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Fri, 22 November 2024

ロンドン発ウェスト・エンド・ミュージカルは今が旬

ロンドンのウエスト・エンドとニューヨークのブロードウェイ・・・
世界の演劇界をリードするミュージカルの両雄。
ここしばらく、ブロードウェイに押され気味だったウエスト・エンドが今、
世界中のシアター・ゴーアーの注目を集めている。
今回はロンドン発、英国ならではの魅力に満ちた、ミュージカルを一挙にご紹介!

誰も逆らえない吸引力!?ミュージカルの二大聖地

ウエスト・エンドとは、セントラル・ロンドン内に位置する一区域、またはその地域にある劇場群のこと。「シアターランド」ともいわれるこの場所では、年間を通して数々のミュージカルが常に上演され、世界中から大勢の演劇ファンたちが集まってくる。

一方ブロードウェイは米ニューヨークを斜めに縦断する大通りのことで、演劇ファンにとってはその通り沿いにある劇場群と同義語だ。ウエスト・エンド同様、ミュージカル・ファンならずとも一度はここで観劇したいと多くの人が憧れる演劇界の中心地だ。一見華やかな演劇業界だが、実はほとんどの劇場または劇団が、慢性的な財政難に陥っている。しかしこのミュージカルの両雄は商業的に成功を収め、それぞれの国の経済にも大きく貢献しているのだ。その成功のカギはどこにあるのだろうか。

まず考えられるのが、地理的な要因だ。両者とも、劇場は小さな地域に密集している。ウエスト・エンドは約1マイル四方の小さな地域に約50、ブロードウェイには41丁目から56丁目までのエリアに約40の劇場が鈴なりに連なっている。1回の旅行で複数のショーを観劇することができるから、演劇の聖地として、世界中から観客が訪れるというわけだ。

成功の陰には天使あり!

シアターもう一つ、成功のキーといえるのが、独特な資金調達方法だ。一般的に、ショーの制作は劇団が行う。その場合、スケジュールは前もって決められ、資金もすべて準備しておかなければならない。一方ウエスト・エンドとブロードウェイにおいてショーは公演単位。その都度キャストや演出家は変わる。

まず始めにアイデアありきで、優れたアイデアが生まれたときには、「バッカーズ・オーディション」が行われる。ここでプロデューサーや劇場主、そして「バッカーズ」を募集することになるのだ。「バッカー」とは「背後(バック)」についてくれるスポンサーのことで、時には「天使」とも呼ばれる大切な存在。彼らがいるからこそ、2つの聖地では才能さえあれば成功することができるのである。

作品がヒットした場合、彼らスポンサーは莫大な配当金を手にすることができるが、失敗に終われば、儲けどころか損をすることになる。人気さえあればいつまでも上演され、客入りが悪ければすぐにクローズするのは、この独特の経済原理によるものだ。このようにさまざまな共通点をもつウエスト・エンドとブロードウェイ。しかしショーの内容はかなり異なる。それぞれのお国柄が垣間見える、それぞれの「らしさ」とは?下のコラムで検証してみよう。

検証 ウエストエンド vs ブロードウェイ

WEST END 音楽重視

音楽重視・ウエストエンドウエスト・エンドは一言でいうならば、「音楽重視のドラマチックな舞台」が特徴。派手さには欠けるが、印象的な楽曲が数多く使われ、ドラマチックにストーリーが展開していくというのが、ウエスト・エンドにおける一つの王道となっている。有名な作品としては、「キャッツ」、「オペラ座の怪人」、「ミス・サイゴン」など。ストーリーの題材も、現実社会に起こる問題を真っ向から捉えた骨太なものが多い。

