扉を開き、街を祝うOPEN HOUSE FESTIVAL 2025年9月13日(土)~21日(日)
毎年恒例の「オープン・ハウス・フェスティバル」が、今年も8日間にわたり開催される。歴史的建物やデザイン建築の扉が開かれ、普段は立ち入れない空間を自由にめぐることができる貴重なイベントだ。建築ツアーも行われ、街歩きをしながら建物や暮らしの息づかいを感じられる特別な体験が待っている。今回はその中から、歴史と現代が交錯するシティ・オブ・ロンドンに焦点を当て、教会や市場、モダンなオフィスまで、多彩な空間を紹介していこう。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)
参考: www.openhouse.org.uk、www.thecityofldn.com
オープン・ハウスって?
オープン・ハウス事務局は、「ロンドンという街の魅力を市民にもっと知ってほしい」という志の下、1992年にスタートしたチャリティー団体だ。公式サイトでは、今年公開されている建築作品の基本情報を確認できるほか、あらかじめ予約が必要な建物なども、同サイトから予約できる。
www.openhouse.org.uk
シティ・オブ・ロンドンとは
ロンドンの中心に広がる特別区で、その面積はわずか約2.9平方キロ・メートル。にもかかわらず、この小さな街区はロンドンの起源そのものであり、現在に至るまで都市の発展を支えてきた。紀元1世紀にローマ人が築いた「ロンディニウム」がこの地の始まりで、中世には商人や職人のギルドが集まり、欧州随一の商業都市として栄えた。今日では世界有数の金融街として知られ、銀行や証券会社の本社が立ち並ぶ一方、セント・ポール大聖堂やギルドホールといった歴史的建築も数多く残されている。さらに近年は「チーズグレーター」や「ガーキン」といった愛称で親しまれる個性的な高層ビル群が加わり、過去と現代の建築が文字通り肩を並べる、独特の景観を形作っている。
シティ・オブ・ロンドンで見られる 12のお勧め建築
オープン・ハウス・フェスティバルでは、歴史と現代が交錯するシティを舞台に、普段は入ることのできない空間を訪ね歩くことができる。街を歩けば、重厚な石造りのホールから最先端のガラス建築まで、時代を超えて息づくロンドンの姿に出会えるだろう。その代表的な場所を紹介しよう。
01Leadenhall Market レドンホール・マーケット
最寄駅:Monument / Bank / Aldgate
ローマ時代から商業の拠点であった、象徴的なヴィクトリア朝時代の屋根付きマーケット。現在の華麗なガラス屋根の建物は1881年に建設された。設計は、ビリングスゲート魚市場やスミスフィールドの食肉市場も設計したホレス・ジョーンズ。今日では、40以上の有名ブランドや飲食店が軒を連ねるが、かつてはスミスフィールドと肩を並べる食肉・鶏肉市場として栄えた。2012年のロンドン五輪では、マラソン競技のコースの一部に組み込まれ、選手たちはマーケットの中を駆け抜けた。
02Temple Church テンプル教会
最寄駅:Temple / Blackfriars
12世紀にエルサレムへの巡礼者を守るために設立されたテンプル騎士団によって建立された、ロマネスク様式の教会。円形部分と内陣の二つの部分はエルサレムの聖墳墓教会を模しており、中世建築の貴重な遺構となっている。後にセント・ポール大聖堂をはじめとした数々の建築で知られるクリストファー・レンが修復を手がけ、ゴシックとルネサンス様式が融合した独特の姿に。法曹界の象徴ともされている。
03Middle Temple Hall ミドル・テンプル・ホール
最寄駅:Temple
1562年に着工し74年に完成した法曹院のホール。堂々としたダブルハンマービーム屋根、開放的な炉床、エリザベス1世が寄贈したと伝わるハイテーブルなどが特徴。78年には女王自身が訪れ、1602年にはシェイクスピアの「十二夜」が初演された歴史を持つ。現在も法曹院の象徴的建物として、ホールや図書館が一般公開されている。
