レモン・ドリズル・ケーキ
Lemon Drizzle Cake
ビクトリア・サンドイッチ、キャロット・ケーキと並んで、英国のティー・ルームに欠かせない定番ケーキと言えば「レモン・ドリズル・ケーキ」です。
丸型だったり、パウンド・ケーキ型だったり、ときにはトレイ・ベイクと呼ばれる四角型だったり、作る人によって形は色々。いずれにしても、見た目に華やかさはみじんもない、つつましい佇まいの焼き菓子です。でも、英国人は、飾り気のないスポンジに爽やかな酸味と甘みが溶け合ったこのシンプルなケーキが大好き。
BBCの人気番組「グレート・ブリティッシュ・ベイク・オフ(GBBO)」の審査員だったメアリー・ベリーも、彼女にとって「大のお気に入り(Absolute Favourite)」ケーキと公言しています。そのせいかどうか、2016年の同番組では「ドリズル· ケーキ」が最初の挑戦品目となっていました。
テクニック的には、ケーキ自体を焼くことは難しくありません。というのも「オール・イン・ワン(All in one)・メソッド」を使うから。これは、ケーキに使うすべての材料を一気にボウルに入れて混ぜ合わせる、というやり方です。電動ミキサーを使えば、混ぜるのは2~3分で済んでしまいます。スポンジ部分がこんなに簡単に焼けるとしたら、なぜベイキングの腕を競う大会で重要視されるのでしょう?
ポイントとなるのは「ドリズル」の部分。「ドリズル」とは「小雨、霧雨(がしとしと降る)」の意味があり、まさに英国の気候にぴったりの言葉ですが、オックスフォード辞典によれば、もう一つの意味は「料理の際、液体を食べ物の上から垂らす(かける)」となっています。つまり、ケーキにかけるレモン味のシロップ「ドリズル」が、おいしさを決める大切な要素なのです。食べたことのある方なら分かると思いますが、確かにこのお菓子の特徴は、パンチの効いたレモン味。これがスポンジにしっかり染みわたっていないと、物足りなさを感じます。
でも、ケーキを作ってみると、シロップをスポンジに染み込ませる、というのが意外に難しい。たいていのレシピには「焼きたてのスポンジに竹串などで穴を開け、シロップを流し込む」とあります。ただ、この「穴」が、ちょっとやそっとの数では、シロップが染み込んでくれないのです。
ところで、レモンが英国にもたらされたのは13世紀後半と言われていますが、当時は大変貴重な高級品で、庶民の手に入るものではありませんでした。果物自体の英国での歴史は800年近くですが、レモン・ドリズル・ケーキのレシピが料理書に登場するのは20世紀になってから。いつごろから作られ始めたかの文献は見つかっていません。
19世紀に書かれたパウンド・ケーキのレシピに「レモンの皮を入れる」というものがいくつかあるのですが、「ドリズル」についての言及はなし。シンプルなケーキなのに、歴史はちょっと謎めいています。
レモン・ドリズル・ケーキの作り方
(直径20cmケーキ型1個分)
材料
- セルフ・レイジング・フラワー ... 200g
- 無塩バター(室温に戻す) ... 200g
- カスター・シュガー ... 180g(スポンジ用)+100g(シロップ用)
- 卵 ... 4個
- レモン(ノー・ワックスのもの) ... 2個
作り方
- レモンの皮をすり下ろし、果汁を絞っておく。
- セルフ・レイジング・フラワー、無塩バター、カスター・シュガー、卵、すり下ろしたレモンの皮、レモン果汁1/2個分をボウルに入れ、電動ミキサーでよく混ぜる。
- ベイキング・ペーパーを敷いた直径20cmのケーキ型に❷を流し込む。
- 180度に予熱したオーブンで30分前後、焼く。表面がきつね色になり、竹串を刺して生地がついてこなければ焼き上がり。
- ケーキを焼いている間にレモン果汁1と1/2個分とカスター・シュガーを小なべで煮てシロップを作る。
- 焼き上がったケーキが熱いうちに竹串でたくさん穴を開けて、上から❺を流し込み、刷毛(はけ)で塗って出来上がり。
memo
2015年のGBBOに出場した医師のタマール・レイさんが、注射器を使ってケーキにシロップを注入していました(ケーキはレモン・ドリズルではなく、彼オリジナルのピスタチオとローズのマディラ・ケーキ)。確かにシロップがしっかり染み込むだろうなぁと、そのアイデアに感心しました。