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Tue, 19 November 2024

知っているようで知らない英国のビスケット。

英国のビスケット。

英国に来て、スーパーマーケットに並ぶビスケットの種類の多さに驚いた方も多いはず。世界で最もビスケット消費量が高いこの国は、王室から庶民まで、誰もがビスケットについて一家言あるビスケット王国だ。朝食に、紅茶のお供に、食後のスナックにと時を選ばず手軽に食せるのも人気の理由だろう。この特集では、英国を代表する昔ながらのビスケットを12種紹介するほか、クッキーとの違いや、英国で特別な位置を占める「ビスケット缶」などについて解説する。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: BBC、theguardian.co.ukfoodanddrink.scotsman.comほか

英国における紅茶とビスケットの関係

くまのパディントンやプーさんも大好きな「お茶の時間」(Elevenses=午前11時)を重要視する英国では、一緒に出されるビスケットにも紅茶と同じくらい各自の好みが反映される。そして紅茶に何回ビスケットを浸す(dunk)のが良いか、ビスケットの種類ごとの回数までまことしやかに語られるほど。ただ、紅茶にビスケットを浸す文化はそれほど古くはなく、第二次世界大戦中に誕生したといわれる。もともと産業革命のころから、労働者たちは午前11時に砂糖入りの甘い紅茶を飲み仕事を頑張っていた。しかし戦争が始まり砂糖が配給制になったため紅茶も砂糖抜きに。そこでビスケット製造業社は、消防士、救急車の運転手、爆撃を受けた市民などに向けて、紅茶と一緒に食べられる甘いビスケットを提供するようになった。

こうしてビスケットを紅茶に浸す習慣が定着し、英国人は今でもお茶の時間にお湯を沸かし始めると、反射的にビスケットの缶に手を伸ばしてしまうのだとか。最近になって、茶葉にビスケットの香りを付けたビスケット・ティーという商品が売り出されたことをみても、両者の関係は相変わらず深いといえる。ちなみに、17世紀ごろの紳士淑女たちはビスケットを紅茶ではなくワインに浸していたそうだが、これは食事の最後に出される甘いワインにスポンジ・フィンガーやラングドシャを浸していたということのようだ。

英国における紅茶とビスケットの関係

英国で人気の高いビスケット12選

昔から英国人に愛されているビスケットを中心に、スーパーマーケットで気軽に購入できる12種類を選りすぐった。見たことはあるけど食べたことがないものもあるのでは? 改めて自分の好みの味を見つけてみてはいかがだろうか。
*価格は大手スーパーマーケットのオンライン・ショップを参照

Rich Teaリッチ・ティー

Rich Tea

19世紀に英北部ヨークシャーで、上流階級向けに食事と食事の間のスナック用に開発された。昔ながらのシンプルな見た目とプレーンな味わいで、紅茶に浸すのに適したビスケット。リッチ・ティー・ビスケットの裏側にバターやジャムなどを塗ったり、砕いてタルトの土台にしたりと、お菓子の材料のような使い方ができるのも特徴。

£0.65/300g

Nice Biscuitsニース・ビスケッツ

Nice Biscuits ニース・ビスケッツ

砂糖がまぶされ、「NICE」という刻印とギザギザの縁取りが素朴でかわいらしい、プレーンまたはココナッツ風味のビスケット。サクサクとした食感で、お腹にたまらない軽さが人気。1929年の広告で「名前の由来となった町のように楽しい」という宣伝文句が謳われたことから、ナイスではなく、フランス南部の町ニースという呼び方が正しいようだ。

£0.55/200g

Jammie Dodgersジャミー・ドジャーズ

Jammie Dodgers

ラズベリー味のリンゴ・ジャムが詰まったビスケット。商品名は子ども向けアンソロジー・コミック「ザ・ビーノ」(The Beano)に登場するキャラクター、ロジャー・ザ・ドジャー(Roger the Dodger)から付けられ、子どもに人気のビスケットという触れ込みだが、消費者の70パーセントは大人なのだとか。ストロベリー、コーラなどの味もある。

