IFRS9 ヘッジ会計
コロナ禍やウクライナ侵攻といった先行きが見通せない不安定な経済環境のなか、企業はさまざまなリスクに対するヘッジ活動を活発化させており、決算におけるヘッジ会計の検討の必要性も高まっています。今回は改めて国際会計基準(IFRS9)の中のヘッジ会計に焦点を当ててみたいと思います。
弊社はIFRSを採用しており、さまざまなヘッジ取引を検討中です。
ヘッジ会計とは、ヘッジ対象とヘッジ手法の関係を認識し、ヘッジ効果を会計上で認識させることです。このヘッジ関係は主に「公正価値ヘッジ」、「キャッシュ・フロー・ヘッジ」、「在外営業活動体に対する純投資ヘッジ」の3種類に分類でき、公正価値ヘッジの例としては、固定金利ローンの場合ローン残高の公正価値評価が変動するリスクがありますが、金利変動へのスワップを組むことで公正価値変動リスクを回避することができます。
そして、キャッシュ・フロー・ヘッジの例は、変動金利のローンを組んだ場合公正価値変動のリスクはないものの、将来のキャッシュ・アウト・フローが変動するリスクがあり、これを回避するために固定金利へのスワップを組む場合です。
また、在外営業活動体に対する純投資ヘッジの例としては、海外子会社の現地機能通貨からの為替換算による投資額の変動リスクに対して、現地通貨によるローンを組むことで為替差を相殺することができます。
ヘッジ会計を適用する上で注意点を教えてください。
IFRS9ではヘッジ会計を適用するための条件を大きく三つ設けています。①ヘッジ関係の開始時において正式な指定とドキュメンテーションが行われていること、②ヘッジ関係、つまり対象と手法がIFRS9に従って適格であること、③ヘッジの有効性がIFRS9の要件を満たすこと。
この有効性については、さらに三つの具体的な項目を設けており、①経済的関係が存在すること、②クレジットリスクが評価に影響を及ぼさないこと、③ヘッジ関係の比率が実際を反映するものである、これら3項目全て満たすことを求めています。
ヘッジ会計処理はどのようになりますか。
公正価値ヘッジにおいては、その手段や対象は公正価値で測定され、それぞれ変動値はP&Lにて計上しますが、対象がFVOCI(Other Comprehensive Income=OCIを通した公正価値変動)の資本性金融商品の場合は、手段もOCIを通して計上することになります。
キャッシュ・フロー・ヘッジのおける会計処理は、ヘッジが有効な部分については、公正価値変動値はOCIにて認識しますが、無効部分に係る公正価値変動部分はP&Lを通して計上されることになります。なお、OCIで認識される数値は、ヘッジ開始時からの累計損益額、または開始時からの公正価値の累積変動額のうち、絶対額の低い方となります。
在外営業活動に対する純投資ヘッジもキャッシュ・フロー・ヘッジ同様、有効部分について公正価値変動値はOCIで認識しますが、非有効部分に関してはP&Lを通して認識されます。
IFRS9はヘッジ取引の実態を反映させることができる効果的な会計基準ですが、利益操作にも繋がることから厳しい要件を設けています。新たなヘッジ計画がある場合、リスク管理活動と戦略の明確化、文書化がなされていることを確認するのが第一歩です。
高西祐介
監査・会計パートナー
英国大手会計事務所にて多くの英系大企業監査を担当。日系企業をサポートしたいという強い思いからGBAへ。監査、ファイナンスデューデリ、組織再編アドバイスを専門とする。