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Sun, 22 December 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 79

メイズ・オブ・オナー
Maids of Honour

Maids of Honour

「メイズ・オブ・オナー」とは、女王や王妃に仕える侍女のことです。なので、これがお菓子の名前だとは、一体誰が想像するでしょう? でも、今日お話しするメイズ・オブ・オナーは、直径6センチほどの小さなタルトで、英国ではとても由緒のある食べ物と信じられています。

時代はヘンリー8世のチューダー朝までさかのぼります。彼の2番目の妻アン・ブーリンと侍女たちの元に、この小さなお菓子が銀のお皿に載せて供されていました。それをヘンリー8世がつまんで、いたく気に入ったため、レシピを取り寄せ、リッチモンド宮殿内で鉄製の箱に鍵をかけて保管したというのです。その上、このタルトを作った侍女は宮殿に閉じ込められ、王族のためだけにこのお菓子を作ることを命ぜられました――というのは、現在「ザ・オリジナル・メイズ・オブ・オナー」と称してこのお菓子を販売している「ニューエンズ」というお店が伝えるストーリー。

一方で、アン・ブーリンがヘンリー8世の最初の妻キャサリン・オブ・アラゴンに侍女として仕えていたときに、彼女がこのお菓子を開発。それで、ヘンリー8世がこれをメイズ・オブ・オナーと名付けた、という説もあるそうです。

由来の真偽は不明ですが、こうした逸話がまことしやかに伝えられていることが、このタルトがいまだに人々の興味を集める理由かもしれません。

私が初めて食べたのは、前述のニューエンズのティー・ルームでした。リッチモンドの王立植物園、キュー・ガーデンズから歩いて5~6分のところにあるお店です。外観はファサード部分に煉瓦が使われていて、内観はピンクの壁に花柄のカーテン、木製のテーブルと椅子は濃い茶色という、全体的にビンテージ風の建物。

店内には大きなショーケースがあり、左手にはケーキ類、正面には軽食に良さそうなキッシュやパイが並んでいます。そして、肝心のメイズ・オブ・オナーといえば、専用の小さなガラス・ケースに収められ、大きく「Maids of Honour」と名前が付いていました。

注文後、10分ほど待って登場したのが、うっすら焦げ目のついた高さ3センチほどの小さなタルト。一緒にナイフとフォークが出てきたので、英国人に倣って、それらを使い5切れほどに分けて頂きましたが、正直なところ、手でつまんだら、ふた口で軽く食べ切れたと思います。

アーモンド・プードルの食感と、ほんのりレモンの風味がする、甘くておいしいお菓子。ただ、底の部分はサクサクではなく、ややべたついていたのは残念でしたが。

レシピがシークレットだというのを承知で、お店に尋ねてみましたが、やはり教えてはもらえません。ということで、幾つかの料理書を参考に自分で色々試作。でも、どれもお店のものと全く同じ食感にはたどり着けませんでした。ただ、これはこれでおいしいので、皆さんも一度お試しを。

なんちゃってメイズ・オブ・オナーの作り方(12個分)

材料

  • 市販のパフ・ペイストリー(パイ生地) ... 250g
  • カスター・シュガー ... 30g
  • バター ... 30g
  • カッテージ・チーズ ... 100g
  • 卵 ... 1個
  • アーモンド・プードル ... 30g
  • ナツメグ ... 小さじ1/2
  • レモンの皮(すりおろし) ... 1個分
  • 小麦粉 ... 大さじ1
  • バターまたは油(型に塗る用) ... 適量

作り方

  1. パイ生地を麺棒で約3ミリ程度の厚さに伸ばし、9センチの抜き型(菊型)で12個抜く。
  2. バターか油を塗った12個分のマフィン型に❶を敷き込み、冷蔵庫に入れて冷やす。
  3. 室温に戻したバター、裏ごししたカッテージ・チーズ、卵、アーモンド・プードル、ナツメグ、レモンの皮、小麦粉、カスター・シュガーをボウルに入れ、よく混ぜてフィリングを作る。
  4. ❷に❸を入れる。
  5. 180℃に予熱したオーブンに入れて20~25分焼く。表面がきつね色になったら出来上がり。
memo

料理書で紹介されるレシピには「カード・チーズ」というのが出てきますが、これはカッテージ・チーズやリコッタ・チーズで代用することが多いようです。チーズを入れないレシピもあるので、そちらも試してみましたが、チーズを入れた方がお店で食べたものに近い気がします。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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