)面白いんですよ! 単純に面白くてかっこよかった。本番とリハ、稽古はそれぞれ違いますし。お客さんが入って完成されたものを観たときには、練習で見落としているところに気付くんですよね。直したいところとか、今後こうしたいところとかが見えてくるので、やっぱり誰かは本番観ていないとダメだったよね、と。
昨年、オリジナル・メンバーに2人の表現者が加わったそうですね。加入によって作品のつくり方は変わりましたか。
佐藤)非常に変わりましたね。それまではダンスの担当がいなかったので、ダンサーとしての意見、ダンサー発信のネタが出てくるようになりました。
C)チーム内での異文化交流というか、コラボレーションができる形になってきました。これからもチーム内で、特化した技術と特化した技術の交流を行って、新しい表現をつくり出したいなと思っています。
今後、また新たなメンバーが入るとか?
C)来月から14人くらいに増殖します。オーディションを経たメンバーが加わって2チーム制になりますが、面白い人がいっぱいいるんですよ。作品の制作はチーム全体がフル稼働で進めていきたいです。基本的にはどこへ行っても、どのチームを観ても、同じショーをやっているようにしたいですね。
阿部)ゆくゆくはロンドンでオーディションを行って英国人も入れると(笑)。チーム・ロンドン結成ということで。
ロンドン公演
SIRO-Aは今年2月から4月にかけて、ロンドン中心部のレスター・スクエア・シアターで3カ月間の公演を敢行。世界有数の劇場街で、子供からシアターゴーアーまで、幅広い客層からの支持を得た。ロンドンのみならず、ドイツやオーストリアなど、世界各国でツアー活動を続けるSIRO-Aだが、今月末からは再びロンドンに舞い戻り、また3カ月というロングラン公演を予定している。
前回のロンドン公演における反応は?
荒井)日本以上にこちらのオーディエンスの盛り上がり方はすごかったですね。意外と日本でもロンドンでも、皆さん同じところで受けるという印象がありました。日本と英国では笑いのツボが似ているように思いましたね。
C)パフォーマンスには地域のご当地ネタも入れているんです。各国の文化だったり、流行ものだったり。例えばロンドンではフィッシュ・アンド・チップスとかロンドン地下鉄のネタを扱いました。
3カ月にわたるロンドン生活はいかがでしたか?
岩井)ロンドン西部で4部屋あるフラットを借りて、皆で住んでいました。一緒といいつつも、食事とかは各自別々に自炊したりして。
荒井)僕はロンドンで煮物を覚えました。
YOHEI)ロンドンの街並みが奇麗だったので、滞在していても楽しかったですね。空気感が良くて。
DAIKI)前回は寒かった印象があるんですが、今回は暑いという(笑)。今回は帰ってきたな、という感覚があります。
ロンドン滞在中に観たパフォーマンスで印象に残っているものは?
阿部)当たり前のように舞台上に裸が出てくるというのは、日本ではありえない文化だなあと思いましたね。「ネイキッド・ボーイズ」のように、裸だけで成り立つショーもあったりして、文化が変わればここまで変わるんだなあ、と。
荒井)僕たちも次は裸だねって言い合ったりして(笑)。
岩井)でもこういう作品を観ると常識が広がりますよね。
阿部)僕たち自身が作品を作る上での参考になります。無限の可能性を感じます。
8月からの公演は、前回とはかなり内容が異なるのでしょうか。
C)まず、パフォーマンス時間は、前回50分くらいでしたが、今回はもう少し延ばします。現在、絶賛制作中の新ネタを初お披露目する予定です。
ロンドンならではのネタですか?