04St Mary-le-Bow セント・メアリー・ル・ボウ教会
最寄駅:St Paul’s/Bank
1080年が起源の教会だが、1666年に起きたロンドンの大火によって焼け落ち、クリストファー・レンに再建された。鐘楼のボウ・ベルはかつて1日の終わりを告げる唯一の「門限の鐘」として、ロンドン市民になじみ深いものだったが、空襲で鐘が落下し、第2次世界大戦後に建築家のローレンス・キングによって再建された。伝承では、この鐘の音を聞こえる範囲で育った者こそ真のロンドンっ子「コックニー」と呼ばれるのだという。
05Founders' Hall ファウンダーズ・ホール
最寄駅:Farringdon / Barbican / St. Paul's / Moorgate
1365年に創設された真鍮や合金職人のギルド、ファウンダーズ・カンパニーの建物。ホールはアーツ・アンド・クラフツ、ポストモダン様式が独自に融合した建築だ。外観は特徴的な切妻の出窓、テラコッタ・パネル、金属製の格子が特徴で、内部は儀式用の階段、華麗な客間、そして印象的な円窓から光が差し込むリバリー・ホールを備えている。
06Dr Johnson’s House ドクター・ジョンソン邸
最寄駅:Chancery Lane / Blackfriars
18世紀初期に広場の名前の由来となった毛織物商リチャード・ゴフによって建てられた、5階建てのクイーン・アン様式のタウンハウス。この家の最も有名な借家人は、サミュエル・ジョンソン(1709~84年)だろう。辞書編纂者で警句家のジョンソンは約11年間(1748~59年ごろ)この家に住み1755年に「英語辞典」を編纂した。建物は第2次世界大戦の空襲にも焼け残り、オリジナルの羽目板や階段を見ることができ、ジョンソンの残した工芸品も展示されている。中庭にはジョンソンの愛した飼い猫ホッジの銅像がある。フェスティバル期間中は18世紀衣装での体験イベントも開催。
07Marx Memorial Library & Workers' School マルクス記念図書館&労働者のための学校
最寄駅:Farringdon
1738年にウェールズ慈善学校として建設された、グレードII指定の建造物。1933年以来、マルクス主義と社会主義に焦点を当てた図書館として利用されている。後に社会主義国家を建設した革命家レーニンは、亡命中の1902年から1年間ここで勤務し、ロシア社会民主労働党の機関紙「イスクラ」を編集した。その執務室は今も保存されている。1階には同時代の英画家ジャック・ヘイスティングスによるフレスコ画が残るほか、15世紀後半に作られたトンネルもある。史跡を巡るツアーも随時実施。
08Smithfield Market スミスフィールド・マーケット
最寄駅:Farringdon / Barbican
スミスフィールド・マーケットはヴィクトリア朝様式の建物が2棟、1960年代に建てられた建物が1棟の計3棟の建物で構成されており、いずれもグレードII指定建造物だ。このマーケットはロンドン市に残る唯一の卸売食肉市場で、月~金曜日に営業している。建物の東側には見学ルートが設けられ、両端にスタッフが常駐。見学ルート沿いには家族経営の各店舗に関する情報や市場文化を伝える展示があり、自由に楽しめる。このマーケットは2028年にはビリングスゲート魚市場とともにロンドン北東部の郊外ダゲナムへの移転が決まっているので、今のうちに見学しておきたいもの。
09Barts Pathology Museum バーツ病理学博物館
最寄駅:Barbican / St. Paul's
セント・バーソロミュー病院の敷地内にあり、クイーンズ・メアリー大学医学部と歯学部の一部である、グレードII指定建造物の医学博物館。医学生が使用する解剖標本を収蔵するために1879年に建設され、現在でも使用されている。そのため、通常一般公開されることはほとんどない。コレクションには首相スペンサー・パーシヴァルを暗殺し1812年に絞首刑となったジョン・ベリンガムの頭蓋骨をはじめ、珍しい疾患の標本など約5000点の医学標本が収蔵されている。
