(本誌編集部: 長野 雅俊)
大英帝国勲章4等勲爵士 (OBE)
欲求不満の初老コメディアン
ジョナサン・ロス
Jonathan Ross
テレビ司会者、49歳
ユーモアのセンスが社会的に高く評価される英国では、現役コメディアンだって立派な受勲対象になる。でも、だからってこの人に国として名誉を授けなくてもいいんじゃないか。
「放送事業に対する貢献」を認められて、大英帝国勲章を受勲した年のわずか3年後。コメディアンのラッセル・ブランドと出演したラジオ番組で、俳優アンドリュー・サックスの自宅の留守番電話に「あんたの孫娘とHした」とのメッセージを残して視聴者から抗議が殺到し、3カ月の謹慎処分に。また過去には、大女優のグウィネス・パルトローに向かって、これまたあからさまに「Hしたい」と発言し、やっぱり抗議を受けちゃった。「あんたの頭の中には『H』しかないのか」と溜め息が漏れてしまうほど、欲求不満の塊。50歳間近のおじさんとしてはあまりに思慮に欠け、大人気ない行為ばかりを繰り返すこの人ほど、受勲者としての資質に欠けている人もそういるまい。放送業界に貢献しているというより、性のはけ口として放送事業を悪用しているように見受けられる受勲者である。
大英帝国勲章2等勲爵士 (DBE)
本物の女王も認めたSMの女王
ヴィヴィアン・ウエストウッド
Vivienne Westwood
ファッション・デザイナー、58歳
大英帝国勲章の中でも高位の勲位を受勲した女性に対してのみ使用される「デイム」の敬称が、ヴィヴィアン・ウエストウッドの名に初めて付けられたときの衝撃はいかほどか。何しろ、「反逆性」「アバンギャルド」を体現する「パンクの女王」として恐れられてきたデザイナーである。それを何を血迷ったか、体制側の頂点に立つ本物の女王が勲位を与えたのだから、非常にポスト・モダンな世の中になったものだ。ともかく、「デイム・ヴィヴィアン・ウエストウッド」は、「保守的な革命」「優雅な反抗」といった表現と同じくらい、大きな矛盾を抱え込んだ呼び名であることには違いない。
念のため、略歴をおさらい。厳格かつ偽善的なヴィクトリア朝の価値観がまだ色濃く残っていた1970年代の英国で、「SEX」という身も蓋もない名を持つショップを開店。鎖や安全ピンのアクセサリーや引き裂かれたシャツなど、いわゆる「ふさぐ」「縛る」「痛めつける」といった屈折した性を扱う卑猥なデザインを手掛けてきた。そんなSMの女王が、この国では本物の女王に表彰されるんだ。ふーん。
大英帝国勲章5等勲爵士 (MBE)
身内びいきされたじゃじゃ馬
ザラ・フィリップス
Zara Philips
王室メンバー、28歳
英国には、「准男爵」や「バス爵位」を始め、様々な種類の勲章が存在している。その中で、私たち日本人にもお馴染みの有名人に与えられることが多いのが、「王家や政治家、または軍人といった一部の人々だけではなく、広く市井の人々に与えることのできる名誉を創設しよう」という趣旨の下で生まれた大英帝国勲章。なのにこの勲章を、エリザベス女王の長女であるアン王女の長女、つまりは女王の孫娘であるザラ・フィリップスに与えてしまった。確かに欧州選手権や世界選手権で優勝を飾ったほどの馬術の腕を誇るとはいえ、結局は祖母が孫に授ける名誉なんだから、身内びいきもいいとこだ。
しかもこのザラ・フィリップス、かつては出来そこないの素行不良娘としてよく知られていた。舌ピアスするわ、公衆の面前で恋人と殴り合いのケンカを披露するわ、一時は「王室の反逆娘」と呼ばれた人物である。女王とはいえ、血の通った人間。出来がどんなに悪くても、孫はかわいく見えてしまうということなのだろうか。
大英帝国勲章2等勲爵士 (DBE)
本物と偽物の女王の違いとは
ヘレン・ミレン
Helen Millen
女優、64歳
