第08回 驚きの英国初等教育現場(その1)
今号からは数回に分けて、現地校の教育現場について、保護者としてカルチャー・ショックを受けた体験の数々をご紹介したいと思います。
まず今でも忘れられないこと……というよりは、これこそが英国にあって日本にない教育メソッドだと感心した点があります。それは息子が英国の小学校へ転校して間もなく、担任の先生から「次のターム(学期)のテーマは第二次大戦なのですが、お子さんを授業に参加させますか、それとも自習させますか」と聞かれたことです。
その場では、この質問が何を意味するのか全く分からず、「自習などとんでもない!」と思ったので「もちろん、授業に参加させます」と即答しました。それにしても、歴史を本格的に学ぶ中学校ならいざ知らず、小学3年生(日本ならば実質2年生)で、第二次大戦を授業で取り上げるということ自体、大きな驚きでした。そして、始まった授業の内容を探ってみると……。
まず図工の時間は、厚紙でガス・マスク作り。理科社会の時間には、当時配給された食糧を分量も含めて再現。実際にそれらを使ってパン生地をこねたり、簡単な調理体験もします。音楽の時間には、流行した軍歌を聴いたりも。つまり、国語と算数を除くほぼすべての教科を、過去の大戦をベースに学習していく、という授業内容だったのです。その方法はこの学期に限ったことではなく、例えば、その次の学期は15〜16世紀のチューダー朝時代をベースに授業が進む、といった具合でした。
そして私に対する質問の真意は、「敗戦国日本の出身者として、子供を授業に参加させますか」という意味だったのです。実際、同じく敗戦国であったドイツ系の子供たちは、世界大戦がテーマの授業には、親の意思で参加しないことが多いそうです。
戦争を初等教育の授業のテーマにすることの是非を論じるのは、また別の機会に設けたいと思いますが、私が感嘆したのは、こうした授業を通じての子供たちの習熟度の高さでした。
子供たちが授業に臨む態度を見たり、感想を聞いたりしていると、どの単元も実に楽しそうで、時には遊びやゲームのような感覚で取り組んでいることが見受けられ、かつ授業で扱われたテーマを深く理解していました。日本の歴史授業では知り得ない事柄まで詳細に話す息子からも、それは察することができました。
これは、息子が現地校へ転校してから1年も満たないころの印象です。言葉が100%は理解できていない中で、これだけ興味を持って授業を受けていること自体が、親としては奇跡のような出来事でした。そして息子が中学、高校へと進級し、高度な歴史の授業に触れたとき、また歴史に限らず、人文学系の授業の根本がこうした小学校での学びを土台としているのだと気が付いたときに、この教育メソッドの良さを再確認できたのです。
北ウェールズにある築700年の「Chirk Castle」で校外授業を受けている児童たち