Broadway ダンス重視

ダンス重視・ブロードウェイ一方、ブロードウェイは「ダンス重視の絢爛豪華な舞台」が売り。華麗で洒落たダンスが舞台狭しと繰り広げられ、とにかく楽しく夢のような別世界に観客を誘ってくれる。代表作は「42ndストリート」、「シカゴ」「クレイジー・フォー・ユー」など。厳しい現実をつかの間忘れて楽しもうというのがブロードウェイの信念ならば、事実から目をそらさず、苦しみながらも必死に生きる人々の真摯な姿をそのまま描き出すのが、ウエスト・エンドの心意気なのかもしれない。

ビリー・エリオット・ザ・ミュージカル
BILLY ELLIOT - THE MUSICAL

Billy Elliot Victoria Palace
Victoria Street, London
SW1E 5EA
06年4月1日公演分まで予約可
月~土19:30、
マチネ 木・土14:30
£17.50~50
Tel: 0870 895 5577

あらすじ 舞台は1984年、イングランド北東部ダラムの炭鉱の町。11歳の少年ビリーは、炭鉱労働者の父親と兄、そして最近物忘れが激しくなってきた祖母と一緒に暮らしていた。長期間に及ぶストライキのせいで生活は貧窮、去年母親を亡くしたばかりのビリーにとって、日々の暮らしは決して楽なものではない。そんなある日、ビリーは地元のバレエ教室のレッスンの様子を垣間見る。始めは興味本位で参加し始めたビリーだが、彼のダンサーとしての才能に気づいたウィルキンソン先生に促され、ロイヤル・バレエ・スクールへの入学を考えるように。しかしストの中心人物で昔かたぎの父親と兄は、男がバレエをやるなんてと耳を貸そうともしない。夢と現実との狭間で揺れるビリーはバレエを諦めようとするが…。

ここがウエスト・エンド! このミュージカルの一つの目玉となっているのが、米国人をして「全体の50%程度しか理解できなかった」と言わしめる北東部訛り。ごていねいにもプログラムには「Translation」というコーナーがあって、英国人向けの北東部訛り解説があるほどの強烈さだ。現在ウエスト・エンドで人気ナンバー・ワンを誇るこの舞台は、ブロードウェイへのトランスファーの要望も強いが、「米国人の役者にこの訛りはマネできない!」という英国人の声が多く、未だ実現のめどは立っていない。そしてもう一つ、米国人には理解できないといわれているのが、この舞台の背景となっている英国の労働者階級の問題だ。1984年の英国北東部では、時の首相サッチャー政権と全国鉱山労働組合との対立が激化していた。自由主義経済を推し進める政権と、1年にも及ぶストライキで対抗する労組の争いは壮烈さを極め、その間炭鉱労働者たちの生活は厳しいものになっていた。そのため劇中では、サッチャーに対する辛らつな言葉が目立つ。なかには「クリスマスを祝おう!なぜならサッチャーの死が1日近づくから」などという、知らない人が聞いたらぎょっとするようなすさまじい歌詞も。舞台を観る前に、ちょっとこうした知識を仕入れておけば、ストーリーをより深く理解できること間違いなし。

あなたはわかる?北東部訛り
Bairn:childの意味。例「He is only a bairn」
Howay:come onの意味。例「Howay, I want to show you something」
Nowt:nothingの意味。

メリー・ポピンズ
Mary Poppins

メリー・ポピンズ Prince Edward
Old Compton Street,
London W1D 4HS
06年4月1日公演分まで予約可
月~土19:30、
マチネ木・土14:30
£15~49
Tel: 0870 850 9191

あらすじ 1910年のロンドン。厳格な銀行家、バンクス氏は2人の子どもたち、ジェインとマイケルを厳しくしつけようと何人もの乳母を雇うが、誰も長続きしない。子どもたちがあらゆる手を使って追い出そうといたずらをしているからだ。バンクス氏は諦めずに厳しい乳母を探そうとするが、なぜかやってきたのは子どもたちが夢に描いたとおりの理想的な女性、メリー・ポピンズ。始めはわがままばかり言っていた子どもたちも、メリー・ポピンズや彼女の友人の煙突掃除人、バートのまわりで起こる摩訶不思議なできごとに魅了され、彼女を慕うようになっていく。仕事中毒で家族のことなど顧みなかったバンクス氏も、次第にメリー・ポピンズに感化されていき…。