「カレンダー・ガールズ」を始めとする数々の名作映画に出演し、日本でも広く知られるヘレン・ミレンは、英国の女王を演じさせたらピカイチの女優である。「クイーン」でエリザベス2世を演じ、人気ドラマ「エリザベス1世 〜愛と陰謀の王宮〜」でも主役を務めて、見事に女王のワン・ツー・フィニッシュを決めている。
確かに女王然としている彼女こそが勲位に相応しい、とするのは、しかし早合点。まあ、30代半ばまでコカイン吸引していたという事実は、薬物使用について割と寛容な英国においては消しゴムで簡単に消せる過去として処理しよう。だが、女王から招待された夕食会を「忙しい」ことを理由に断っちゃいけない。1996年に3等勲爵士の勲位が与えられた際に、これを辞退してもいけない。さらには、2003年にそれより一つランクを格上げした2等勲爵士の受勲対象者となってから、ありがたく受け取るような現金さを見せちゃ駄目だ。そんな無礼者にも栄誉を与えるエリザベス2世の懐の深さに、本物と偽物女王ヘレン・ミレンの違いが現れているのかもしれない。
大英帝国勲章4等勲爵士 (OBE)
人格についてはいまだ勲位も星もなし
ゴードン・ラムジー
Gordon Ramsay
料理人、44歳
言わずと知れた舌鋒鋭い、というか口汚い料理人。元サッカー選手として培った体育会系の精神は、同じく不合理な先輩たちが支配する料理人の世界で弾けた。スタッフを怒鳴りつけたり、侮辱や中傷なんてことは、料理人だけに朝飯前。そのあまりの壮絶さに、彼にどやされたお菓子担当の料理人が警察を呼んだこともあるという。この強烈な個性が広く知られるようになってからは、「The F Word」「Hell's Kitchen」「Ramsay's Kitchen Nightmares」と、バイオレンス映画を彷彿とさせるタイトルを持つテレビ番組で吠えまくっている。
ただそんなマッチョなイメージに反して、姑息な手口を使うのも得意なよう。かつて自分の職が奪われそうになった際、勤務先のレストランの予約帳を盗んだことがあるとの事実は、器の小ささを示しているようにも見える。それでも、料理ができればそれでよし。料理人としての最高の栄誉であるミシュランの3ツ星を獲得し、すっかり禊(みそぎ)を終えた2006年には、OBEを受勲してしまったのでした。
ナイト爵
自堕落学生から絶倫オヤジへ
ミック・ジャガー
Michael Phillip Mick Jagger
歌手、66歳
世界的なロック・バンド、ローリング・ストーンズのボーカルで、「不良」のイメージを貫き通して大成したミュージシャンである。学生時代、ロンドンの名門大学であるロンドン・スクール・オブ・エコノミクスに通うために提供された奨学金を生活費とし、それでも足りなくなったらバンド・メンバーの母親から送られてくる差し入れを当てにしながら毎日を送るという、自堕落な生活を送っていたらしい。
醜聞もいっぱい。4人の女性との間に7人の子供をもうけるという「偉業」も、飲み屋で語られる与太話の上でのヒーローには相応しくても、国家を挙げての表彰に値するかといったら疑問符。しかも、カナダの首相夫人と関係を持つという、一歩間違えれば国際問題に発展しかねないスキャンダルまで巻き起こしているのだ。
ちなみに下積み時代に母からの仕送り金を使い込みされていたバンド・メンバーのキース・リチャーズは、ジャガーの受勲について、「クソ食らえの意味ない名誉」と評価。こんな不良仲間の言葉は聞き流し、ちょいモテ親父の先駆けは、ナイト(騎士)となったのである。
ナイト爵
恐怖政治を敷くヤクザな監督
アレックス・ファーガソン
Alex Ferguson
サッカー監督、69歳
試合前には、記者会見を開いて、スコットランド訛りの英語で対戦相手の監督を口撃。試合中は、ポケットに手を突っ込みガムを噛みながら観戦。そして試合が終了すると、審判の判定にほぼ例外なく文句つけて1日を終えるというのが、主な業務となっている。そういえば、更衣室で怒り心頭した余りにスパイクを投げつけて、当時人気絶頂だったベッカムの顔に傷を付けたこともあった。
