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Fri, 22 November 2024

戦時中の英国で日本語を学んだ若者たち
ダリッジ・ボーイズとSOASのブレッチリー・ガールズ

英国における日本語教育略史

* 国際交流基金などの情報を参考にして作成

1903年
英国最初の日本語学校(シャンド日本語学校)がロンドンに開校
1916年
ロンドン大学SOAS(当初は東洋研究所(The School of Oriental Studies))が設立(生徒の受け入れが始まったのは翌17年)。日本語教育が行われる
1946年
SOASにおいて日本語の学士課程、BA Honours in Japaneseが新設
1947年
第11代スカボロー伯爵ローレンス・ラムリーが東洋・アフリカ研究の必要性を訴えた「スカボロー・レポート」を作成。これに基づき、ケンブリッジ大学(1947年)やオックスフォード大学(1962年)に日本語講座が設置されることとなる
1961年
ウィリアム・ヘイターが英国における東アジア研究の状況を調査。調査報告書「ヘイター・レポート」にて、イングランド北部に日本、中国、東南アジアを専門的に研究する機関を設置するよう訴える。これに基づき、日本研究センターがシェフィールド大学に設けられることとなる
1970年
公立中等教育機関であるバリー・セント・エドマンズ・カウンティー・アッパー・スクールで日本語教育が開始。英国の中等教育では初めての日本語教育とされる
1960~
1970年代
語学学校を始めとする成人教育機関で日本語を教えるケースが見られるようになる
1986年
ダリッジ・ボーイズの一人、ピーター・パーカーが調査報告書「未来に向けて-アジア・アフリカ言語及び地域研究に対する英国外交・通商上の要請に関する一考察」(通称パーカー・レポート)を作成。外交・通商上の見地から日本研究及び日本語教育拡大の必要性を唱える
1988年
通商産業省(DTI)が対日輸出拡大を目的とする「オポチュニティー・ジャパン(Opportunity Japan)」キャンペーンを実施。高等教育機関での日本語、日本文化関係プログラムへの資金拠出が決定される。結果、88年から91年までの3年間で対日輸出額が80%増

「ナショナル・カリキュラム」が制定。日本語が選択できる19の外国語の一つとして指定される
1980年代末~
1990年代初め
大学及び中等教育機関において日本研究講座、日本語の授業が増加
1995年
中等教育機関が現代外国語を専門にすることができる「ランゲージ・カレッジ(Language College)」認定制度がイングランドで導入。認定校の約7割が日本語教育を取り入れる
1990年代
半ば
政府助成金の大幅な削減により、いくつかの大学で日本研究・日本語講座が縮小または廃止
2007年
外国語能力を技能別に認定する基準「ランゲージズ・ラダー(Languages Ladder)」が発表
2014年
初等教育(KS2)から外国語が必修となる

現在のSOASにおける
日本語教育

日本語主任、古川彰子さんに聞く

昨年、日本研究開始100周年を迎えたロンドン大学SOAS(東洋アフリカ研究学院)。
第一次大戦中の1916年から現在に至るまで、英国における日本語教育 / 日本研究を牽引する教育施設の一つとして、英国内外で高い評価を得ている。今回は、SOASの日本語主任として日本語教育や日本留学のサポートなどに携わる古川彰子さんに、現在のSOASにおける日本語教育について話を伺った。

古川彰子さん ふるかわ あきこ 神奈川県出身。応用言語学(日本語)博士、FHEA。韓国及び英国で日本語教育に携わる。1998年から14年半、レディング大学で日本語学科長、レクチャラー(lecturer)、日本語 / 中国語コーディネーターを務める。2013年4月からはロンドン大学SOAS(東洋アフリカ研究学院)で日本語主任(Principal Lector in Japanese)として日本語教育、日本での交換留学、2年プログラムであるMA... and Intensive Language (Japanese) の日本語コースの運営を担当。近年は障がい、その他の背景を持つ学生の日本でのサポートや、日本語を使って活躍できる研究者の育成などに力を入れている。

SOASの日本語学科(Japanese)では学士課程と修士課程があるかと思いますが、まずは学士課程でどのようなことを学ぶのか、教えていただけますか。

SOASではまず、1年目に初級を終わらせて、2年目で中級から中上級を学び、3学年次に日本へ留学します。協定校は東京外国語大学、一橋大学、早稲田大学、同志社大学、大阪大学、そのほか九州大学や北海道教育大学など、20以上あります。そして4年目には上級日本語のクラスを取る場合もあれば、文学や歴史の文献を読むコースを選択する場合もあります。

SOASならではの特徴はありますか。

学士課程の1学年次に2つのレベルを設けています。基本的にゼロからのスタートとなる学生はJ1: Elementary Japanese、中学校や高校のときにAレベルやASレベルで日本語を選択したりした、既にある程度の日本語の知識のある学生などはプレースメント・テストの結果によって、 J1: Accelerated Elementary Japaneseを受講し、1学年次が終わったころには同じレベルになるようにカリキュラムが組まれています。ゼロ初級のコースしかない場合、中学校・高校で日本語を学んだ学生は、レベルが高すぎるということで日本語を専攻できなくなる大学もあります。

それでは修士課程は?

