第120回 右から、左から? 回転の不思議
前号の第119回で、キリスト文化圏が左横書き、アラビア語やヘブライ語が右横書き、日本は古くは右横書きでしたが今は左横書き、とご紹介しました。今号は右回り・左回りのお話です。先日、米国の友人から米国のスーパーマーケットの配置は左回り(右側に入口、店内を左回りして左側にレジ)なのにロンドンは時計回りだと言われました。確かに自分の周囲の多くの小売店の配置が、時計回りに買い物するようになっていることに気が付きました。
ロンドンのスーパーマーケットの入り口は、店舗の左側に
右回りと左回りのどちらの方が売上高は良いのでしょう。最近の学説では、記憶に残る空間認識(メンタル・マップ)が消費活動に重要な影響を及ぼし、正確なメンタル・マップを記憶させるような店の配置が大事なのだそうです。人は左脳にドーパミン(動機付けのホルモン)、右脳にノルアドレナリン(危険回避のホルモン)が多く分泌され、その指令が延髄で交差するため、自分の右側に多くの関心が払われ、左側に壁があると安心するようです。
英国の回転木馬は右回り
へぇ~、時計回りの方が正確なメンタル・マップを作りやすいのか、と考えながら散歩していたら、移動遊園地の回転木馬に出会いました。あぁ、これも右回転。回転木馬を表わす仏語「カルーセル」の語源は、イタリア語の「garosello」やスペイン語の「carosella」で、その意味は「小さな戦争」。これは12世紀に十字軍が中東から学んだ騎馬の訓練に由来します。剣を右手に時計回りで戦うのが常でしたのでこの訓練も右回り。
左脳・右脳の働きの違い
その伝統に従ったのか、英国の回転木馬は時計回りです。でも米国は逆回り。回転木馬と小売店の配置に何か関係あるのか分かりませんが、思えば周囲にはたくさんの右回り、左回りがあります。例えばカトリックの教会では西入口から右側通路(使徒書側)を歩き、東奥の祭壇で祈りを捧げ、左側通路(福音書側)を通って左回りに参拝します。でも英国国教会は時計回りが多く、日本の神社仏閣の参拝やお遍路巡りも時計回りが基本だそうです。
教会の参拝にも右回り、左回りがある
更に歴史をたどると、太陽暦のエジプト文明は、人類最初の時計「日時計」の日陰棒の影が右回りするので時計回りを、太陰暦のメソポタミア文明は北極星を中心に惑星が左回りするので、左回りを重んじていたらしいです。両方の文明から影響を受けた古代ギリシャのイオニア様式は、右回りと左回りの螺旋模様を並べています。太陽や地球の自転・公転が左回りでも地球上のすべての生命体の自己複製に必要なDNAは上から見て右回り。あらら……、今回はテーマが広過ぎて目が回りますね。
左回り・右回りが並ぶイオニア様式の柱