第174回 ロンドンで最もヘルシーな地区
ロンドン北部に「アリー・パリー」の愛称を持つ展示場兼宮殿、アレクサンドラ・パレスがあります。1862年のロンドン万博の建築物を再利用し、市民のための宮殿に建て替えられました。翌年、工事が始まったときに英国皇太子(後のエドワード7世)とデンマーク王女アレクサンドラが結婚したので、王女の名前が冠されました。
アレクサンドラ王女
ちなみにマラソンの距離が42.195キロになったのは、1908年ロンドン五輪で王女がコース変更を命じたのが由来です。だからと言ってこの場所がマラソンに関係するわけではありませんが、オープン後にスポーツ会場や劇場、コンサート・ホール、展示場などが増設され、今でも大きなイベント会場の一つです。2004年にはここでNHKのど自慢大会が行われ、在英の日本人を歓喜させました。世界初の定期的なテレビ中継に使われた隣接のテレビ電波塔から、のど自慢大会とゲストの森進一、小林幸子の歌声が日本に発信されたのです。
アレクサンドラ・パレスと電波塔
そう、アレクサンドラ・パレスは定期的なテレビ中継の電波塔が世界で初めて建てられた場所。1930年代当時、海抜600フィート(約180メートル)の高さがあればテレビ電波をロンドン全域に送ることができると言われていました。ロンドンには海抜の低い平野部が広がっていますので、都市部に近くなだらかな丘のある場所が電波塔設置の条件になりました。選考に残ったのがハムステッド・ヒースとアレクサンドラ・パレスのあるマズウェル・ヒル。
1936年に建てられたテレビ電波塔
ところがハムステッドの住民は環境問題に厳しく、テレビ電波が身体に与える影響を懸念し建設賛同が得られませんでした。結局、マズウェル・ヒルに決定し、英国国営放送(BBC)は1936年からこの電波塔を通じて定期的なテレビ放送を開始しました。また、マズウェル・ヒルにはハムステッド地区から延びる鉄道の枝線が敷かれましたが第二次世界大戦後に乗客不足で廃止。跡地周辺は自然遊歩道となり豊かな自然が保全されています。
マズウェル・ヒルの商店街
実は3年ごとに王立公衆衛生協会が発表する「ロンドンの健康・不健康ストリート」ではマズウェル・ヒルがロンドンで最も健康的な地区に選ばれています。最も不健康な地区とされた北東部セブン・シスターズに比べ、平均寿命が4.5年も長く、またファスト・フードやタバコの店舗数が極端に少ないそうです。電波塔の有無にかかわらずマズウェル・ ヒルが健康的な街になれたのは、商店街の顔ぶれを大事にしたからでしょう。少し交通の便に苦労しますが、都心を見下ろす丘の上に建つ住宅街はとても快適です。
マズウェル・ヒルの住宅街