「英国は食事がまずい」などと言われていたのも今は昔。個性豊かなセレブ・シェフが続々登場し、料理本が次々と出版され、テレビでは毎日のように彼らの番組が放映されている。そこでイースターを間近に控えた今回は、自宅で気軽に試せるセレブ・シェフのイースター料理をご紹介するとともに、それらのレシピを編集部で独断ジャッジ!果たして、素人でもセレブな味を本当に再現できるのか......? (黒澤里吏)
そもそもイースターってどんなお祭り?
イエス・キリストの復活を祝う日で、キリスト教徒にとってはクリスマスよりも重要な行事とされる。毎年日付が変わる移動祝祭日で、春分後、初めて迎える満月の日から数えて最初の日曜日がイースターとなる。英国ではその直前の金曜日(グッド・フライデー)と直後の月曜日(イースター・マンデー)が祝日。ちなみにイースターの46日前の水曜日は「灰の水曜日」と呼ばれ、この日からイースター前日の「聖土曜日」までの日曜を除く期間を「レント(四旬節)」という。心を清め、悔い改める期間とされ、肉や卵、乳製品を摂取しないなどの食事制限をする習慣もある。
イースターには何を食べるの?
レントの期間に禁じられていた食べ物が解禁になるため、動物性食品や、卵、乳製品などを使った菓子やパンなどが主となる。地域によって多少異なるが、代表的なものは下のとおり。
イースター・エッグ
新しい生命が殻を破って出てくるという卵のイメージが、キリスト復活のイメージと結びつけられている。鮮やかに彩色された卵があちこちに飾られるほか、卵形のチョコレートも多く出回る。また、多産なウサギも生命と繁栄の象徴としてイースターのシンボルとなっており、ウサギを象ったパンやチョコレートなどが多く見られる。
シムネル・ケーキ
マジパンで覆ったフルーツ・ケーキ。マジパンで作ったボールを裏切り者のユダを除いた11人のキリストの弟子に見立て、ケーキの上に載せるのが特徴。17世紀に主人が使用人に里帰りさせる日を設け、奉公中の娘たちがレント4週目の日曜(イースター・サンデーの2週間前)にこのケーキを母のために作って家に持って帰るという習慣があった。実はこれが英国における「母の日」 の起源でもある。
ホット・クロス・バン
レント期間中に食べるものには卵と乳製品は使えないことになっているため、その解禁を祝い、英国では伝統的にグッド・フライデー(キリスト受難の日)の朝食に食べられる。アイシングでできた表面の十字がキリストの受難を示しているという。現在では、イースターに限らず日常的に食卓にのぼっている。
ラム肉
復活祭の祝宴料理の定番。聖書の「出エジプト記」に記されている古代エジプトで起こった出来事と、それに由来したユダヤ教の行事「パスオーバー(過ぎ越しの祭り)」で羊が生け贄とされていたことに端を発している。
ハム
ラムのほかにイースターを代表する肉類の食べ物と言えばハム。だがハムを食べる習慣は、異教徒の儀式や言い伝えが発端と言われる。
市販のホット・クロス・バン4個を使った、
誰にでもできる超簡単なパン・プディング。
半分にスライスしたバンの表面に
ミディアム・カット・マーマレードを塗って
耐熱容器に並べ、フレッシュ・カスタード・
クリームを注ぎ入れて15分ほど寝かせる。
あらかじめ180℃に温めておいたオーブンに入れ、
15分ほど焼いてから、焼き色がつくまで
5分ほどグリルにかけて出来上がり。
イースター以外でも、急な来客時や、
ちょっと小腹が空いたときのおやつにピッタリ。
子ども受けもよさそうだ。
参照レシピ | Sainsbury’s Try Something New Today |
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調理時間 | 約20分(下ごしらえ3分+焼き時間25分) |
難易度 | |
所要時間 | |
おいしさ | |
もう一度作りたい |
相変わらず好感度ナンバー・ワン
ジェイミー・オリヴァー
Jamie Oliver
1998年に料理番組「ネイキッド・シェフ」でTVデビューを果たした当時は、お洒落でカジュアルな雰囲気と、単純明快かつ新鮮なアイデアで、英国の料理界に新風を吹き込む若手として注目を集めたジェイミー・オリヴァー。エセックスでパブ・レストランを営む両親の下で育ち、子どもの頃から厨房に出入りしては料理を手伝っていたという。
