ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Tue, 08 October 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 5

ビクトリア・サンドイッチ
Victoria Sandwich

Victoria Sandwich

1837年から1901年までの64年という長期にわたって英国を治めたビクトリア女王。在位中は「大英帝国」が最も栄えた時代とも言われ、輝かしい歴史を築き上げた女帝の名前を冠したものが世界中に数多くあります。その中の一つが「ビクトリア・サンドイッチ(スポンジ)」。サンドイッチと言っても、食パンで作られているわけではありません。これは、2枚のスポンジ・ケーキの間にジャムが挟んであるお菓子。ベッドフォード公爵夫人、アンナ・マリアによって始められたアフタヌーン・ティーでもてなされたケーキで、ビクトリア女王のお気に入りだったというのが通説です。

生クリームとイチゴがふんだんに使われた日本のショート・ケーキとはずいぶん違う、シンプルな外見。とはいえ、2014年の「ナショナル・ケーキ・ウィーク」に合わせてケーキ会社「ミスター・キプリング」が行った「英国人のお気に入りケーキ」調査によれば、ビクトリア・サンドイッチは堂々第2位だったそうです(第1位はチョコレート・ケーキ)。

子供のころ、町のお祭りで必ず食べた、とか、おやつに母親が焼いてくれただとか、英国人のビクトリア・サンドイッチ贔屓(びいき)は、人々の郷愁も手伝っているような気がします。むしろ、幼いころの思い出につながるケーキだからこそ、根強い人気があるのかもしれません。

そしてこのケーキ、食べる側だけでなく、作る人にとっても、重要なメニューです。というのも、映画「カレンダー・ガールズ」でも知られるウィメンズ・インスティチュート(婦人会)がコンペを開いたり、人気テレビ番組「ザ・グレート・ ブリティッシュ・ベイク・オフ(The Great British Bake Off)」第1シリーズのテクニカル・チャレンジの課題として登場したりと、ベーキングをする人の腕前を計るバロメーターとされるものでもあるのです。

初めてこのケーキを焼こうとしたときに私が「??」となったのは、レシピに記載されていた準備するものの中にあった「2 x 20cm greased and lined sandwich tins」でした。どうして型が2つも必要なのだろう? と不思議に思ったのですが、理由は簡単。日本でなら分厚いケーキを焼いてそれを2つにスライスするところを、英国では、2つのスポンジ生地を別々の型で一度に焼くのです。家庭用オーブンが大きいこの国だからこそ可能だともいえますが、やってみると確かに合理的。試したことのない方は、ぜひ英国式を取り入れてみてください。均等の厚さに切り分けるテクニック要らずの便利さに感激するはずです。

さて、このコラムを書いていたら、ビクトリア女王が約125年前に使用していたウエスト115センチのパンツが、7月11日にオークションにかけられるとのニュースが。晩年の肖像画を見る限り、かなりふくよかな女王。彼女の腰幅を成長(膨張?)させるのに、ビクトリア・サンドイッチが貢献したのかもしれませんね。

ビクトリア・サンドイッチお手軽バージョン(8人分)

材料

  • 卵(Lサイズ) ... 3個
  • 小麦粉(セルフレージング粉) ... 卵3個分と同量
  • バター(室温で柔らかくしたもの) ... 卵3個分と同量
  • カスター・シュガー ... 卵3個分と同量+飾り用少々
  • ベーキング・パウダー ... 小さじ1
  • ラズベリー・ジャム ... 適量

作り方

  1. オーブンを180℃に予熱しておく。
  2. 直径20センチのケーキ型(サンドイッチ・ティン)2つにバターかオイルを塗り、敷き紙をセットする。
  3. 卵を殻ごと計量し、それと同量のバター、カスター・シュガー、小麦粉をボウルに入れ、ベーキング・パウダーを加え、ハンドミキサーで約2〜3分、よく混ぜ合わせる。
  4. ❸を2つの型に分けて入れ、オーブンで約20分焼く。
  5. 表面がほどよい焼き色になり、竹串を刺して何もついてこなければ焼き上がり。
  6. 網の上でよく冷ましたら、1枚の表面にジャムをたっぷり塗り、その上にもう1枚を載せる。
  7. 上からカスター・シュガーを振りかけて出来上がり。
memo

材料すべてをボウルに入れ、一気に混ぜるこの方法は「オール・イン・ワン」と呼ばれています。また、ラズベリー・ジャムを挟むのが正統と言われていますが、いちごジャムやクリームなどお好みでどうぞ。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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