第112回 ピーターパンとワンダーランド
賑やかなジングルベルが街頭に流れ、街はすっかりクリスマス。シティの人影も少なくなりました。ロンドンの冬の風物詩と言えば、ハイド・パークの「ウィンター・ワンダーランド」(移動遊園地)。寅七はピーターパンになった気分で金融街からワンダーランドに向かいました。ピーターパンはハイド・パーク隣のケンジントン・ガーデンズで生まれた、大人になる機会を失った半分「鳥」、半分「人間」の男の子。妖精を引き連れ、空を駆け巡ります。
ハイド・パークのウィンター・ワンダーランド
「ピーターパン」の作者はスコットランド生まれの作家、ジェームス・マシュー・バリ。彼の兄が14歳の誕生日の直前に、アイススケート場で不慮の死を遂げます。深い悲しみに暮れた母を励ますため、兄の服を着て13歳より大きくならないと言い出すバリ。その後、彼は劇作家を目指しロンドンへ。偶然、ケンジントン・ガーデンズで出会った家族から物語の着想を得て、「すべての子供たちが健やかに大人になれますように」と願いを込めた戯曲「ピーターパン」を書き上げました。
ロンドンの冬を彩るクリスマス・マーケット
英国最古の小児専門病院で
あるグレート・オーモンド・ストリート病院
上演が成功するとバリはラッセル・スクエア近くのグレート・オーモンド・ストリート病院を訪れます。英最古の小児専門病院であり、そこには生命の危機に瀕し、大人になりたくてもなれない子供がたくさんいました。バリは1929年、「ピーターパン」から得る収入をすべて同院に寄付、作品の著作権も無期限に病院に帰属させます。1852年の創立当時ベッド数10床の病院は、今では300床を超える世界屈指の小児病院として知られています。
病院玄関脇にあるピーターパン像
さて、ケンジントン・ガーデンズのピーターパン像の脇には、サーペンタイン池が広がっています。ピーターパンの名セリフさながら、「2つ目の星を曲がって、朝まで真っ直ぐ!」この池沿いを歩けばワンダーランドに到着。巨大遊園地の光の装飾はまさに妖精たちの宴です。クリスマス・マーケットは気分を盛り上げ、大人も子供もピーターパンになったがごとく冒険心が躍り出します。
ケンジントン・ガーデンズのピーターパン像
英国でクマと言えば田舎派の「クマのプーさん」と都会派「くまのパディントン」。前者は作者A・A・ミルンが息子の誕生日に、後者は作者マイケル・ボンドが愛妻のクリスマス・プレゼントとして買ったテディベアが作品のきっかけです。両者に限らず、名作の生まれる背景には家族への愛が溢れていますね。それでは皆様、本年もご愛読いただきをどうもありがとうございました。来年も世界中が愛で包まれますように。どうぞ良いお年を。
クリスマス・マーケットで購入したクマのオーナメント