どうなる!? 英国のEU離脱 Brexit これまでの歩みも併せて紹介
英国の欧州連合(EU)離脱まで、あと2週間となった。「必ず、10月31日までに離脱する」、離脱を延期するぐらいなら「溝で野垂れ死んだ方がましだ」とまで言い切った離脱強硬派のボリス・ジョンソン首相だが、果たしてその誓約は守れるのか。EU離脱の是非を問う国民投票から約3年半。離脱派も残留派も「とにかく、先に進んでほしい」という気持ちでいっぱいだ。今月17日開催のEU首脳会談を目前に、これまでの怒涛の動きと今後の選択肢に注目する。(文: 小林恭子)
※この記事は10月14日時点の情報を基に作成しています
離脱の行方 予想図
離脱までの道筋は大きく分けて3つの予想が立てられる。①EU側の対応、②議会内の意見集約があるかどうか、 ③延長を受け入れるか受け入れないかの首相の動向、によって大きく変わる。
予想 1英政府とEUが新離脱案合意
10月19日 議会で採決にかける | |
可決 | 否決 |
2019年10月31日 | |
離脱・2年間の 移行期間成立 |
合意なき離脱か、 期限延長の交渉へ |
予想 2EUが離脱期限延長を認める
首相辞任? | ||
総選挙あるいは暫定政権発足 | ||
2019年10月31日以降 | ||
新たな離脱期限に向けての交渉 | 合意なき離脱 | 再度の国民投票や、離脱の中止も |
予想 3交渉決裂、EUが延長を認めず
内閣不信任案 否決 |
内閣不信任案 可決 |
|
現政権、続行 | 総選挙あるいは暫定政権発足の可能性も | |
2019年10月31日 合意なき離脱(期限切れ) |
BREXIT 重要人物図鑑
離脱の行方を決める、有力政治家たちをご紹介する。それぞれが濃いキャラクターを持ち、一筋縄ではいかない面々である。
ボリス・ジョンソン首相(55歳)
Boris Johnson
金髪のぼさぼさ頭とジョーク連発で知られる政治家「ボリス」。離脱強硬派。子供の頃から首相になるのが夢だった。名門イートン校からオックスフォード大学に進み、卒業後はジャーナリストに。欧州特派員時代からEC(EUの前身)の官僚主義や拡大志向をおちょくってきた。断固として離脱を実現すると宣言し、議会の長期閉会によって議論を一時停止させるゴリ押し戦法もいとわない。女性スキャンダルも噂され、トランプ米大統領をほうふつとさせ始めた今日この頃だ。
ジェレミー・コービン労働党党首(70歳)
Jeremy Corbyn
白い顎ひげの好々爺を思わせるが、労働党左派を代表する政治家で、議員歴36年。万年平議員かと思われていたが、2015年、若者層や労働組合の支持を受けて党首に選出された。鉄道の再国有化、非核化、トライデント核兵器計画の中止を提唱。保守党政権の緊縮財政にも反対だ。個人的にはEU懐疑派とされているが、立場を玉虫色にしており、党内議員に圧倒的な残留支持議員との摩擦を生んでいる。もし暫定政権となれば次期首相候補だが、彼を支持する議員は党内でも多くないようだ。
ジョー・スウィンソン自由民主党党首(39歳)
Jo Swinson
7月末に党首に就任したばかり。9月の党大会では親欧州の自民党党首として、「もし政権が取れたら、離脱を中止する」と明言し、話題をさらった。暫定政権が成立した場合、コービン氏を支持しないとも宣言している。スコットランドのグラスゴー出身で、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス卒業後、企業に勤め、2005年に下院議員に25歳で初当選。当時最も若い下院議員だった。自民党が単独で政権を取る可能性は低いが、離脱支持の国民に強いアピール力を発揮する。
ナイジェル・ファラージ離脱党党首(55歳)
Nigel Farage
1999年以来、欧州議会議員。保守党員だったが、1990年代、メージャー保守党政権がEUを発足させたことをきっかけに離党し、1993年に英国独立党(UKIP)を結党した。2016年のEU離脱の是非をめぐる国民投票実施に尽力。離脱決定後、党首を辞任するが離脱がなかなか実現しないため、今年4月、離脱党を結成した。葉巻をふかしビールジョッキを傾けながら豪快に笑う。保守党に「共闘」を呼びかけているが、保守党側はこれに応じていない。
ジョン・バーコウ下院議長(56歳)
John Bercow