C)ロンドンを見据えてはいますが、今、自分たちが一番チャレンジしたいことに挑んでいる感じです。一つ例を挙げると、お客さんとSIRO-Aでつくる空間、というのを試してみたい。劇場でお客さんの写真を撮って、その写真をライブで加工して、一緒にダンスをしたり、パフォーマンスをする。まだできていないので理想形ですけれど(笑)。でも世界中で誰もやったことのない、誰も全く観たことのないエンターテインメントをお見せしたいと思っています。
作品制作とテーマ
「白=無色」「A=名前がない」という単語の組み合わせであるSIRO-Aという名前には、個性と自我を封印するという意味合いがあるという。人間とテクノロジーの融合を目指す彼らのパフォーマンスには、確かに湿っぽい感情は含まれていないが、かといって各人の個性を完全にそぎ落とし、人間を部品として扱っているかといえば、それもまた当てはまらない。
常に新しいテクノロジーを吸収するのは大変なのでは?
C)僕たちは最新のテクノロジーを取り入れようという趣旨で作品を作っているわけではないんです。見え方が新しければ、テクノロジーを組み合わせて出来上がった表現が画期的でさえあれば、その表現は新しいアイデアであり、新しいテクノロジーであると思っています。テクノロジーというと、ハイスペックで高級なもの、現在この世にないものといったイメージがあるかもしれませんが、僕たち自身は非常にアナログな感覚で取り組んでいます。
作品を拝見したとき、寸分の狂いもなく映像とシンクロしてパフォーマンスをされているのに驚きました。何か合図があるのですか?
DAIKI)何もないんです。音楽に体が自然に反応するまで、ただ、ひたすら練習あるのみ。体育会系的なやり方ですね。
個性と自我を封印、とおっしゃる一方で、実際にパフォーマンスを拝見すると、表現者の皆さんそれぞれの特徴が出ているように思います。
C)僕たちが大切にしているのは、人間とテクノロジーの融合。それはテクノロジーによるデジタルの力と、人間のハートや思いの力のコラボレーションと言えます。ヒューマンの部分ということで、例えば阿部のキャラクターや荒井の演技を押し出す作品があります。DAIKIやYOHEIの場合には、身体表現。汗臭く、人間味のある部分を大切にしています。
それでは、感情的な部分でお客さんに伝えたいことは?
C)ただ未来的なショーを上演するだけでなく、終わった後にお客さんの心の中にちょっと何かが残ってほしい。それがお客さんそれぞれ何であっても良いから、何かを持ち帰ってもらいたいなと思っています。観終わったときに抱く100の印象のうちの5くらいは、そんなものを残したい。僕らの中では今、「コネクト」という言葉が一つのテーマになっているんですが、人とテクノロジーのコネクト、僕らとお客さんのコネクト、人と人とのコネクトを感じてもらえれば、と思います。
8月から再びロンドンでのロングラン公演に臨むSIRO-Aのメンバーたちが、7月、ロンドンの地を踏んだ。同23日には、国際交流基金主催のトーク・イベントに出席。会場を埋める観客の大多数は現地人。作品づくりのプロセスやコンセプト、各メンバーの趣味に至るまでの広範な話題に触れた後には、一部パフォーマンスの実演も。途中、観客も参加して行われた同コーナーでは、「表現者」たちが淡々とこなす動作が、実際には高度な技術を必要とされることを観客たちが痛感する一幕もあり、大盛り上がりを見せた。同26日から28日にかけては、毎年恒例の大型日本関連イベント「ハイパージャパン」でパフォーマンスを披露。週末には早朝にもかかわらず、立見客も続出するほどの大賑わいで、客席をカメラで追い、スクリーンに映し出したお客さんを絡めて行うパフォーマンスでは、シンプルかつユニークな英語の即興メッセージにお客さんも大喜びだった。
左)トークの後は一部パフォーマンスの実演。手にした白いボードで楽器の映像を受け止め、「演奏」を披露 右)観客もパフォーマンスにチャレンジ。手にしたボードで映像をキャッチしていくはずが……
左)ハイパージャパン最終日。日曜日朝という時間にもかかわらず、立見客も大勢出るほどの賑わい
右)客席をカメラで追い、お客さんを絡めて即興のパフォーマンス
時間は下記ウェブサイトを参照
£17.50~30
6 Leicester Place, London WC2H 7BX
Tel: 0844 873 3433
www.leicestersquaretheatre.com
http://siro-a.co.uk