ピーチ・メルバ
Peach Melba
本コラムが連載100回を迎えた時、ツイッター上でフォロワーの方々の「英国の口福」体験を募りました。たくさんの英国のおいしいものと、それにまつわる楽しいエピソードを伺うことができたのですが、その中で「え、これも英国の食べ物だったの?」と、初めて気付かされたものがありました。それが今回ご紹介する「ピーチ・メルバ」です。
これまでにピーチ・メルバというフレーバーのアイスクリームを食べたことはありましたが、よく考えると、私には本物のピーチ・メルバ自体を食べた記憶がありませんでした。でも、桃とアイスクリームのコンビということは知っていたので、今の季節にふさわしいデザートに違いないと、さっそく調べてみました。
ピーチ・メルバが登場したのは1800年代後半。ロンドンで大人気となったデザートは、当時、サヴォイ・ホテルの料理長をしていたフランス人シェフ、オーギュスト・エスコフィエが考案しました。一説によると、ある日、ホテルに滞在していたオーストラリア人オペラ歌手ネリー・メルバの出演するオペラ「ローエングリン」を見たエスコフィエが、舞台にインスピレーションを得てデザートを作ったと言われています。それは、銀器にバニラ・アイスクリームと桃を載せてラズベリー・ソースをかけ、上からシュクル・フィレと呼ばれる糸飴を飾ったもの。舞台の翌日、氷の彫刻でできた白鳥の上に置いてネリーのテーブルに供されました。もともとは「白鳥と桃」という名前だったそうです。
その後、サヴォイ・ホテルのマネージャーだったセザール・リッツとともにリッツ・ホテルを開業したエスコフィエ。そのレストランでは、バニラアイスと桃とラズベリー・ソースのみにアレンジし、その際、名前をネリー・メルバにちなんでピーチ・メルバとしたといいます。
ところでこの有名なデザート、いざ食べてみたいと思って探しても、これをメニューに載せている店が一向に見つかりません。義母に相談すると「1970年代には流行っていたけど、今はお店で食べられるところはあまりないかもしれないわね」との返事。
仕方がないので、一度もよそで食べたことのないピーチ・メルバを自分の試作で初めて食べることになりました。
出来上がったものがエスコフィエのピーチ・メルバにどれほど近付けたか分かりませんが、しっかり甘みのついたフレッシュな桃にラズベリーの甘酸っぱさが合い、我ながら高得点を付けたいおいしさ。作り方は簡単ですが、器と盛り付け方に気を使えば、おもてなしにもぴったりだと思います。
ピーチ・メルバの作り方(4人分)
材料
- 桃 ... 4個
- カスター・シュガー ... 1本
- ラズベリー ... 300g
- 粉砂糖 ... 大さじ3
- バニラ・アイスクリーム ... 適量
作り方
- 鍋に沸騰させたお湯の中に桃を入れて1分ほど煮る。
- ❶を氷の入った冷水に入れ、その後、桃を取り出して皮をむく。
- ❷を半分に切って、種を取り出す。
- ❸を平たいバットなどに、重ならないように並べ、全体にカスター・シュガーをまぶし、ラップをして冷蔵庫で1時間ほど冷やす。
- ブレンダーなどを使ってラズベリーをピュレ状にする。
- ❺をこし器に入れて種を取り除く。
- ❻に粉砂糖を少しずつかき混ぜながら加え、ラズベリー・ソースが出来たら冷蔵庫に入れて冷やす。
- ガラスの器にバニラ・アイスクリームを2スクープ分入れ、その上に桃を2つ載せ、上からラズベリー・ソースをかけて出来上がり。
memo
英国で出回っている桃はスペインやイタリア、南アフリカ産からの輸入ものがほとんど。白桃もありますが、黄色い桃の方が多く流通しているようです。最近人気のフラット・ピーチで作ってもおいしかったです。缶詰の桃でももちろん作れますが、日本の白桃で作ったら、きっと、よりおいしいのではないかと思います。