ここがウエスト・エンド! P・L・トラバース原作の人気児童文学を1964年にウォルト・ディズニーが映画化。映画ではアニメと実写の合成で明るく、楽しい部分が強調されていたのに対し、舞台では原作のもつちょっとダークな雰囲気が保たれている。子ども時代のバンクス氏を厳しくしつけた乳母ミス・アンドリューがメリー・ポピンズに魔法をかけられてしまうシーンや、おもちゃを片付けない子どもたちがおもちゃに襲われるといったちょっと怖いシーンも。また、ストーリーも原作により忠実になっていて、原作ファンには嬉しい限り。もちろん、映画で使われた有名な歌はそのままだから、映画のファンにとっても見逃せない作品だ。

ウエスト・エンドの大御所 - パート1
本作品は泣く子も黙る大プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュの最新作。マッキントッシュの名前は知らなくても、「キャッツ」、「レ・ミゼラブル」、「オペラ座の怪人」、「ミス・サイゴン」といった彼の作品は誰もが1度は耳にしたはず。彼の代表作はそのままウエスト・エンドの代表作に当てはまる。彼はまた、ウエスト・エンドの7つの劇場を所有していることでも有名。彼の莫大な資金力があったからこそ、スケールの大きいウエスト・エンド・ミュージカルが数多くつくられるようになったのだ。

ウーマン・イン・ホワイト
The Woman In White

ウーマン・イン・ホワイト Palace
Shaftesbury Avenue,
London W1V 8AY
06年4月6日公演分まで予約可
月~土19:30、
マチネ水・土14:30
£17.50~50
Tel: 0870 895 5579

あらすじ 美術の先生としてフェアリー家に招かれた年若い画家、ウォルター・ハートライト。彼は屋敷へ向かう途中で、純白のドレスに身を包んだ美しい女性から声を掛けられる。「秘密がある」という謎の言葉を残して姿を消したその女性に、言い知れぬ予感を覚えるウォルター。やがて屋敷に到着すると、そこには彼の生徒となる姉妹、マリアンとローラがいた。先ほど見かけた白いドレスの女性と瓜二つのローラにびっくりするウォルターだが、やがて2人は愛し合うように。しかしローラにはサー・パーシバル・グライドという婚約者がいた。ある日、ウォルターは再びあの白ドレスの女性と出会う。「グライドには気をつけて」と言い残し彼女は去っていくが…。

ここがウエスト・エンド! キャメロン・マッキントッシュと並んで、ウエスト・エンドの演劇界を支えている名作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェバーの最新作。今作でも彼ならではのメロディアスな楽曲を存分に楽しむことができる。原作はビクトリア朝時代に英国中を熱狂させたウィリアム・ウィルキー・コリンズのミステリー、「白衣の女」。舞台装置は基本的にコンピュータ・グラフィック。コンピュータ画像が場面展開のたびに切り替わっていくという斬新な舞台は、まるで遊園地のアトラクション。オーソドックスな舞台装置を好む一部の観客には不評だったが、新しいミュージカルを観たいという人にとってはお勧め。

ウエスト・エンドの大御所 - パート2
アンドリュー・ロイド=ウェバー 音楽一家に生まれたアンドリュー・ロイド=ウェバーは、幼い頃から音楽の才能を発揮、「キャッツ」、「オペラ座の怪人」などのヒット作を次々と世に生み出した。「オペラ座の怪人」以降、いまいちパッとしなかった彼が、万全を期して発表したのが「The Woman In White」だ。音楽家としてだけでなく、実業家としても成功しているロイド=ウェバーは、「リアリー・ユースフル・ グループ」という会社を経営、パレス劇場はじめ9つの劇場を所有している。常にお金が問題となる演劇界。感性とビジネス感覚を共に併せもった彼のような才能は、なくてはならない存在だ。