ヤジを飛ばす議員に向かって「静粛に!静粛に!」と叫ぶ姿が面白いと評判に。10月31日に辞任予定。1997年から下院議員で、2009年の議長就任前は保守党に所属。就任時には「中立性を保つ」ために離党した。しかし、離脱強硬派の保守党議員は「隠れ残留派」と評する。メイ前首相による離脱協定案の3回目の提出を阻止し、離脱派に協力的ではないと批判された。ジョンソン首相による長期議会閉鎖が最高裁で違法という判断が出ると、早速「議会を再開させる」と嬉しそうに述べた。
ジェイコブ・リースモグ保守党議員(50歳)
Jacob Rees-Mogg
下院の院内総務かつ枢密院議長で、離脱強硬派。富裕な家庭出身で、上流階級に特有な言葉遣いで話す。古風な佇まいととぼけたユーモアのギャップで人気を博してきたが、保守党の離脱強硬派組織「欧州調査グループ」を率いて、メイ前政権がEUと合意した離脱協定案を否決する勢力となった。平議員だったがジョンソン政権下で現職に抜擢され、枢密院議長として議会の長期閉会をエリザベス女王に勧める役割を担った。今後、さらなる大役を提供される可能性もある。
離脱を目指して迷走する、
英国のこれまでの歩み
英国がEUの前身であるECに加盟したのは46年前となる。EUの単一通貨ユーロを導入せず、国境検査を必要としないシェンゲン協定にも加入せずに、独立独歩の道を歩んできた英国。果たして予定通り「離脱」に到達できるだろうか。
1973年1月 | 英国が欧州共同体(EC)に加盟 |
---|---|
1975年6月 | EC残留の是非を問う国民投票で、残留支持が67.23%を占めて勝利 |
1990年 | 英国が欧州為替相場メカニズム(ERM)に加入 |
1992年 | 2月、マーストリヒト条約(欧州連合条約)調印。 9月、英国が ERMから脱退 |
1993年 | 英国独立党(UKIP)が結成 |
1993年11月1日 | マーストリヒト条約発効でECが欧州連合(EU)に |
1999年 | 欧州単一通貨 ユーロ導入。英国はポンドを維持 |
2002年 | ユーロ紙幣・硬貨の流通開始 |
2004年 | 東欧を中心とする10カ国がEU加盟。10月、欧州憲法調印 |
2005年 | フランスとオランダが欧州憲法の批准を拒否 |
2009年 | 欧州憲法に代わる基本条約リスボン条約が発効 |
2010年 | デービッド・キャメロンが首相就任。自由民主党との連立政権発足 |
2013年1月23日 | 2年後の総選挙で保守党の単独過半数獲得を狙うキャメロン首相は、保守党が勝利したら、17年末までにEU離脱の是非を問う国民投票を行うと公約。東欧からの移民増加、07~08年の世界金融危機による負の影響、11年のユーロ危機を救うための財政支出などの結果、一部の英国民や議員に反EU感情が高まっていた |
2014年5月 | 欧州議会選挙で、UKIPが英国に割り当てられた議席内の第1党に |
2015年5月 | 下院総選挙で、保守党が単独過半数を獲得 |
2016年2月20月 | キャメロン首相が国民投票の実施を表明 |
2016年6月23日 | EU離脱の是非を問う国民投票が行われ、離脱支持が51.9%(1741万742票)、残留支持が48.1%(1614万1241票)となり、僅差で離脱派が勝利した。残留キャンペーンを主導したキャメロン首相が、同24日に辞任を表明 |
2016年7月13日 | テリーザ・メイ元内相が保守党党首・首相に就任 |
2017年3月29日 | メイ首相がEU条約(リスボン条約)第50条を発動し、EUに離脱を正式通知 |
2017年6月8日 | 総選挙を前倒しで実施し、保守党は過半数割れに |
2017年6月19日 | EUと離脱交渉を開始 |
2017年12月8日 | メイ首相と欧州委員会のユンケル委員長が離脱条件で基本合意したと発表。「北アイルランドとアイルランド共和国の間に物理的な国境は設けない」、「英国在住のEU市民の権利を保障」、「未払い分担金を支払う」など。同15日、貿易協議を含む「第2段階」の交渉に進むことをEUが首脳会議で決定 |
2018年3月19日 | 2020年12月末までの 「移行期間」導入で暫定合意 |
2018年7月6日 | 首相の別荘「チェッカーズ」に集まった閣僚らは、離脱後もEUとの貿易や人の移動などについてEU規則との協調継続を受け入れる提案について合意する(「チェッカーズ合意」)。同8日、親EU過ぎるという理由からデービッド・デービス離脱相が辞任。9日、ジョンソン外相も辞任。12日、政府は離脱白書を発表 |