10Museum of Transology トランソロジー博物館
最寄駅:Liverpool Street
トランスジェンダー、インターセックス、ノンバイナリーの人々から寄贈された品々を収蔵するユニークな博物館。収蔵品の多くは、トランスジェンダーの日常生活や活動にまつわるもの。こうした収蔵品から、「空間」「プライバシー」「身体性」といったテーマを問い直し、社会的な視点での建築・都市文化を考える場を提供する。建築デザイナー兼展示デザイナーであるスカー・バークレー氏が関連ワークショップも開催。
11The Leadenhall Building(The Cheesegrater) チーズグレーター
最寄駅:Bank / Monument / Liverpool Street
2014年竣工、ロジャース・スターク・ハーバー+パートナーズ設計の超高層オフィスビル。断面がチーズおろし器に似ていることから「チーズグレーター」の愛称で呼ばれる。スリムに後退する外形はシティのスカイラインに調和しつつも存在感を放つ。
1230 St Mary Axe(The Gherkin) ガーキン
最寄駅:Aldgate / Liverpool Street
2004年に完成したノーマン・フォスター設計の高層オフィスビル。ねじれながら上昇するような独特のフォルムは「ガーキン」(きゅうり)の愛称で親しまれる。環境性能にも配慮され、自然換気システムを取り入れた革新的なデザインで、シティの新しいランドマークとなった。
ウォーキング・ツアーWALKING TOUR
Roman London walk
古代ローマ人の暮らしをひもとく
古代ローマ人がロンディニウム(ロンドン)の街を建設した理由や、当時の交易の模様などを、現在では美しい庭園となっているローマ浴場跡、第2次世界大戦中の爆撃で発見されたミトラス神殿などを見学しながら学ぶガイド・ツアー。1800年前、街を守っていたローマ時代の城壁の原型を眺め、ローマ人がいかに暮らし、働き、遊んだか、その魅力的な歴史に触れることができる。
2025年9月13日(土)、14日(日) 14:30~15:30 要予約
Empire City walking tour
大英帝国の始まりを探る
大英帝国を理解するには、まずはシティ・オブ・ロンドンを散策するのが良いだろう。テムズ川沿いに集合し、そこから銀行や保険会社など、大英帝国を築いた企業が集まっていた場所をたどり、建築を手がかりにその始まりを探るツアー。記念碑や案内板はなくとも、「スクエア・マイル」(シティの別名)そのものが雄弁に語りかけてくれる。
2025年9月13日(土)、15日(月) 10:30~12:00 要予約
Internet infrastructure of London walking tour
インターネット・インフラをたどる
現代の都市生活に欠かせないインターネット。そのインフラを都市空間の中に探しながら歩くツアー。研究者でありアーティストでもあるガイドとともに、交通や通信のために設計された建築が、いかにして現在はインターネット接続を支えているのかを学ぶ。マンホールの下、街灯の上、何気ない建物の裏側など、普段は目に見えないネットワークの痕跡を読み解きながら街を歩く。
2025年9月14日(日)、21日(日) 10:30~12:30 要予約
Word of mouth: London’s churches, pubs and press walking tour
口コミが生んだ街: 教会・酒場・出版
説教、うわさ話、そして印刷物。ロンドンの精神を形作ったのはそうした「言葉の力」だった。かつて新聞社の集まっていたフリート・ストリートからストランドを歩く約2時間の散策では、街を動かした独自のコミュニケーションの三角地帯、教会・パブ・印刷所を訪ね歩く。人々が祈り、議論し、酒を酌み交わし、物語を共有した場所は、当時の「ソーシャル・ネットワーク」でもあった。
2025年9月19日(金) 10:30~12:30 要予約