£0.85/140g

Shortbread Fingersショートブレッド・フィンガーズ

Shortbread Fingers

スコットランド、もしかしたら英国のお土産ナンバー1のショートブレッド。バターたっぷりで腹持ちの良さは他のビスケットの追従を許さない。口内の水分を全て奪うポロポロとした食感は独特だが癖になる味だ。その昔パンを作ったときに、余った生地に甘みを加えてビスケットに焼き上げたのが、ショートブレッドのネーミングの由来だとか。

£1/210g

Jaffa Cakesジャファ・ケークス

Jaffa Cakes

ジェノワーズ・スポンジ、マーマレード、チョコレートの3層で構成されたジャファ・ケークスは、マクビティが1927年に発売。名前を商標登録しなかったため、他社が同じ名前で同様の製品を製造している。この商品はケーキなのかビスケットなのか、付加価値税の分類で裁判沙汰になったことも。税務上はケーキとの判決が下りた。

£1.25/10個入り

Malted Milkモルテッド・ミルク

Malted Milk

牛のレリーフが付いたレトロなデザインのビスケット。1924年に発売されて以来、さまざまな会社から同じデザインで販売されている。表面に穴を開けずにサクサク感を保つため高温で短時間焼いているので、ほろほろとした素朴で独特な口溶け感がある。濃縮されたモルト(麦芽)とミルクのバランスも優しく、紅茶やミルクとの相性も◎。

£0.65/200g

Custard Creamカスタード・クリーム

Custard Cream

クリーミーで甘いカスタード・クリームをたっぷり挟んだビスケット。表面にはバロック様式の渦巻き模様がデザインされているが、これはヴィクトリア朝時代にたくさん生えていたシダを元にしたといわれている。英国ではこのままかじったり、紅茶に浸したり、分解してクリームを先に味わったりとさまざまな楽しみ方で食べられている。

£0.65/400g

Bourbon Creamsブルボン・クリームス

Bourbon Creams

「ブルボン」とも「バーボン」とも発音されるビスケット。ネーミングはブルボン王朝のブルボンから来ているともいわれるが、真偽のほどは確かではない。チョコレート・クリームが甘味の少ないココア味のビスケットでサンドされており、1910年にロンドンのピーク・フリーズ社が発売。以来、英国で120年以上にわたり愛され続けている。

£1.30/150g

Garibaldi Biscuitsガリバルディ・ビスケッツ

Garibaldi Biscuits

味は可もなく不可もなし、まさに定番という位置付けで国内で150年以上も食べられている、スグリの実を入れ薄く焼き上げたビスケット。「ガリバルディ」という特徴的な名前は、現在のイタリアの前身であるイタリア王国成立に貢献した軍人ジュゼッペ・ガリバルディから来ている。フルーツ入りでも、紅茶に浸して食べるのが英国流。

£1.35/200g

Digestives Milk Chocolateダイジェスティブ・ミルク・チョコレート

Digestives Milk Chocolate

片面がミルク・チョコレートでコーティングされたザクザクした食感のビスケット。胃の不調を整える治療法として発明されたとされ、1892年にマクビティが消化不良を防ぐベーキング・パウダーを全粒粉のビスケットに加えたことで誕生した。チョコのコーティングのおかげで、紅茶に浸せる回数が崩れやすいオリジナルより多く楽しめる。

£1.90/266g

Ginger Nutsジンジャー・ナッツ

Ginger Nuts

ジンジャーというけれど、シナモンやナツメグなどほかのスパイスの風味も豊かなビスケット。またナッツは入っておらず、これは「ナッツの殻みたいに硬い」ところから来ているようだ。1840年代にはすでに食されており、第二次世界大戦ごろまで最も売れ行きの良かったビスケットの一つだそう。ミルク・ティーに浸すとまろやかな味わいに。

£0.65/300g

Tunnock’s Milk Chocolate Teacakesタノックス・ミルク・チョコレート・ティーケークス

Tunnock’s Milk Chocolate Teacakes

マシュマロに似た、イタリアン・メレンゲをショートブレッド・ビスケットに据え、チョコレートで薄くコーティングしたティーケーキ。甘味が強いので、濃いめに抽出した紅茶のお供にぴったり。過去に英国空軍のパイロットの間で人気のお菓子だったが、包装を解いた状態で空高く飛んだところ爆散!以来機内への持ち込みはなくなったそう。

