メイ首相に辞任コール 窮地の中で新政権発足
選挙はふたを開けてみないと分からない、とはよく言ったものですね。8日の総選挙で、メイ首相率いる与党・保守党の獲得議席がまさか過半数を割ってしまうとは……。総議席数650のうち326議席がないと過半数には達しませんが、獲得したのは318。前回2015年の総選挙からすると13議席少なくなりました。一方、野党・労働党は30議席増の262議席を手中に納めました。伸び悩んだのが自由民主党(12議席、4議席増)、消えてなくなってしまったのが英国独立党(1議席がゼロに)、スコットランド独立に向けて第2回目の住民投票の実行を匂わせたスコットランド民族党は21議席減の35議席に縮小しました。
週末にかけて強くなったのが、メイ首相への辞任コールです。コービン労働党党首を筆頭に、一部の保守党議員も「仕切り直し」を求めるようになりました。選挙戦の当初、保守党は支持率で労働党に20ポイントの差をつけていましたが、途中でメイ首相の評判が急落し、投票日直前にはその差は数ポイントにまで狭まりました。「必要がないのに選挙を開始した」「マニフェストが良くなかった」「冴えない選挙戦だった」「過半数を達成しなかった」が退陣を求める理由です。メイ首相が「私に投票してほしい」と大統領選のような訴えをしたことも反感を買いました。
保守党のマニフェストの中で特に批判を浴びたのが「認知症税」です。現状では2万3250ポンド(約325万円)以上の資産を保有する高齢者は自宅介護費を自己負担しなければなりませんが、保守党はこれを10万ポンドまで引き上げることにしました。でも、この10万ポンドに自宅も入れたことで、有権者の怒りを買ってしまいました。住宅価格の高騰で、資産額がこの金額に達する世帯が少なからずいたのです。
メイ首相の選挙スタイルも問題視されました。コービン氏がテレビ討論に積極的に出演し、様々な人に気さくに語り掛けていったのに対し、メイ首相はコービン氏と一騎打ちになる討論を避けました。インタビューの様子を見てもメイ首相は決まった言葉を繰り返し、「まるでロボットのよう」とも言われてしまいました。
一方、予算の裏付けがしっかりした労働党のマニフェストは、保守党政権下の緊縮財政に飽き飽きした有権者に広くアピール。大学の学費を無料化するなど若者向けの政策を提案したことで、普段は投票に行かない若者たちが労働党に票を入れました。
少数単独政権の発足を決意したメイ首相は北アイルランドの地方政党「民主統一党」(DUP)と閣外協力を取り付けることにしました。DUPは10議席持っていますので、保守党はDUPの協力を得られれば、議会で過半数の票を集めることができるのです。
でも、DUPの協力には危険も伴います。北アイルランドはプロテスタント系とカトリック系勢力の対立がある場所です。通常は自治政府があるのですが、DUPとカトリック系のシン・フェイン党がエネルギー問題を巡って対立し、1月から自治政府機能が停止しています。今後も自治政府復活のための話し合いが続きますが、DUPと保守党が協力関係を結ぶことで、政府はこれまでのように政治的に中立ではなくなってしまいます。DUPはまた、英国のほかの地域では可能になった同性婚に反対の立場を取っており、これも将来、問題になるかもしれません。
さて、これからの話です。来週、2つの山場があります。早ければ19日に英国と欧州連合(EU)側がブレグジットに向け正式な交渉を始める予定です。また、同週内にはエリザベス女王が施政演説を行う見込みで、今会期中に政府がどのような法案を通す予定なのかが分かります。その後、下院でこの演説内容について議論され、月末までに賛成するか反対かの票を投じます。ここで過半数を取れないようだと、メイ政権が否定されたことになります。このとき、それでもメイ首相は政権を維持しようとするでしょうか。労働党は影の施政演説を作成する予定で、コービン氏は首相に就任する準備がある、と述べています。