英国随一の工業地帯マンチェスターにて、労働者階級出身の選手が集うサッカーの監督を務めるならば、そんなチンピラなスタイルを取るのもある意味やむを得ないのかもしれない。そのチンピラに「サー」の称号が贈られたとき、彼の恐怖政治は頂点に達したともいえる。
国内リーグの制覇は11回、欧州一に輝くこと2回という偉大な功績を残すのとほぼ同じようなペースで、大英帝国勲章の複数の階級さらにはナイト爵まで次々と制覇。サッカーでも勲位でも、まるで土地を転がしていくかのように、タイトルをかき集めていくのが、ヤクザな彼のスタイルである。
大英帝国勲章4等勲爵士 (OBE)
旧植民地出身のセクシー将校
カイリー・ミノーグ
Kylie Minogue
歌手、41歳
職業に貴賎なし。セクシー・アイドルだって、受勲できる。デビュー当初は、「Girl Next Door(近所の女の子)」のイメージを体現したアイドルでぶりっ子振りまき、いつしかセクシーな雰囲気を体全体から漂わすセックス・シンボルへと転身。そのど派手な衣装から、今ではゲイ・カルチャーに影響を与えるアイコン的存在にまで上り詰めたこのオーストラリア出身の女性歌手も、いまや41歳。知らないうちに、勲章が似合う大きな器を兼ね備えていた。与えられた勲位は将校の位に相当する4等勲爵。これでセクシー将校の一丁上がり、である。
ちなみに、国外出身者は通常、英国にて正規の爵位を受勲する資格を持たない。にも関わらず、彼女の出身国であるオーストラリアは、英連邦に所属する国の一つということで、受勲対象としてはセーフということになっている。暴言吐こうと、薬物に手を出そうと一切不問にされるのに、国籍となると急に厳格になる英国の勲位授与。そのルールをクリアして、カイリー・ミノーグは晴れて旧植民地のセクシー将校となったのである。
その他の英国のセレブ受勲者たち
ジェイミー・オリバー | 料理人 |
J.Kローリング | 作家 |
ジェンソン・バトン | F1レーサー |
ピアース・ブロスナン | 俳優* |
ケヴィン・ピーターセン | クリケット選手 |
デービッド・ベッカム | サッカー選手 |
スティーブン・ジェラード | サッカー選手 |
ボノ | ロック歌手* |
マイケル・ケイン | 俳優 |
ジュディ・デンチ | 女優 |
ジャクリーヌ・デュプレ | チェリスト |
ブルース・フォーサイス | テレビ司会者 |
ボブ・ゲルドフ | 作曲家* |
ライアン・ギグス | サッカー選手 |
スティーブン・ホーキンス | 物理学者 |
アルフレッド・ヒッチコック | 映画監督 |
アンソニー・ホプキンス | 俳優 |
エルトン・ジョン | 歌手 |
アニータ・ロディック | ボディ・ショップ創立者 |
スティーブン・スピルバーグ | 映画監督* |
エリザベス・テイラー | 女優 |
アーセン・ベンゲル | サッカー監督* |
ジョン・レノン | 歌手 |
イアン・マッケラン | 俳優 |
日本人受勲者たち*
野田秀樹 | 演出家 |
吉田都 | バレリーナ |
真田広之 | 俳優 |
蜷川幸雄 | 演出家 |
森稔 | 森ビル社長 |
堀威夫 | ホリプロ会長 |
内田光子 | ピアニスト |
盛田昭夫 | ソニー会長 |
*英国籍を持たないため、名誉爵位扱い
英国の歴史や社会的背景と深く関わっている勲位制度。様々な種類が存在することに加えて、ときにその選考過程などが不透明なために、私たちのような外国人にはその仕組みが少々分かりにくい。さらには、貴族制度と結び付いた爵位制度もあるから、なかなか複雑。そこで英国の爵位・勲位制度について、簡単に解説する。
公爵 Duke |
侯爵 Marquess |
伯爵 Earl |
子爵 Viscount |
男爵 Baron |
