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Fri, 20 December 2024

特徴的なデザインにも注目ロンドンの有名デパート5選

ロンドンの有名デパート5選

名の知られた老舗デパートが点在するロンドン。プレゼントやお土産を探しに訪問したきりで、しばらく足を運んでない場所もあるかもしれない。今回は、建築様式に特徴があり、興味深いエピソードもあるデパートを5つ取り上げ、改めて訪れてみたくなるようなうんちくをまとめた。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)
参考: www.bbc.co.ukwww.theguardian.comwww.forbes.comhttps://bifmo.furniturehistorysociety.org ほか

近年目まぐるしく変貌を遂げている1. Harrods ハロッズ

Harrods

チャールズ・ヘンリー・ハロッドが1834年に創業し、49年に現在のロンドン西部ナイツブリッジに移転。特徴的な「Harrods」のロゴは1967年に誕生した。衣料品、アクセサリー、食料品、電子機器などの店舗やレストランのほか、不動産業も行なっている欧州最大級のデパートだ。なお、ロイヤル・ワラントは2001年に有効期限が切れ、現在は保持していない。

Episode 1本当になんでもそろったデパートだった

ハロッズの株式の裏面に描かれた店舗情報ハロッズの株式の裏面に描かれた店舗情報

デパートのモットーはラテン語の「Omnia Omnibus Ubique」(あらゆる場所の全ての人に全てものを)。かつて存在したペット・ショップ部門では、1976年まで仔象やワニ、ラクダなどのエキゾチックな動物を販売。また、宝石付きの高級サンダルを展示した際、警備としてショーケースにコブラを投入した。

Episode 2ロンドン初のエスカレーターを導入

「動く階段」と銘打ち、編まれた革がベルトコンベアのように動くエスカレーターを1898年に設置。当時の客には驚きに満ちた体験だったようで、乗った後の心を落ち着かせるために階上にてアルコールが振る舞われたのだとか。1939年に12基、80年代に現在の16基に増え、2016年に最新のものに置き換えられた。

Episode 3モハメド・アルファイドという男

アルファイド氏によって「無実の犠牲者」(Innocent Victims)と名付けられた2人の像アルファイド氏によって「無実の犠牲者」(Innocent Victims)と名付けられた2人の像

現在はカタールの政府系ファンドが同店を所有しているが、2023年8月に亡くなったエジプト出身の実業家モハメド・アルファイド氏が前オーナーで、1997年にダイアナ元妃とパリで事故死したのが当時恋人だった息子のドディ。アルファイド氏は2005年に追悼碑として2人の銅像を館内に設置したが、オーナーが代わり、2018年に同氏に返還された。

ニュースダイジェスト的建築ポイントリノベで消えつつある内装を見逃すな!

近年消える可能性のある中央のエスカレーター・ホール近年消える可能性のある中央のエスカレーター・ホール

アルファイド氏の経営により業績を数倍に上げた一方で、同氏の個性が意匠に色濃く反映されてきた過去数十年。その代表がエジプト風のデザインを施したエスカレーター・ホールだ。「自国の文化を讃える」ため、1991年から2度にわたってデザイナーのウィリアム・ミッチェルによる精巧な装飾がなされ、地下1階から5階を埋め尽くすようにエジプトの荘厳な世界観が完成した。

大規模なリノベが行われたチョコレート・ホール大規模なリノベが行われたチョコレート・ホール

しかし2010年に現オーナーが就任して以来、「1900年代初頭の原型を最新技術を織り交ぜながら復活させる」という動きが生まれ、16年ごろからリノベーションが進行。建物が指定建造物のGrade IIに選定されているため難しい作業が続くものの、照明の変更、メイン・エントランスのエスカレーター・ホール、ファサード、アール・デコ様式に基づいたフロアの改装がすでに完了。まだあるうちに今の姿を目に焼き付けておきたい。

Harrods
87–135 Brompton Road SW1X 7XL
Tel: 020 7730 1234
月〜土 10:00-21:00
日 11:30-18:00(12:00 から購入可能)
www.harrods.com

意外とアナーキー?芸術を愛する人のための店2. LIBERTY リバティ

LIBERTY リバティ

オックスフォード・サーカス駅にほど近い、ショッピング街にあるデパート。遠方からの贅沢品や織物を積んだ船をイメージし、アーサー・ラセンビー・リバティが1875年に日本人3名を含む従業員5名で創業した。ハイエンドと新興のブランドの紳士服や婦人服、子ども服を扱うほか、美容品、家庭用品も販売している。