その旺盛なチャリティー精神でも知られ、無職の若者やホームレスの人々などを雇い、料理人として育てているレストランの経営や、ジャンク・フードにまみれた学校給食を改善する企画で、当時首相だったトニー・ブレアに給食改善のための予算捻出を約束させるなど、さまざまな試みを行っている。
Jamie's Ministry of Food:
Anyone Can Learn to Cook in 24 Hours
パスタやカレー、サラダ、シチュー、ロースト料理など、いつの時代も愛されるベーシックな料理が中心。料理が苦手な人や初心者でもすぐに試せるお手軽レシピ集。
Jamie's Red Nose Recipes
コテージ・パイ、ソーセージ・カルボナーラ、カップ・ケーキなど、家族や友達に作ってあげたくなる12のレシピを掲載した小冊子。販売価格3ポンドのうち、2.5ポンドがチャリティー団体に寄付される。
豆(グリーンピース)とハムという、
なじみ深い食材を使った
一見シンプルなスープながら、
驚くほど味わい深いのは、
下ごしらえにたっぷり手間暇を
かけているから。
その感覚は、ダシが命の日本の
ラーメンなどに近いかもしれない。
ハム・ホック(豚脚の薫製)の塊に玉ネギ、
ニンジン、セロリ、ネギ、ガーリック、
ハーブなどを加え、2時間ほどコトコト煮込んで
仕上げたダシは、まさにこのスープの要。
重たいテクスチャーにならないように水を加えて調節し、
程よくさらりと仕上げるのがおいしさのコツともいえる。
にわか職人気分を味わいたい人にはうってつけの、大満足レシピ。
レシピ掲載サイト | タイムズ・オンライン www.timesonline.co.uk |
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調理時間 | 約3時間(ストック: 2時間20分+スープ: 40分) |
難易度 | |
所要時間 | |
おいしさ | |
もう一度作りたい |
料理を科学するアルケミスト
ヘストン・ブルメンタル
Heston Blumenthal
カタツムリのポリッジにスモーク・ベーコン&エッ グ・アイスクリーム…… 。液体窒素などを用いた「分子調理法」と呼ばれる独特の手法を用い、奇抜なメニューを次々と考案しては世間を驚かせている奇才。低温でじっくり料理する「スロー・クッキング」の提唱者でもあり、五感に最大限に訴えかける実験的な演出を施すことでも有名だ。
15歳の時に、フランスの小さな村にある有名レストランで料理の世界に魅せられたヘストンは、いくつかのレストランで修業しながら、独学でフランス料理の基礎を習得。1995年にレストラン「ファット・ダック」をオープンし、2004年にはミシュランの3ツ星を獲得した。さらに翌年には、国際的に著名なシェフや料理評論家など600人による投票で決まる、料理誌「レストラン」での世界のレストラン・トップ50ランキングで堂々1位に輝いている。
The Big Fat Duck Cookbook
持っているだけで自慢になりそうな、美しい装丁が施されたケース入りの豪華本。ベーコン&エッグ・アイスクリームをはじめ、代表メニューを全収録。
Further Adventures in Search of Perfection
数年前にBBC2で放映されていた番組を補足する形で出版されたレシピ本の第2弾。フィッシュ・パイ、ハンバーガー、リゾットなどのクラシカルなメニューを完璧に料理する方法を検証するとともに、各食文化の歴史をひもとく。
オリーブ・オイル、タイムの生葉とともに
しばらく冷蔵庫で寝かせたラム肉を、
テフロン加工などが施された、
食材がこびりつかないフライパンを
カンカンに熱して焼くだけの、簡単で見栄えもいいお手軽料理。
肉のおいしさを堪能するために、ミディアム・レアな焼き加減にするのがポイントだ。
また、ニンジン、セルリアック、ポロネギを加え、
ビネグレット・ソースで調味したレンズ豆のソテーが
付け合わせになっているのもなかなか興味深い。
ラム肉との意外な味わいのハーモニーが発見できて、
野菜のローストなど、ありきたりな付け合わせに飽きてしまった人にもおすすめだ。
レシピ掲載本 | Gordon Ramsay: A Chef for All Seasons |
