ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Tue, 08 October 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 62

ダンプリング
Dumplings

Dumplings

「ラブリーなウィンター・フードだね、これは」。

この時期になるとかなりの頻度で我が家の食卓に上るキャセロール。夫はこれを食べるたびに「ウィンター・フード」という言葉を口にします。低温のオーブンで長時間ゆっくりと煮込んだ肉と野菜のうまみが、とろりとしたソースに溶け込んだ熱々のキャセロール。それは確かに、日照時間が短くかつジメジメした英国の冬に必須の料理です。

今回ご紹介するのは、キャセロールではなく、中に入っているダンプリングの方。英国で試したことのない方は、「それって、餃子のこと?」と思われるかもしれませんね。

友人夫妻のフラットに遊びに行き、奥さんのジェーンが「今日はキャセロールとダンプリングにしたよ」と夕飯のメニューを教えてくれたとき。私は「日本の餃子のはずはないけど、一体どんなものが出てくるのだろう?」と内心どきどきしていました。トマト味のビーフ・キャセロールに入っていたお団子状の塊。食べた感想はと言うと、正直なところ、あまり記憶にないのです。十年近く前というせいもあるのですが、多分、そのものに味がなく、こっくりとしたキャセロールの味をまとって、私自身がその存在にあまり注意を払わずに飲み込んでしまっていたのでしょう。

それ以降も何回かよそのお宅でキャセロールをいただいた機会がありますが、ダンプリングが入っていたことはありませんでした。夫の実家でも、キャセロールにはマッシュポテトが添えられていた以外、ダンプリングが付いてきたことはありません。義母に聞くと「子供たちが小さいころはダンプリングを入れていたけれど、最近は作らないわね~」と逆に懐かしがられてしまいました。

英国のダンプリングとは、小麦粉にスーイットと呼ばれる牛脂を加え、少量の水でこね、団子にしたもの。レシピによっては、マスタードやハーブを加えるものもありますが、一番シンプルなのは小麦粉と塩と水だけ。日本のすいとんによく似ています。

歴史的には、肉が高価でたくさん食べられなかったころ、料理のかさを増やし、お腹を膨らませるものとして、スープやシチューに入れられたのが始まりのようです。また、パンを作るときの生地をボール状にしたものが、ダンプリングの起源だろうとも言われています。その後、18世紀半ばにハナ・グラースによる料理書で紹介されたレシピではバリエーションが8つもあり、英国の各地方では、似て非なるダンプリングがたくさん登場していたことが伺われます。

特に有名なのがノーフォーク・ダンプリング。「The Taste of Britain」という書物によると、イーストを使って発酵させた生地を使って作るこのダンプリングは、羽のように軽いのが正統だそう。ただ、一般のスーパーで売られている「ダンプリング・ミックス」にはスーイットが入ったタイプが多く、こちらはもっちりとした食感になります。

ダンプリングの作り方(4~6人分)

材料

  • セルフ・レイジング・フラワー ... 100g
  • スーイット(ベジタブル) ... 50g
  • 塩 ... ひとつまみ
  • パセリ(みじん切り) ... 適量
  • 水 ... 適量

作り方

  1. ボウルにセルフ・レイジング・フラワー、スーイット、塩、刻んだパセリを入れ、少しずつ水を加えながら混ぜる。
  2. ❶がやや粘り気のある生地になったら、小麦粉をはたいた手でよくこね、ピンポン球程度の大きさに丸める。
  3. 準備してあった調理済みのキャセロールの上に少し間を空けて並べ、200℃のオーブンで20~30分ほど調理。ダンプリングが膨らんで中に火が通り、上面がきつね色になったら出来上がり(表面に焦げ目を付けたくない場合には、オーブンに入れる際、蓋をしてください)。
memo

スーイットを入れたダンプリングはコシがあって、ややもっちり。お腹にどっしりたまる感じです。市販品のパッケージには、これを使って1455号でご紹介した「ローリー・ポーリー・プディング」を作ることができるとありました。確かに同じ材料ですね。また、スーイットは日本では「スェット」などと表記されていることが多いです。英国ではATORAというブランドから、細かく刻んだ乾燥スーイットが発売されていて、牛脂タイプ(オリジナル)と、植物性油を使ったベジタリアン用があります。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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