Episode 1リバティが生地に強い理由

1888年5月の夏用カタログ1888年5月の夏用カタログ

創業者のアーサー・リバティ氏は、服地店での見習いやショールと外套の専門店で働いた経験から、生地に関する技能的で深い知識を身に付けていた。リバティの前身である店「イースト・インディア・ハウス」で極東から仕入れた装飾品や織物を販売しつつも、既存品ではない新しいものづくりを推進。輸入した無染色の布を英国内で東洋式に染色した生地が大ヒットし、現在、同デパートの看板商品である「リバティ・プリント」の礎を築いた。

Episode 2家具とアーツ・アンド・クラフツ運動

1898年製のビューロー「ウェセックス」(Wessex)1898年製のビューロー「ウェセックス」(Wessex)

立ち上げから1914年ごろまでリバティでは独自の家具が作られていた。そのデザインは時代に合わせ流動的だが、粗悪な大量生産品から離れ、手工芸を日常生活に取り戻す「アーツ・アンド・クラフツ運動」に触発された1890〜1903年ごろの家具は特に有名。手間隙のかかる工芸品を商品としてなるべく多く販売すること、また芸術品でありながら耐久性に優れた構造であることを実現できた多くの並外れた職人を抱えたリバティだからこそ可能だった。

Episode 3日本で作られた銀細工も販売

武蔵家大関定次郎による1893年製の純銀製のティー・スプーンとシュガー・トング武蔵家大関定次郎による1893年製の純銀製のティー・スプーンとシュガー・トング

リバティでは極東からの輸入品を扱っていたが、その中には同店から依頼を受けた明治期の日本の職人によって作られた純銀製の商品も含まれていた。1876年の廃刀令によって打撃を受けた彫金職人たちは、生き残りをかけ西欧への輸出品に力を入れるようになり、神奈川県の横浜には輸出に特化した美術品専門店が数店あった。桜や貝など日本らしいモチーフを取り入れたティー・スプーンなどのカトラリーは英国人を深く魅了した。

ニュースダイジェスト的建築ポイントアーツ・アンド・クラフツ運動に支えられた職人魂を見よ!

船で使われていたガラス絵船で使われていたガラス絵

残念ながら創業者のリバティ氏は完成を待たずこの世を去ってしまったが、現在のチューダー様式の建物が完成したのは1924年。当時、君主が所有する公的不動産「クラウン・エステート」が、リージェント・ストリートに面した建物を古典的なファサードが特徴のボザール様式にするよう命じ、元々イースト・インディア・ハウスであった部分はこの制約を守らなければならなかった。しかし、裏手のグレート・マールボロ・ストリートの建物は自由所有権が認められていたため、厳格な都市計画に対するリバティの反骨心とデザインに対する野心を全面的に打ち出していく。HMSインプレグナブル(HMS Impregnable)とHMS ヒンドゥスタン(HMS Hindustan)の2隻の大型船に使われた木材と、英南部ドーセットの採石場から切り出された石を使い、ギルドの優れた職人技術をもって完成した。

4階の吹き抜けの手すりの動物像4階の吹き抜けの手すりの動物像

店内にはオランダ生まれのデルフト・タイルを張った暖炉を設置。そこに家具やカーペットを置くことで実際の部屋にいる感覚を呼び起こし、客の購買意欲を掻き立てたという。また、窓枠は鍛冶場で一つひとつ丁寧に仕上げたフレームを使ったり、船で使われた窓をそのまま嵌め込んだりと、かつての意匠をそのまま利用した粋な計らいも見られる。一方遊び心が感じられるのは、建物中央部の吹き抜けにある木彫りの動物像。中世の寓話に登場する生物からヒントを得たもので、夜になると動き出すという伝説もあるらしい。建物は指定建造物のGrade IIに選定されている。

LIBERTY
208-222 Regent Street W1B 5AH
Tel: 020 3893 3062
月〜土 10:00-20:00
日 11:30-18:00(12:00 から購入可能)
www.libertylondon.com

デパートの概念を変えた改革派3. Selfridges & Co セルフリッジズ

Selfridges & Co セルフリッジズ

旗艦店のオックスフォード・ストリート店はハロッズに次いで国内2番目の売り場面積を誇る大型デパートで、英北部マンチェスターや英中部バーミンガムにも支店がある。1909年にオープンしたが、環境保護やマインドフルネスの促進など時代の潮流に合わせたキャンペーンを積極的に実施しており、小売業を超えて幅広く社会に貢献している。

