くまのプーさん、ピーター・ラビット、機関車トーマス、くまのパディントンといった具合に、英国には童話の名作が本当にたくさんそろっている。しかも、この国には子供と親が一緒に楽しむことができる絵本が他にもまだまだいっぱいあるのだ。英チャリティー団体「BookTrust」が勧める0~5歳向けの英国の絵本を一挙に紹介する。
絵だけで構成された夢の世界
The Snowman
スノーマン
「自分がつくった雪だるまと友達のように一緒に遊ぶことができたら」という子供の夢を叶えてみせた世界的な大ベストセラー。文章がなく、絵だけで話が構成されているため、まだ文字を読むことができない子供でも物語の世界にどっぷりと浸かることができる。友情や愛といった大切なものを学べる内容が描かれているという意味においても良書。ちなみに作者のレイモンド・ブリッグズは児童向けだけでなく、社会派の作品も多数残している。
童話の主人公たちが大集合
Each Peach Pear Plum
もものきなしのきプラムのき
夫のアランが執筆、妻のジャネットがイラストを担当するアルバーグ夫妻は、英国人なら誰もが知っている児童作品の名作を数多く残した。その代表作とでも言うべきものが、この「もものきなしのきプラムのき」。親指トムにシンデレラ、ロビン・フッドといった有名な童話や昔話の主人公たちが、本の中でかくれんぼう。言葉遊びにも似たリズムにあふれる文章を手掛かりに、各ページに隠れた登場人物たちを見つけ出していく内容となっている。
忙しい父から娘へのプレゼント
Gorilla
すきですゴリラ
いつも忙しい父親に構ってもらえず、寂しい思いを抱いている少女のハナ。そんな彼女に、お父さんがゴリラのぬいぐるみをプレゼントする。そのぬいぐるみが突然大きくなり、なんと本物のゴリラに変身。しかも、そのゴリラがハナを動物園へと連れていってくれることになる。目をよく凝らしてこの絵本を眺めると、ゴリラの隠し絵が見つかるといううれしいおまけ付き。実際に毎日仕事で忙しいお父さんから娘へのプレゼントに最適。
食べ物の好き嫌いを克服できる?
I Will Not Ever Never Eat a Tomato
ぜったいたべないからね
おしゃまな女の子を描いた「クラリス・ビーン」シリーズで有名な絵本作家のローレン・チャイルドの作品。食べ物の好き嫌いが激しい妹と、何とかしてその妹に好き嫌いなく食べさせようとする兄の奮闘ぶりを描いている。他の絵本とは一線を画す現代的なイラストがまず特徴的。さらには様々な大きさの書体や写真のコラージュを多用するなど、ありとあらゆる視覚的な仕掛けがいっぱい。子供の好き嫌い克服に役立てばもう言うことなし。
子供と究極の選択に挑戦
Would You Rather?
ねえ、どれがいい?
「お城の中で夕食を食べるのと、気球の中で朝食を食べるのとどっちが良い?」「自分が通う学校でお父さんがダンスをするのと、カフェでお母さんが大騒ぎするのとどっちが我慢できる?」。ページを開いた途端に次々と繰り出される究極の選択の数々。本を一緒に読みながら「うーん、こっち!」「どっちも嫌だ!」といった子供たちの反応を見ることで大人も満足するはずだ。兄弟姉妹や同い年の友達同士で楽しむにもぴったりな本。
独立心が旺盛な女の子向け
Princess Smartypants
トンデレラ姫物語
皮肉屋の英国人がいかにも好みそうな絵本。物語の主人公は美人でお金持ちのお姫様。一人でバイクを乗り回し、飼っているペットは恐竜。女王に何を言われても、結婚なんか絶対にしたくない。だから次々と現れる花婿候補の男性たちに無理難題を課して困らせていたら、「からいばり王子」が現 れて……。伝統的な童話で描かれる「可愛らしい女の子」像を見事なまでに破壊する一作。狭量なお父さんが読んだら腰を抜かしてしまうかも。
ページを開いて閉じて楽しむ
Dear Zoo
どうぶつえんのおじさんへ
国籍を問わず、子供たちが大好きな仕掛け絵本。物語の語り手が動物園のおじさんに向けて「ペットを送ってください」と依頼したことから物語は始まる。立体的な仕掛けが施されている檻を開けると、様々な動物が顔を出すという仕組み。
仕掛けを開いて閉じるという体験は何度繰り返しても面白いので、飽きっぽい子供でも長きにわたり楽しんでくれること請け合い。ちなみに作者は有機化学の分野で博士課程を修めたという元研究者だ。
リズミカルな文章が特徴的
Room on the Broom
まじょとねこどん ほうきでゆくよ
