サマー・プディング
Summer Pudding
朝夕には何度か暖房を入れてしまったほど気温が下がってきた9月の英国。秋の気配が色濃くなった今ではちょっと時季外れなのですが、往く夏を惜しんで、今回は「サマー・プディング」をご紹介させてください。
食パンを敷いた型に、砂糖で煮たラズベリーや赤スグリ、カシスなどを詰め込んだこのデザートは、重しをして一晩冷蔵庫で冷やし、果汁で白い食パンがルビー色に染め上がれば出来上がり。夏を彩るベリー類が主役なのでこの名前にも納得ですが、サマー・プディングの名で最初に書物に登場したのは1904年のこと。それまでは「ハイドロパシック・プディング(hydropathic pudding)」と呼ばれていました。「ハイドロパシー」とは、水や鉱泉を飲んだり浴びたりする治療法のことを言います。つまり、このデザートは、スパなどの保養地で療養中の人たちに供されていたものだったのです。バターや脂などを使用したパイを禁じられた人たちでも、食パンを使ったこのプディングなら躊躇なく食べることができたのでしょう。それにしても、名前を変えてくれて良かった。元の名前のままだったら、レストランのメニューにあっても発音に自信がなくて、絶対注文できなさそうです。
ところで「食パンに果汁をしみ込ませるの!?」とびっくりした方はいませんか。実はこの作り方のせいで、私はサマー・プディングを食べるのを長い間ためらっていました。というのも、小学生だったころの給食の思い出がよみがえるからです。
隣に座っていた友人はいつも牛乳にちぎったパンを浸して食べていました。あまりにおいしそうに食べるので、一度真似してみたのです。でも、液体でびしょびしょになった、ぬらぬらとした食感がだめで、思わずトイレに駆け込むはめに。その日は給食を食べ終えられず、先生には叱られる始末。それ以来「ぬれた食パン」は口にしないとひそかに心に決めたのです。
でも、その誓いを破ったのが3年前の夏の終わり。友人宅の庭で、バーベキューを終えた後にこのプディングが登場したときでした。気持ちの良い日射しと、プロセッコの勢いも手伝って、ついひと口……。食パンを使ってあるだなんて、言われなければ気付かないほどしっとりと、でも爽やかな食べ心地。それに何より、蠱惑(こわく)的なクリムゾン色は、伸ばすなと言われても手が出てしまうほどの吸引力でした。
そう、このデザートの一番の魅力は、何と言ってもその鮮やかな色味。それは入れるベリーによって様々に変化します。ラズベリーと赤スグリだけを入れる正統派なら、かなり鮮やかなルビー色。夏の名残のような果物ブラックベリーを入れれば、秋の気配を感じさせる深いワインレッドに。どんな色に染まっているかは、型から出したときのお楽しみです。
サマー・プディング お手軽バージョン(4〜6人分)
材料
- 食パン(白 / ミディアム・スライス) ... 7、8枚
- カスター・シュガー ... 90g
- 水 ... 大さじ4杯
- 冷凍ミックス・ベリー(ラズベリー、レッドカラント、ブラックカラント、ブラックベリーなど) ... 500g
作り方
- 常温に戻した冷凍のミックス・ベリーをなべに入れ、カスター・シュガー、水を入れて中火で煮る(ベリーがつぶれないように注意)。砂糖が溶けたら火を止めて粗熱をとる。
- 食パンの耳を切り落とし、対角線で半分に切って三角形にする。
- 570ml容量のプディング型、またはボウルなどに❷を敷き詰める。すき間が空かないように少しずつ重ねて。
- ❶で出来たベリーのソースを大さじ5杯分程度取り分けた後、❸に❶を流し込む。
- 食パンで❹の上に蓋をする。
- ❺の表面をラップで覆った上にソーサーを載せ、その上から缶詰などを重しにして押さえつける。
- 冷蔵庫に入れ、8時間程度(あるいは一晩)冷やす。
- 大きめのお皿などにひっくり返して型を外す。
- パンの生地に色むらがあるようなら、❹で残しておいたソースをかけて全体にまんべんなく色が付くように。
- ベリーやミントの葉などを飾りつけて出来上がり。
memo
我が家ではバニラ・アイスクリームを合わせるのがお気に入りですが、ダブル・クリームをかけていただくのが一般的です。生のベリーを使えばよりおいしいですが、イチゴはどろどろしてしまうので入れる場合には量を少なめに。