Episode 1米国流の革新的なマーケティング

ハリー・ゴードン・セルフリッジハリー・ゴードン・セルフリッジ

創業者は米国出身のハリー・ゴードン・セルフリッジ氏。シカゴの老舗デパートを一躍有名にした小売業のプロであるセルフリッジ氏が休暇でロンドンに来たのは1906年のこと。市内のデパートに勢いや競争心がないことに驚き、ここで事業を始める決意を固めた。コンセプトに「ドラマと体験」を据え、レストランや屋上庭園、読書室、外国人観光客用の受付エリアなどの施設を整備。スタッフにも独自の販売技術を徹底的に仕込み、一躍有名デパートとなった。

Episode 2女性が安心できる社交場

現在も男女問わず多くの人々が「遊びに」に行く現在も男女問わず多くの人々が「遊びに」に行く

単なる買い物の場ではなく、「目的地」として格上げさせたセルフリッジ氏の貢献により、同店は多くの女性に待ち合わせ場所として使われ、後に男性の付き添いなしで女性たちが食事を楽しめる店内レストランもオープンした。また、当時女性参政権を主張していたサフラジェットが店舗に危害を加えた場合にもその告発を拒否するなど、徹底的に女性に寄り添った経営を進めた。マイノリティーに耳を傾ける精神は、現在も引き継がれている。

Episode 3ショッピングはエンタメだ!

2021年、持続可能なビジネスへ転換する取り組みを楽しげなネオン・サインで表現した2021年、持続可能なビジネスへ転換する取り組みを楽しげなネオン・サインで表現した

数々の作品の舞台になり、創業者セルフリッジ氏を主人公に据え、同デパートにおける人間模様を描いたドラマ・シリーズ「ミスター・セルフリッジ」(Mr Selfridge)も2010年代に英米でヒット作になった。一方、店舗が2009年に創業100周年を迎えたとき、エスカレーター上でキャバレー、店内でファッション・ショーなど、大々的なイベントが開催された。店舗もまるでフィクションかのように楽しさに満ちあふれており、エンタメに特化したデパートのようだ。

ニュースダイジェスト的建築ポイント古典×最新建築の組み合わせと支店のデザインの奇抜さ

旗艦店は古典的なボザール様式の地下3階を含む5階建てで、当時英国ではまだ珍しかった鉄骨フレームを使用。設計を担当したのは、米ニューヨークにある三角形のフラットアイアン・ビルなどを設計した有名米建築家で、都市デザイナーのダニエル・バーナム。バーナムの設計は、外見は石造りで古典的な印象を人々に与えつつ、内部は最新の鉄骨構造というユニークな特徴があった。第一次世界大戦の影響で、近代建築の導入が1930年代に入ってからとなった英国にとって、革新的なデザインであったに違いない。

正面入り口の上にある時計「クイーン・オブ・タイム」正面入り口の上にある時計「クイーン・オブ・タイム」

1930年には、現在も時を刻み続ける象徴的な時計「クイーン・オブ・タイム」がセルフリッジズのオープン21年を記念し設置された。船首を模した台座の上に高さ3メートルの女王の像が立ち、その頭上には二つの大きな文字盤がある。まだ携帯電話がない時代には待ち合わせ場所として多くの人に利用された。

バーミンガムのセルフリッジズバーミンガムのセルフリッジズ

斬新な建築は旗艦店にとどまらず、英中部バーミンガム店でも採用されており、2003年の完成時には同地の新たなランドマークができたとして大きな話題を呼んだ。外観は緩やかに湾曲した宇宙船のような形で、1万5000枚の円状のアルミニウム製ディスクでびっしりと覆われており、まるで蛇の鱗のような見た目だ。この建物が誕生して以来、古くから工業都市として知られる同地では、市民図書館などの公的機関が現代建築への転換を積極的に始めるようになった。街の人々の意識をも変えた未来的な建物は一見の価値がある。

Selfridges & Co
400 Oxford Street W1A 1AB
Tel: 0800 123 400
月〜金 10:00-22:00
土 10:00-21:00
日 11:30-18:00
www.selfridges.com

英国の食文化を底上げした4. Fortnum & Mason フォートナム&メイソン

クリスマスの時期が近づくと外壁にアドベント・カレンダーが映し出されるクリスマスの時期が近づくと外壁にアドベント・カレンダーが映し出される

かつて、バッキンガム宮殿で使われたろうそくの燃えさしを販売することに始まり、1707年にロンドン中心部のピカデリーにて開業したデパート。現在は紅茶やビスケットなどの高品質な食品や、ティー・セットをはじめとするテーブルウェアや文房具といったライフスタイル用品を販売している。オー・ド・ニル(Eau de Nil)と呼ばれるアイコニックなブルー・グリーンを基調にした上品なパッケージは、英国御用達の名に相応しい高価で良質な商品ばかりを販売してきたと思わせる。