2018年11月15日 | メイ首相が離脱協定案を 下院に提出 |
2018年11月25日 | 英政府とEUが離脱協定案と政治宣言案に合意。協定案では「北アイルランドとアイルランド共和国の国境に関税を設けない」、「移行期間中に通関問題が解決しない場合、英国は関税同盟に事実上残留」、「未払い分担金の支払い」、「EU市民に対する権利保障」など。政治宣言案では英国とEUの協力を目指すなど |
2018年12月10日 | メイ首相が合意案の下院採決の延期を表明 |
2019年1月15日 | 下院が合意案を大差で否決 |
2019年1月16日 | 下院が内閣不信任決議案を否決 |
2019年1月29日 | 下院がEUとの再交渉を目指すメイ首相の方針を支持EUは拒否 |
2019年3月12日 | 英政府とEUが取りまとめた新たな離脱合意案を下院が否決。この合意案は、北アイルランドの国境問題を解決する「バックストップ」が一時的なものであることを入れた点で「新たな」離脱案とされた。 |
2019年3月13日 | 下院が「合意なき離脱」の回避を求める議案を可決 |
2019年3月14日 | 下院が3月29日の離脱期限を延期する政府の動議を可決 |
2019年3月21日 | EUがメイ首相の延期要請を受けて、3度目の離脱協定が議会承認されれば5月22日(23日〜26日の欧州議会選挙の前)、そうでない場合は4月12日まで離脱期限を延長すると発表 |
2019年4月10日 | EU首脳会議で最長10月31日までの離脱期限の延期を承認 |
2019年5月23〜26日 | 欧州議会選挙、英国から73人が当選 |
2019年6月7日 | メイ首相、党首を辞任 |
2019年7月24日 | ジョンソン元外相が保守党党首及び首相に就任。党首選の投票では常に1位となり、ジェレミー・ハント外相との決選投票では9万2153票を獲得。ハントは4万6656票。初演説では10月31日までに断固として離脱を実現させると公約。 翌日に初閣議 |
2019年8月28日 | 政府が9月上旬から10月中旬までの議会の閉会を発表 |
2019年9月3日 | 夏休みがあけ議会始まる |
2019年9月4日 | 離脱の3カ月間の再々延期を求める法案を可決。10月19日までに、首相がEUとの離脱協定、あるいは、合意なき離脱について下院で承認を得ることができなかった場合、来年1月31日までの延長をEUに要請することを義務化。首相による総選挙前倒し法案は否決 |
2019年9月9日 | 女王が離脱延期法案を裁可(立法化)、下院が総選挙前倒し法案を再度否決 |
2019年9月10日 | 政府が議会を閉会 |
2019年9月24日 | 最高裁が、議会閉会についての首相のエリザベス女王への助言は違法であったと結論付ける。 |
2019年9月25日 | 最高裁の判決により議会が再開 |
2019年10月2日 | ジョンソン首相が離脱最終案を提示。バックストップ案の代わりに、「北アイルランドは離脱後も農産品や工業製品の規格などでEUの規制に従う」、「規制適用の判断は北アイルランド議会が担う」、「関税ルールは、関税同盟を抜けた上で、北アイルランドを含む英国として統一」、「税関検査は国境周辺を避ける」など |
2019年10月 8日〜10日、14日 |
議会閉会。 14日に エリザベス女王による施政方針演説 |
2019年10月 17〜18日 |
EU首脳会議 |
2019年10月19日 | 離脱延期法が発動。下院の承認が取れない場合、ジョンソン首相はEUに延長を要請する? |
2019年10月31日 | 英国のEU離脱予定日 |
なかなか上がれない...BREXITすごろく
小林恭子 Ginko Kobayashi
在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社) など。
「フィナンシャル・タイムズの実力」(洋泉社)
日本経済新聞社が1600億円で巨額買収した「フィナンシャル・タイムズ(FT)」とはどんな新聞なのか? いち早くデジタル版を成功させたFTの戦略とは? 目まぐるしい再編が進むメディアの新潮流を読み解く。本連載で触れた内容に加えて、FTに関するあらゆることが分かりやすく解説されている一冊。