£1.10/6個入り

英国人にもすぐに教えたいビスケットにまつわるトリビア

素朴でシンプルなビスケットだが、その歴史は奥が深い。各国で違いもいろいろあるだろうが、ここでは英国のビスケットに関する、知る人ぞ知る六つの事実をご紹介する。

ビスケットとクッキーの違い

ビスケットは2度焼きされるためサクサクした食感があり、飾りのチョコレートやクリームはサンドするか上から塗るなどの手法になる。一方クッキーは、オランダ語で「小さなケーキ」を意味する「Koekje」に由来。もともとはケーキを焼く前にオーブンの温度をテストするために作られたのが始まりだ。そのためビスケットよりやわらかく、チョコレートやナッツは練り込んで焼かれる。日本では、糖分と脂肪分が全体の40パーセント以上だとクッキーと呼ぶ。

ビスケットとクッキーの違い

「ビスケットの日」が存在する

英国では毎年5月29日が「ナショナル・ビスケット・デー」。起源は諸説あるものの、その一つは1630年5月29日生まれの国王チャールズ2世に由来する。チャールズ2世が生きた当時は英国の大航海時代にあたり、アフリカやアジアなどへ向かう際、積み込みが容易なビスケットが人気だった。船上で長期間保管しても腐敗しにくい上、乗組員たちの貴重な栄養源でもあった。硬くて頑丈だったため文字を彫ってはがきの代わりにされたという逸話も。

「ビスケットの日」が存在する

ビスケットの語源と商品名の秘密

ビスケットはラテン語で「2度調理した」を意味する「biscoctum」に由来する。一方、商品名には形にちなんだもの、味や調理法、身体に良い効果があることを強調して名付けられたものがある。ある歴史社会言語学者は、今回は紹介できなかったオートミールのビスケット、ホブノブス(Hobnobs)やキットカット(KitKat)のように、軽快な2音節の発音が、ビスケットを二つに割るような感覚を人々に与え、より効果的な商品名になると分析している。

ビスケットの語源と商品名の秘密

ジンジャーブレッド・マンはガイ・フォークス?

秋になるといろいろな店先で目に付きだす人型ビスケット「ジンジャーブレッド・マン」は、大昔はキリスト教の聖人に似せて作られていたもの。しかし1605年の火薬陰謀事以降、ボンファイヤー・ナイトでガイ・フォークスの人形が焼かれるようになり、それに合わせて次第にジンジャーブレッド・マンはガイ・フォークスの身代わりだということになっていった。人々はカトリックという「悪役」を食べることでプロテスタントへの支持を示したのだとか。

ジンジャーブレッド・マンはガイ・フォークス?

英王室メンバー、政治家の好きなビスケットは?

英国の著名人もビスケットを愛している。チャールズ国王はウェイトローズと共同でオーガニックのビスケットを販売中。ウィリアム皇太子はキャサリン妃との結婚式にてリッチ・ティーを使った新郎用のケーキを用意し、故エリザベス女王は朝食前にアール・グレイと一緒にリッチ・ティーを食べるのが習慣だった。また、ボリス・ジョンソン元首相はチョコレート・ダイジェスティブ、サディク・カーンロンドン市長はチョコレート・ホブノブスがお気に入りのよう。

英王室メンバー、政治家の好きなビスケットは?

ヒット商品を飛ばすタノックの独創性

スコットランドはショートブレッドが有名だが「、タノック」の存在も忘れてはならない。1890年にトーマス・タノック氏がアッディンストンでパン屋事業を開業し、以降家族経営で数々のヒット商品を生んできた。トーマスの息子アーチーが1952年に長期保存可能なキャラメル・ウエハースを、現在90歳のアーチーの次男ボイド(写真)がティーケーキ(→p13)を1956年に開発。おいしさはもちろんのこと、赤色のド派手なパッケージも愛されている理由の一つだ。