英国では通常、修士課程はフルタイムで1年間のプログラムとなりますが、SOASでは2014年に、それを2年間にして、その分、日本語力をより高いレベルにまで持っていくプログラムも作りました。中級スタートと初級スタートの2つのグループがありますが、例えば中級の場合はまず1年間、中級日本語を勉強し、夏の間に5週間、日本でのサマー・コースで単位を取得し、帰国後の次の1年間で上級日本語を勉強する形になります。

大学院の修士課程ですし、研究者を育てるためのコースですので、日本語を学ぶとともに歴史や美術、宗教など専門科目の学術論文を日本語で読むというチャレンジングな内容になっています。そして最終的には自分でも日本語で論文を書きます。

ロンドン中心部ブルームズベリーにあるSOAS の校舎ロンドン中心部ブルームズベリーにあるSOAS の校舎

戦後、英国で日本語教育熱が高まった理由の一つとしては、日本が経済大国であることが挙げられるかと思います。一方で昨年はA レベルの日本語試験が終了というニュースが在英邦人コミュニティーで話題となり、署名活動などが行われた後に試験の復活が決定するなど、大きな動きも見られました。

これまで英国ではレディング大学とSOASの2つの大学に勤務してきましたが、日本でのバブル崩壊後、日本経済に興味があった学生が日本語を学ぶというケースは減ったように思えます。一時期は日本語学科の閉鎖が各地の大学で続きました。ただ、主専攻、副専攻でなく、選択科目の日本語は私が関わった大学では学生数も増え、人気が続いているようです。

最近、日本語を学びたいという学生はどのような人が多いのでしょうか。

バブル崩壊後、日本語教育はそのまま衰退していくのでは、と考えた方もいらっしゃったかもしれませんが、日本にはゲームやアニメ、漫画などのポップ・カルチャーという強みがあるので、日本文化に興味のある人が日本語を勉強するという傾向は続いているようです。かつてはポップ・カルチャーを大学の授業で扱うのはどうか……という考え方もある程度、ありましたが、次第に変わってきて、ポップ・カルチャーを取り入れた授業も見られるようになってきました。これから、選択科目の日本語にポップ・カルチャー好きの学生などが集まってくるということが以前よりも意識されるようになっていく可能性もあるでしょう。アカデミックなコンテクストで、どのように扱うかということがポイントになってくるかもしれません。

一方で、日本語専攻では文学、歴史、美術などに興味を持つ学生が多いように感じます。先日、ある学生と話す機会があったのですが、子供のころにゲームをやっていたら取扱説明書に面白い文字が並んでいて、それが日本語だと分かり、勉強を始めた、と言っていました。日本への興味がゲームからやがて文学や歴史へと移り、日本を訪れるようになる。そういう過程を経て、日本語クラスに入ってくる学生も多いのではないでしょうか。こうやって、日本のポップ・カルチャーから始まった日本への興味がさらに広がっていくのは喜ばしいことだと思っています。

近年の学生ならではの特徴はありますか。

ここ数年、学生にバラエティーが出てきたように感じます。Specific Learning Differencesを持つ学生も増えてきました。私は日本の留学先の手配や留学生のサポートも行っていますが、色々なバックグラウンドのある学生が日本語を学んだ上で日本に1年行き、将来活躍してくれるというのは素晴らしいことだと思います。このような学生が日本に留学する場合、日本の多くの大学は、できる協力はしてくださるのと同時に、情報不足ゆえにそうした状況にまだ慣れていないと感じることもあります。2020年には東京オリンピックも開催されますし、こうしたことをきっかけに日本社会が変わっていってくれたらと願っています。


[参考文献]
  • 「戦中ロンドン日本語学校」(中公新書)大庭 定男著
  • 「The Debs of Bletchley Park and Other Stories」Michael Smith著
  • The Bletchley Park Trust Reports「Japanese Codes」Sue Jarvis著
  • Dulwich Boys and Beyond: 100 Years of Japanese Studies at SOAS (Recording)
  • Bletchley Park, Podcast 56: Enter Japan など
 

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