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調理時間 | 約40分(ラム肉: 15分+レンズ豆&野菜: 25分) |
難易度 | |
所要時間 | |
おいしさ | |
もう一度作りたい |
口の悪さが転じて福となった人気者
ゴードン・ラムジー
Gordon Ramsey
スコットランド出身の42歳。今や飛ぶ鳥を落とす勢いの超人気シェフだが、彼が人生で最初に志した道はフットボール選手だった。15歳の時にプロ選手としてグラスゴー・レンジャーズに加入するも、膝の故障が原因で早々にこの道をあきらめ、料理人を 目指すようになる。
マルコ・ピエール・ホワイトをはじめ一流シェフのもとで修業を積み、1998年にチェルシー地区に自身のレストランをオープン。翌年にはミシュランの3ツ星を獲得する快挙を成し遂げた。現在はロンドンに10軒、東京に2軒のほか世界各国に店舗を展開し、これまでに得たミシュランの星の数は計16にのぼる。歯に衣を着せないストレートな物言いが有名で、そのキャラクターを前面に押し出した「F-word」をはじめ、数々の人気番組を送り出している。
Gordon Ramsay: A Chef for All Seasons
家庭でも十分試せる、旬の食材をふんだんに使った季節感あふれるレシピを公開。セレブ・シェフの妙技に触れられる定番の1冊。
Gordon Ramsay's Great British Pub Food
ロンドンのホテル「クラリッジズ」内にあるラムジーのレストランでヘッド・シェフを務めるマーク・サージアントとタッグを組み、伝統的な英国のパブ料理のレシピを紹介する最新刊。
英国にしばらく住んだことのある人なら、
あのどっしりとしたクリスマス・ケーキに
一度はお目にかかったことがあるはず。
しかし同様に伝統的なこのシムネル・ケーキは、
さほど知られていないのではないだろうか。
ドライ・フルーツをふんだんに使っていて
クリスマス・ケーキに似ているが、
より軽やかな味わいで食べやすい。
そしてやはり特筆すべきはマジパンの存在感。
ナイジェラ・ローソンならではのコツは、
スポンジの中段にもマジパンを1枚敷くところにある。
オーブンで加熱されることによってスポンジに染み入るように
マジパンがとろけ、絶妙な味わいを生み出すのだ。
アプリコット・ジャムがスポンジとマジパンをくっつける
糊の役割を果たすなど、隠し味的なおいしさもいっぱい。
レシピ掲載本 | Feast: Food That Celebrates Life |
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調理時間 | 約3時間(生地作り: 45分+焼き時間: 2時間+デコレーション: 20分) |
難易度 | |
所要時間 | |
おいしさ | |
もう一度作りたい |
小気味よい独特の色気は才女の証
ナイジェラ・ローソン
Nigella Lawson
元財務大臣のナイジェル・ローソンを父に持ち、オックスフォード大卒にして2児の母でもあるナイジェラは、若々しく美しい49歳のセクシー料理人。フリーのジャーナリストを経験した後、1998年に初の料理本を出版し、これがベストセラーとなる。さらに2000年に出版した2冊目の著書が「ブリティッシュ・ブック・アワード」を受賞。その後、「ナイジェラ・バイツ」でテレビ出演を果たしてからは、お茶の間の人気者となる。
お色気たっぷりで豪快な面白キャラに加え、その魅力を全面に出した演出も受け、男性ファンの心をもつかんだ。レシピ本はこれまでに世界で約300万部を売り上げているが、プロの料理人としての修業経験がないゆえ、本人は「セレブ・シェフ」と呼ばれることを居心地悪く感じているらしい。
Feast: Food That Celebrates Life
バレンタイン・デー、イースター、感謝祭といった年間行事や冠婚葬祭など、さまざまなイベントにちなんだ、ちょっとしたご馳走レシピを主に紹介。
Nigella Express
日々、多忙を極めながらも、食べることが大好きという人々のための、簡単で手早くできるおいしい「ファストフード」を集めたレシピ集。
彼らのレシピも試してみたい!
