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Thu, 26 December 2024

第8回 ラブレターのすすめ

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聖ポール大聖堂の北側、ロンドン博物館に向かう途中に瀟洒(しょうしゃ)な建物があります。ここはかつて中央郵便局でしたが、今では某金融機関の本部になっています。その正面にはローランド・ヒルの銅像が。彼は近代郵便制度の父と呼ばれ、全国均一の1ペニー切手や官製封筒、街頭郵便ポストの導入などを提唱した人ですが、元々は英中西部バーミンガムにある学校の先生でした。

ローランド・ヒル
近代郵便制度の父、ローランド・ヒルの像

ある日、郵便配達人が若い女性に手紙を届けているところにローランドが出くわします。でも、彼女はお金を払えないようで受け取りを拒否。当時の郵便料金は非常に高く、受取人負担でした。それを見かねたローランドが代金を払って手紙を手渡しますと、彼女は困り顔で打ち明けます。この手紙の差出人はロンドンに住む恋人で、中身は空っぽだけれども彼が達者なことと住所に付された暗号で彼の愛を確認できたから手紙を受け取らなくても良かったのだ、と。それを聞き、ローランドは驚きます。

17世紀初めに王室郵便の利用が公衆に開放されてから200年以上が経過していた当時、配達距離が遠ければ遠いほど、便箋の数が多ければ多いほど郵便料金は高く、受取人負担が当たり前でした。でも、こうした現実を目の当たりにして、彼の研究心に火がつきました。何かが間違っている。この国の恋人たちが普通にラブレターを送れるようになるにはどうしたら良いか。もっとたくさんの人々が郵便を利用するようになれば郵便料金は安くなるに違いない……。

そうです、発想の転換です。利用者の側に立って考えること。利用者が増えればコストは低減するのです。彼は郵便改革を提言し、1840年には世界初、全国一律の1ペニー切手が導入されました。利用者は爆発的に増え、事業コストが低くなり、近隣諸国もこの制度を真似て世界に近代郵便制度が普及します。恋人も家族もどんどん文通することで愛が深まり、社会は団結し、識字率が高まりました。意思疎通の改善は平和に資するのです。

世界最初の1ペニー切手
世界最初の1ペニー切手。
切手には通常国名が付されるが
英国のものにはない。発明国の矜持か

そうそう、ローランド・ヒルの像の北側にはポストマンズ・パークがあります。とても小さな公園ですが、大きな優しさに包まれています。といいますのも、この公園には他者の命を救う為に自らの命を犠牲にした市井の人の名前と事故の詳細が描かれたメモリアルがあるからです。溺れかけた人や火事に巻き込まれた人を救ったものの死んでしまった無名のヒーローたちが54人。この公園を訪れる度に、寅七は勇気をもらい受けています。

ポストマンズ・パーク
こぢんまりとしたポストマンズ・パーク
ポストマンズ・パーク
他人の命を救うため命を落とした
ヒーローたちのタブレット
 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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