英国がEUを離脱した今、VATと税関の手続きはどうなるか
英国は2020年1月31日にEUを離脱しました。同年12月31日までは移行期間で、この間に英国とEUは将来の取り決めについて交渉します。
英国とEU間の貿易、旅行、ビジネスに関する現行の規定は、移行期間中も引き続き適用されます。ただし、英国政府は移行期間の延長は求めないとしているため、2021年1月1日から新規定が施行される可能性が高くなっています。
新規定は、企業にどのような影響を及ぼすと予想されますか。
英国政府は2月10日、移行期間の終了後はEUから物品を輸入する際にも、輸入VAT申告と貨物検査が必要になることを明らかにしました。すなわち、諸規制、原産地規則、輸送、物品税、保安管理に対する全面的な検査体制を備えた税関国境が本格的に稼働することになります。ただし、この問題は英国とEUの間で進められている交渉の対象分野でもあります。政府は、これまで常にEUと何らかの協定で合意する方針を主張してきました。自由貿易協定(FTA)が締結・発効できるかどうかにかかわらず、新たに通関手続きなどが発生することは明らかで、輸出入に関する英国のVAT規則と関税規則が影響を受けるもようです。
EUから製品を輸入している企業にどのような影響が出ますか。
政府は以前、EUに対しては輸入申告と支払いにおいて簡素化した手続き(延期会計(Postponed Accounting)及び移行簡易手続き)を導入すると述べていました。しかし、2月10日の発表で、政府はこうした提案を撤回し、全ての輸入には税関申告と関税の支払い、輸入VATの決済が義務付けられるとしています。従ってEU加盟国からの製品は、現在日本からの輸入品に対して定められているものと、同じ規定と手続きに従うことになります。
EU加盟国の消費者に製品を輸出している企業はどうですか。
遠距離販売(Distance Selling Arrangement)の取り決めは英国企業には適用されなくなり、英国企業はEU消費者向け製品をゼロ税率にできる可能性が高くなっています。つまり英国から輸出されるEU向け製品の販売は、日本の消費者に向けた製品販売と同じように扱われることになります。
ではEU企業に製品を輸出する企業には、どのような影響がありますか。
おそらく英国のVAT登録企業は引き続きEU企業にゼロ税率で製品を販売ができますが、EC販売リストを作成する必要はないでしょう。ただし、こうした販売の記録方法は変更されます。EU企業に製品を輸出する英国企業は、その供給にゼロ税率を適用するため、製品が英国を離れたことを証明する証拠を保持することが必要になります。これは日本などのEU域外国への輸出に必要な証拠と同様なものです。
企業はどのような対応を検討すべきですか。
EUから英国に製品を輸入する企業は、英歳入関税庁(HMRC)に事業者登録識別番号(EORI)を申請する必要がありますが、EUに商品を輸出する英国企業はEUのEORIも取得する必要があるため、一部の企業では移行期間後に2つのEORI番号が必要になる場合があります。また各企業は、企業に代わって輸出入申告書類を作成できる通関業者を指名することも検討する必要があります。企業は、英国政府とEUの間で交渉が進められていることを念頭に置き、交渉の進展については2020年を通じてメディアの最新情報に注意する必要があります。
シャロン・ギリス
VAT パートナー
HMCE(現HMRC)にてVATアシュランス関連業務、その後多国籍企業や様々な分野の顧客へのVATの助言を専門とする。現在GBAのVAT部門に高い専門性と豊富な知識をもたらしている。