まだまだいます、噂の料理人たち
激情型の元祖セレブ・シェフ
マルコ・ピエール・ホワイト
Marco Pierre White
リーズ出身の47歳。1995年、オーナー・シェフを務めていた「ザ・レストラン マルコ・ピエール・ホワイト」で、当時世界最年少の33歳という若さで英国に初めてミシュランの3ツ星をもたらし、「現代の英国料理界におけるゴッド・ファーザー」と呼ばれた。情熱と哀愁が同居したようなラテン系の色気は、ハーフ・イタリアンゆえか。気性の激しさでも知られ、弟子のゴードン・ラムジーをはじめ、多くのシェフや顧客と数々の諍いを起こしている。1999年、現役シェフから引退して以来、実業家として活動。余談だが、彼のお抱え運転手は日本人。
Marco Pierre White's Great British Feast:
Over 100 Delicious Recipes From A Great British Chef
100以上のレシピを掲載。ベストな食材の入手法や、どんな材料と組み合わせれば時間をかけずに最高の料理を作ることができるのかを説く。
北部出身のハンサム・シェフ
ジェームス・マーティン
James Martin
ヨークシャーの農場で生まれ育ち、父がカースル・ハワード(英国で最も壮麗なカントリー・ハウス)のケータリング・マネージャーだったこともあって、幼い頃から料理に興味を持っていた。1993年に21歳でウィンチェスターにビストロ・ホテルをオープン、ヘッド・シェフを務める。96年に初のTV出演を果たすと同時に人気を呼び、現在もBBCの人気料理番組「サタデー・キッチン」などにレギュラー出演中。高級スポーツ・カーのファンとしても知られ、2008年にはイタリア伝統の自動車レース「ミッレミリア」に出場、その様子もTV放映された。
James Every Day: The Essential Collection
2009年1月に発売されたばかりの新刊。英国の食材を使いながらも、世界各国の食文化の影響を受けた、毎日でも試したくなる手軽でおいしいレシピが勢揃い。
笑顔が印象的な2児の母
レイチェル・アレン
Rachel Allen
アイルランドのダブリン出身。ナイジェラ・ローソンが濃厚な原色系のお色気タイプなら、こちらはパステル・カラーが似合う、やさしい良妻賢母系といったところ。「サタデー・キッチン」にもたびたび登場、BBCから「アイルランドのクッキングの女王」とのキャッチフレーズを授かっている。これまでに出した料理本は4冊。ジャーナリストとしても活躍しており、地元の各出版物にコラムを寄稿するなど多忙を極めてい る。現在は家族とともにコークで暮らし、18歳の時に自身が通っていた有名なバリマロー調理学校で時々、教鞭をとっている。
Bake
その名のとおり、おいしいケーキや焼き菓子、タルト、パイ、キッシュ、キャセロールなど、甘いものからおかず系まで、英国人が大好きなベイクド料理を網羅。
旬の味わいで和の心を伝えます
ジュン・タナカ
Jun Tanaka
Channel4の料理番組「クッキング・イット」で主婦のハートをガッチリ掴んだ米国生まれの日本人、ジュン・タナカは、現在、欧州で最も高く評価されているシェフの1人。 19歳の時、ロンドンで最高の名店はど こかと父に尋ね、その時に挙がった「ル・ガブロッシュ」「シェ・ニコ」、マルコ・ピエール・ホワイトの「ハーヴェイズ」などで以後、計10年にわたり修業を積む。日本人らしく、季節の味を存分に生かした料理にこだわり、現在ヘッド・シェフを務める「パール・レストラン」でも定期的にメニューを変え、最高の旬の味覚を届けるよう努めている。
Simple to Sensational
2009年5月に発売予定の、記念すべき初のレシピ集。シンプルな料理をゴージャスな一皿に変身させる、誰でも出来る「ちょっとしたひと手間」を伝授。
美食を求めて地球をさすらう
ヘアリー・バイカーズ
(デイヴ・マイヤーズ&サイ・キング)
Hairy Bikers (Dave Myers & Si King)
「毛むくじゃらバイカーズ」という名から想像した姿そのままの、長髪ヒゲもじゃの2人、デイヴとサイモン(通称サイ)は、プロの料理人ではなく、言ってみれば食愛好家。映像関係の仕事で世界的に活躍する2人は、ドラマの制作現場で出会って意気投合して以来、真の美食を求めて世界中をバイクで旅してその様子をレポートしつつ、新発見のレシピを紹介しているという異色のコンビだ。インドからアルゼンチン、ベトナムからサハラ砂漠まで、美食のためなら世界の果てまで行くことも厭わない2人の姿は、見る者の冒険心、探究心をも掻き立ててくれる。
The Hairy Bikers Cookbook
自らバイクで世界中を旅して出会った素晴らしい料理の数々を、フォト・ジャーナルとともに紹介。料理本とも旅行記とも言える、他にはない独特の魅力にあふれた1冊。
シーフードなら俺にまかせろ
リック・スタイン
Rick Stein
「シンプルに料理した新鮮な魚介類ほどおいしいものはない」と断言する無類のシーフード好き。コーンウォールの漁村パドストウを拠点に活動し、4軒のレストランとビストロ、カフェ、デリ、パティセリー、ギフト・ショップ、料理学校を経営している。TV出演は数知れず、2006年には日本人駐在大使を和食の晩餐でもてなすため、日本に赴いて修業するという特番が放送され話題に。エリザベス女王やトニー・ブレア元首相など数々の要人や著名人にも腕を振るっており、2003年に英国西部での観光振興の功績を讃えられて大英帝国勲章(OBE)を授与されている。
Rick Stein's Coast to Coast
英国南端のセント・アイヴスからオーストラリアのシドニー湾まで、世界各地の沿岸地方の料理にインスピレーションを得たレシピを130以上揃えている。