質実剛健これぞ英国！ダービー・ブーツ

#45 質実剛健これぞ英国なブーツ

NPS ソロヴェアー / ブラック・ハイ・シャイン・8アイ・ダービー・ブーツ
NPS Solovair / Black Hi-Shine 8 Eye Derby Boot

ドクターマーチンにそっくりだけれど、ステッチは黄色くないし、履き口に取り付けられたヒール・ループも緑色。そしてそのループには「エアウェア」の代わりに「ソロヴェアー」（Solovair）と刻まれたブーツがある。ドクターマーチンの偽物? と思ってしまいそうだが、ソロヴェアーは英中部ノーザンプトンを拠点とする靴製造会社の組合NPS（Northamptonshire Productive Society）のブランド。高品質の革靴とブーツで知られ、かつてはドクターマーチンのソールを製造していた時代もあった。

ソロヴェアーとドクターマーチンの関係は少々複雑だ。NPSの始まりは1881年にさかのぼるものの、ソロヴェアーというブランド名が誕生したのは1960年代。NPSがドクターマーチンのためのソールを開発した際に名付けられた。NPSはドイツが親会社のR・グリッグス・グループ社に声を掛けられ、ソロヴェアーのソールとグリッグス社のボディ部分を使用したブーツを共同で作った。それが今やファッション・アイコン的な存在となっているドクターマーチンの始まりで、最初のペアは60年にNPSの工場から出荷された。

NPSは90年代半ばまでドクターマーチンを作り続けたものの、もともとドクターマーチンの特許を持っていたR・グリッグス・グループ社が売上低下の圧力を受け、2003年に英国での靴の製造中止を決定。全ての生産拠点を中国とタイに移したため、NPSはドクターマーチンと関わることができなくなってしまった。ただ、1995年にソロヴェアーという名前を商標登録していことから、現在は英国で最初のドクターマーチンのソールを作成したのと同じ木型、革カッターを使用して、独自のブーツを製造しているというわけだ。トレードマークの黄色のステッチは使えないが、ソロヴェアーは職人によるハンドメイドで、英国国内で製造することにこだわり抜き、使用される素材も高品質。NPSはドクターマーチンを失った悔しさをバネに、今も「こうあって欲しい」ブーツを頑固に作り続けている。そんな姿勢に共鳴し、あえてソロヴェアーのブーツを選ぶ人々も増えている。