主に18〜19世紀初頭にかけて、英国各地の支配者がそれぞれの地域の有力者や功労者に授与した栄誉称号が爵位制度。通常は世襲が認められていて、爵位の所有者は貴族階級に所属することを意味することが多い。「ダービー」の名を冠した競馬レースで有名なダービー伯爵の爵位を持つスタンリー家、故ダイアナ元妃を輩出したスペンサー伯爵の爵位を持つスペンサー家などが有名。
英国にはイングランド、スコットランド、グレート・ブリテン、アイルランド、イギリス連合王国といった異なる場所または時代に創設された爵位が存在しており、序列ができている。最高位となるイングランドの公爵だけでも10名存在しており、すべての土地における全爵位の数は数百に及ぶとされる。しかも日本のように家系に与えられるのではなく、基本的に土地の所有者に与えられるため、いくつもの異なる土地の爵位を掛け持ちする場合もしばしばだという。
カドガン・ホテル(左写真)の所有者として有名なカドガン家は、
カドガン伯爵の爵位を所有している。第6代ウエストミンスター公爵の
ジェラルド・グロブナー氏は英国長者番付の常連(同右)
世襲として特定の一家に代々受け継がれることで、貴族制度と深く結び付いてきた貴族爵位とは異なり、各人の功績を評価した上で与えられるのが勲位制度。年2回、元旦と6月の女王の公式誕生日に発表されている。
受勲式の前夜に沐浴の儀式を行ったという慣習から名付けられたバス勲位、海外で重要な任務を遂行した人のみを対象とする聖ミカエル勲位、数多くの芸能人が受勲している大英帝国勲章などの種類があり、さらにそれぞれの勲位に1等、2等といった形で階級が設定されている。
外国人にとって特に分かりにくいのが、ナイト(Knight)という用語。勲位の種類の一つである下級勲爵士(Knight Bachelor)も「ナイト」と呼ばれるし、各勲位の中の階級にもナイト爵が存在するからだ(下記にある大英帝国勲章の例を参照)。
1993年のジョン・メージャー保守党政権によって本制度の改革が実施され、特設の委員会が受勲対象者の審査を行うようになった。現在ではこの審査を内閣府が担当しており、さらには首相や閣僚の助言をもとに、女王が最終決定を下し、受勲式にて勲章が与えられる。
ヴィクトリア朝の画家エドモンド・レイトンが叙勲の風景を描いた作品
「騎士号授与」(左写真)。バス勲位の受勲者(同右)
ガーター勲位 The Most Noble Order of the Garter |
下級勲爵士 Knight Bachelor |
バス勲位 The Order of the Bath |
聖ミカエル、聖ジョージ勲位 The Order of St Michael and St George |
名誉勲位 The Order of the Companions Honour |
大英帝国勲章 The Most Excellent Order of the British Empire 1等勲爵士 Knight /Dame Grand Cross GBE
2等勲爵士 Knight / Dame Commander KBE / DBE 3等勲爵士 Companion CBE 4等勲爵士 Officer OBE 5等勲爵士 Member MBE |
数多くの勲位が存在する
大英帝国勲章
英国における勲章の種類の一つ。その他多くの勲位が政治家や軍人などを対象としている一方で、大英帝国勲章は、芸能界やスポーツ競技などで功績を残した人に与えられる。1917年にジョージ5世が創設。対象は日本人を含む外国人にも及び、世界中に約10万人の受勲者が存在していると言われる。
本来であれば、1等勲爵士と2等勲爵士の上位2つのナイト爵を得た英国人のみが「サー」「デイム」との敬称で呼ばれるという取り決めになっているが、実際には、上記5つの受勲者すべてにこの敬称が用いられることが多い。
大英帝国勲章の1等勲爵士には星章(左写真)、5等勲爵士には記章(同右)が与えられる