だが実は同店は今でこそ当たり前になった調理・盛り付け済みの料理「レディ・ミール」の元祖となった食品開発を進めたり、イングリッシュ・ブレックファストに欠かせないハインツのベイクド・ビーンズの缶詰を英国に広めたりと、現在の英国市民の食生活を形成するように一役買った。

ニュースダイジェスト的建築ポイント訪れる人をより長く滞在させる仕掛けに注目

1920年代に、ネオ・ジョージアン様式を採用した現在のピカデリー本店に移転。ネオ・ジョージアン様式とはジョージアン様式のリバイバルのことで、18世紀ごろ、限られた土地に複数の人間が同時に効率的に暮らせる、テラス・ハウスやタウン・ハウスと呼ばれる集合住宅が発達した。直線的、左右対称を基調としたシンプルな構成を特徴とする。

フォートナム&メイソンの正面入り口と時計フォートナム&メイソンの正面入り口と時計

ファサードには、1964年に設置されたかわいらしい時計がある。ロンドンのアイコンであるビッグ・ベンと同じ鋳造所で製造された18個の鐘を備えたもので、15分ごとにメロディーが鳴り、毎正時には鐘と同時に人形が現れる。時間に余裕があれば立ち止まって耳を澄ませてみてはいかがだろうか。

店内の1階にはカーペットが敷かれているが、これは客に特別な気分を味わってもらうことのほか、歩みを遅くさせ買い物により時間をかけてもらう効果があるそう。

Fortnum & Mason
181 Piccadilly W1A 1ER
Tel: 020 7734 8040
月〜土 10:00-20:00
日 11:30-18:00(12:00 から購入可能)
www.fortnumandmason.com

中流階級の生活に潤いを与えた5. Heal’s ヒールズ

Heal’s ヒールズ

家具の老舗デパートのヒールズは、1810年に羽毛を加工する会社として設立された後、ベッドやベッド・フレームなどの寝具や家具の販売を開始した。1818年にロンドン中心部トッテナム・コート・ロードへ移転。2023年に店舗を拡大し現在に至る。同店の成長を支えたのはデザイナーのアンブローズ・ヒール氏。1890年代当時、同店はバロック様式やアジアなどにインスパイアされたクイーン・アン・スタイルなどを標準モデルとして扱っていたが、ヒール氏は突如オーク材を使った直線的で丈夫な家具やベッドをデザインし始める。

当時流行っていたアーツ・アンド・クラフツ運動に逆行するかのようなデザインのため、「刑務所のベッドのよう」と揶揄されたこともあったが、後に出品した美術工芸展示協会にて好評価を得た。シンプルで丈夫なベッドは中流階級の人々の生活に多く取り入れられた。

ニュースダイジェスト的建築ポイントロマンチックな螺旋階段と猫の銅像

正面入り口から照明売り場を通った先にある螺旋階段は必見。ヒール氏は、いとこで親友でもあった建築家セシル・ブリューワーに、20世紀の近代にふさわしい建物を設計するよう依頼した。ブリューワーは1916年に優美な螺旋階段を設計。第二次世界大戦後に階段の端にライトが灯されるようになり、2013年の改修工事にて特注のシャンデリアが追加された。

2023年11月現在上階は改修中。1階から見上げてみよう2023年11月現在上階は改修中。1階から見上げてみよう

また、階段を上がるときにもう一つ注目したいのが窓辺に置かれた猫の銅像だ。触れる者の願いをかなえてくれるというこの像には逸話がある。ディズニー映画「101匹わんちゃん」の原作者の英小説家ドディ・スミスが、かつてヒールズでアシスタントとして働いていた時期があり、そのとき顧客に誤ってこの像を販売してしまったそう。ヒール氏は顧客に「ヒールズのマスコット。非売品」と書いた手紙を送り、返してもらったのだとか。

1925年にヒール氏が仏彫刻家から購入した猫の銅像1925年にヒール氏が仏彫刻家から購入した猫の銅像

Heal’s
196 Tottenham Court Road W1T 7LQ
Tel: 020 7636 1666
月〜土 10:30-19:00
日 12:30-18:00
www.heals.com

 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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