ヒット商品を飛ばすタノックの独創性

食べ終わっても残したい!缶入りのビスケット

英国家庭に少なくとも必ず1個はあるのが、ビスケットを入れるための缶。ビスケットの保存という本来の用途を超えた凝ったデザインが多い。ここでは取っておきたくなる缶入り商品をいくつか紹介する。

London British Shortbread Biscuitsロンドン・ブリティッシュ・ショートブレッド・ビスケッツ
Victoria Eggs

London British Shortbread Biscuits

ヴィクトリア・エッグス(Victoria Eggs)は、豪シドニーで働いていた同名デザイナーが英国に移住して始めた家庭用品ブランド。エッグスが英国生活を送るなかで感じた、活気に満ちたロンドンの街や王室などの英国らしさに影響を受けた商品が多数そろう。ショートブレッド缶には、シンプルながらロンドンのランドマークがかわいらしいイラストで表現されている。ロンドン中心部の老舗デパート、リバティでも購入可能。

£8.50/150g
www.victoriaeggs.com

Sea Salted Caramel Biscuitsシー・ソルテッド・キャラメル・ビスケッツCartwright & Butler

Sea Salted Caramel Biscuits

英北部で115年以上にわたり、ティー・タイムを格別な時間にするためのスイーツを作り続けてきたカートライト&バトラー。淡い色調にロマンチックなデザインが施されたクリップ付きの缶には、塩キャラメルたっぷりのビスケットが入っている。同社は健康のために低脂肪の食事を良しとする現代の食習慣から一線を引き、バターたっぷりでクリーミー、そしてホロホロとした食感を重視し、おいしさに対する独自の矜持を持つ。

£12/200g
www.cartwrightandbutler.co.uk

Musical Piccadilly Biscuit Selection Tinミュージカル・ピカデリー・ビスケット・セレクション・ティンFortnum & Mason

Musical Piccadilly Biscuit Selection Tin

日本でも人気の高い1707年創業のフォートナム&メイソン。行くたびに新しい商品に出合えるといっても過言ではなく、缶入りのビスケットも実にさまざまな種類がある。この缶は、ロンドン中心部のピカデリー本店の外観からインスピレーションを受けたもので、18世紀の音楽家ヘンデル作曲の「水上の音楽」が流れるオルゴールが組み込まれている。缶の中にはレモンカードやチョコレート、ジンジャーなどのビスケットが入っている。

£19.95/300g
www.fortnumandmason.com

BISCUITEERS x Harrods Gingerbread Palaceビスコッティーズ×ハロッズ・ジンジャーブレッド・パレスHarrods

BISCUITEERS x Harrods Gingerbread Palace

毎年10月ごろからクリスマス関連の商品が売り出され、ホリデー・シーズンへのカウントダウンが早々に始まる英国。デパートやスーパーマーケットからクリスマス仕様の限定ビスケット缶が多数登場する。ロンドンの老舗高級デパートのハロッズは、ジンジャーブレッドの家ならぬハロッズの建物を組み立てるジンジャーブレッド・パレスを発売。組み立てる楽しさと英国の伝統的な製法である2度焼きのビスケットの味が堪能できる。

£40/600g
www.harrods.com

特別なときに出るノベルティー缶

英国では国や王室の記念行事がある際に、各メーカーがこぞって缶入りビスケットを販売する。故エリザベス女王の在位60周年を祝ったダイヤモンド・ジュビリー記念の缶や、201年のロンドン五輪開催記念、将来の国王ジョージ王子の誕生を祝った缶など、コレクションされることを念頭に置いた特別感漂うデザインのものも多い。

特別なときに出るノベルティー缶

今から10年前の2013年にM&Sから発売された、ジョージ王子の誕生を祝うノベルティー・ビスケット缶には、通し番号のプレートが付いているものと付いていないものがある。プレート付きは現在2000ポンド近い値がついているとか!このようにまるで記念コインのような扱いのビスケット缶だが、日本へのお土産にも喜ばれるので、店頭で目にしたときは買ってみても損はないはずだ。ただ、家にどんどん缶が溜まっていくことや、肝心の中身はたいていショートブレッドであることは加えておきたい。

特別なときに出るノベルティー缶

 

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