グーズベリー・フール
Gooseberry Fool
5月の後半、突然、英国に夏がやってきました。前の週には朝夕コートを羽織っていた日もあったというのに、一転、公園には半裸で寝そべる人続出。いかにも英国らしい光景が見られました。
それなりに長い年月をこの国で過ごすと、この地での夏がいかに貴重か、そして短いものかを痛感します。なので、一瞬(?)の夏を逃すまいと、私ももちろん、その日はタンクトップに短パンで、いそいそとバーベキューの準備にとりかかりました。せっかくならばデザートも英国の夏らしいものを、と考えたとき、思い浮かんだのが「グーズベリー・フール」です。日本では食べたことがなかったグーズベリー。ネックレスにでもしたくなるような、透き通った薄緑色が美しい小さな丸い果実です。
初めて食べたのは、数年前の7月下旬。友人夫妻のアロットメント(市民農園)を見せてもらい、その後、お宅でこのちょっと酸っぱくて甘くてふわふわしたデザートをいただいたのでした。
実は、アロットメントに行ったとき、奇麗なグーズベリーの実を見つけて、一つつまみ食いをしてみたのです。そして、それがいくら口をすぼめても足りないほど酸っぱいのにびっくり! 友人は笑って、グーズベリーはルバーブと同じように砂糖を加えて煮るとおいしくなるのだと教えてくれました。そして、その果実を使ったグーズベリー・フールを食べさせてくれたのです。酸味と甘味のバランスが抜群のピュレ状グーズベリーに、柔らかめにあわ立てたダブル・クリームがからんだそれは、シンプルの極致とも言えるもの。特にビクトリア時代の英国人に大変人気だったそうです。
それにしても「フール(fool)」とは不思議な名前ですよね。これは、つぶした果物を入れることと関連付けて、フランス語で「つぶす、砕く」といった意味の「fouler」という単語からきているという説があるそうです。ただ、16~ 17世紀の記録に残っているフール(foole)のレシピに果物は使用されていないため、これには信憑性がないとも。
私がまだ英国に来る前に日本で買った1998年発行の「英国アフタヌーンティーのお菓子」という書籍の中では、「あんまり簡単だからFoolつまり『おろか者』」と説明されていて、英国人は面白い名前をつけるなぁ、とびっくりしたものですが、この説明にも決定的な証拠はなし。軽いデザート、あるいは簡単なもの、といった意味でこう名付けられたと考えられるとの説もあり、これが一番妥当な気もしますが、いずれにしても誰が名付けたかは分かっていません。
生産量の低下で、スーパーで生のグーズベリーを購入するのが難しくなったため、今やグーズベリー・フールを手作りする人は少なくなったとも言われています。でも、英国らしい夏のデザートとして、いつまでも残っていってほしいものの一つです。
グーズベリー・フールの作り方(2人分)
材料
- ダブル・クリーム ... 180ml
- グーズベリー(缶入り) ... 300g
- エルダーフラワー・コーディアル ... 小さじ2.5
作り方
- 缶詰のシロップ漬けグーズベリーのシロップはよけ、エルダーフラワー・コーディアルを小さじ1.5杯分振りかける。それをフォークでつぶしてピュレ状にする。
- ダブル・クリームにエルダーフラワー・コーディアル小さじ1を加えて、角が立つ直前の柔らかさまで泡立てる(固くなりすぎないように注意)。
- ❷に❶の半分を加えて軽く混ぜる。
- ガラスの器に❶を入れ、上から❸を載せて出来上がり。
memo
ここでは缶詰のグーズベリーを使用していますが、生のグーズベリーが入手できる場合には、ぜひそちらを使用してください(砂糖と少々の水を加えて火を通してください)。エルダーフラワー・コーディアルがなければ缶詰のシロップで代用可能です。