レ・ミゼラブル
Les Miserables

レ・ミゼラブル Queen's
Shaftesbury Avenue,
London W1V 8BA
06年4月1日公演分まで予約可
月~土19:30、
マチネ水・土14:30
£10.00~47.50
Tel: 020 7494 5040

あらすじひとかけらのパンを盗んだことにより、牢獄に入れられていたジャン・バルジャン。19年間もの牢獄暮らしを経てようやく釈放されるが、元罪人に対する風当たりは強い。自暴自棄になったバルジャンは、食事を恵んでくれた教会から銀の食器を盗もうとするが、つかまってしまう。しかし罪を問わずにすべてを許してくれた司教に心打たれ、新たな人生を歩もうと決意する。やがて心を入れ替えたバルジャンは市民に信頼される市長に。しかしそんなある日、彼は偶然刑事のジャベールと出会う。ジャベールは仮出獄許可証を破り捨てて逃亡しているバルジャンをずっと追っていたのだ。

ここがウエスト・エンド! 仏文豪、ビクトル・ユーゴーの小説「ああ、無情」の舞台化。もともとは1980年、パリで上演されたのが始まり。その舞台を大幅に改定して1985年にロンドンで初演されたのが、現在の「レ・ミゼラブル」だ。パリ・バージョンとの一番大きな違いは、フランス革命に至るまでの過程を丁寧に描いている点。仏人ならば仏革命を誰もがよく知っているため、パリ・バージョンでは状況説明がほとんどなかったのである。プロデュースはこれまたキャメロン・マッキントッシュ。ほとんどのセリフが歌で構成されているオペラ形式のミュージカル(ポップ・オペラともいわれる)で、華美さはないが迫りくるようなスペクタクルな舞台装置は圧巻。始まりはパリとはいえ、これぞウエスト・エンド・ミュージカルという要素が満載のショーだ。

ブラッド・ブラザーズ
Blood Brothers

ブラッド・ブラザーズ Phoenix
Charing Cross Road, London WC2H 0JP
06年3月4日公演分まで予約可
月~土19:45、マチネ木15:00、土16:00
£17.50~42.50
Tel: 0870 060 6629

あらすじミセス・ジョンストンは若くして結婚、夫が蒸発した後は、貧しい生活の中、必死に7人の子どもたちを育てている。ところがそんな時にさらに双子が誕生、経済的余裕がないミセス・ジョンストンは、やむなく子どものいない雇い主のライオンズ夫人に、双子の1人を養子に差し出すことを了承する。ライオンズ夫人の下、何不自由なく育ったエディと、低所得者用住宅で雑草のように育ったミッキー。彼らはある時、偶然街で出会い、意気投合する。互いの指に傷をつけ合い、義兄弟の誓いを立てる2人。だが異なる世界に住む彼らの友情には、やがてひびが入り始める。

ここがウエスト・エンド! 1983年にリバプールで初演を行った「ブラッド・ブラザーズ」は、その後ウエスト・エンドに場所を移し、今年で16年目を迎えるロング・ラン作品だ。このショーもまた、ストーリーの骨格を成すのはビリー・エリオット同様、英国の労働者階級の厳しい現実。現在でもなお根強く残る階級問題をずっと肌で感じてきた英国人にとっては、まさにドンピシャのストーリーで、舞台の1番初めに結末が明かされるにもかかわらず、大詰めのシーンでは多くの観客が涙にくれる。またもう一つ英国人の心を捉えて離さないのが音楽。本作品の脚本、作詞、作曲を手掛けたのは、リバプール出身のウィリー・ラッセル。リバプールを舞台に、リバプールの至宝ビートルズを彷彿とさせるマージー・ビート系の音楽に彩られたこのミュージカルは、まさに英国ミュージカルの真髄なのだ。

 

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