小さなお子さん用に本を選ぶとなれば、やはり物語の面白さや絵の魅力に加えて、音読して楽しいものが好ましい。本の題名からしてリズミカルな本作は、音読の楽しさを味わうにはうってつけ。日本語訳もよくできているため、英語で読んでも、日本語で読んでも独特のリズムを楽しむことができる。尚、作家のドナルドソンと挿絵画家のシェフラーの共作では、ねずみが想像上の怪物「グラファロ」と出会う物語である「グラファロ」シリーズも人気。
物語はシュールな展開に
The Tiger Who Came to Tea
おちゃのじかんにきたとら
物語は家族で紅茶を共にする場面から始まる。ありふれた日常空間が描かれているのは最初だけ。突如として人間の言葉を話すとらが登場し、お父さんの夕食から冷蔵庫に残っている食べ物までひとつ残らず食べてしまう。ほのぼのとした絵とシュールな筋書きの組み合わせが独特の魅力を放つ作品。作者のジュディス・カーは、看護婦として働いた後に自身の子供のために絵本を描き始めたという異色の経歴を持つことでも知られている。
親がドキッとする内容
Not now, Bernard
いまはだめ
親であれば、構ってもらおうとして話し掛けてくる子供に対して「今はだめ」と諭した経験が誰しもあるはず。この物語の主人公であるバーナードは、両親から「今はだめ」と言われ続けた揚げ句に、怪物と化してしまう。それでも尚も「今はだめ」と言い続けるバーナードの両親。多忙な大人にメッセージを投げかけているようにも受け取ることができる意味深な作品。作者のデービッド・マッキーは「ぞうのエルマー」シリーズの作者でもある。
ねずみが本当に噛んだ紙が背景に Little Mouse's Big Book of Fears
大人も子供も怖がるねずみ。でも、ねずみにだって怖いものがある。人間は気付いていないかもしれないけれど、ねずみは他の動物や大きな音、さらには迷子になることを恐れているのだ。そんな臆病なねずみの視点から紡ぎ出される物語。内容の面白さに加えて、落書き、新聞記事の切り抜き、折り込みページといった視覚的に面白い要素が詰まっているのが魅力。実際にねずみが噛んだ紙をスキャンしたものを背景として使っているという。
魔法が下手な魔法使いの物語
Meg and Mog
メグとモグ
魔女のメグと猫のモグ、そしてフクロウのホーが織り成す「メグとモグ」シリーズの第1作。モグとホーそして友達の魔女が集まったハロウィーンのパーティーで魔法を試そうとするメグだったが、そこで思わぬ展開が待っていた。「魔法を上手く使えない魔法使い」をテーマとしたこの愉快な物語は、英国で生まれ育った子供であれば誰もが読んだことがある定番の絵本。20冊以上もの続編がつくられているほか、テレビ・アニメ化もされている。
動物だらけの仕掛け絵本
Where's Spot?
コロちゃんはどこ?
本作も英国で絶大な人気を集める仕掛け絵本の一つ。主人公は、家の中で子犬を探し回るお母さん犬。扉の向こう側、ピアノのふたの中、ベッドの下をのぞいてみても、そこにいるのはクマ、ゾウ、ワニといった他の動物ばかり。さて、お母さん犬が愛する子犬はどこに隠れている? 文章は各ページにほんの一文程度しか書かれていないので、言葉を覚えたばかりの子供にはぴったりの絵本。家の中にある物や動物の名前を学ぶのにも適している。
音読を十二分に味わえる
We're Going on a Bear Hunt
きょうはみんなでクマがりだ
温かみを感じさせるイラスト付きでありながら、お父さんと小さな子供4人でなんと「くま狩り」に出掛けるという実は冒険譚的な内容。しかも草原を抜けて、川を渡って、森を突き進んでといった具合に、その行程は困難を極める。シンプルな言葉の連なりが繰り返し出てくるので、子供は自分で口に出した言葉の響きを大いに楽しむことができるはず。日本語訳版には、「飛び出す絵本」という呼び方がぴったりな大型の仕掛け絵本もある。
大事なぬいぐるみはどこに?
Dogger
ぼくのワンちゃん
片時も手を放したことがなかった大切な犬のぬいぐるみが行方不明となり、途方に暮れてしまう男の子。探しに出掛けてみると、そのぬいぐるみは学校のバザーで販売されていることが発覚! さて、この男の子はどうやってぬいぐるみを取り戻すことができるのか。今年で齢88歳になった英国の人気絵本作家シャーリー・ヒューズによる心温まる物語。同氏の作品では、普通の男の子の日常を描いた「アルフィー」シリーズも根強い人気がある。
おむつが取れそうになったら
I Want My Potty!
おまるがない!
おむつが大嫌いなお姫様と、代わりにおまるを使うことを勧めるお妃様。最初は嫌がっていたお姫様もおまるで遊ぶようになっていき……。物語を読み終えた子供は、おまるを使う機会を待ち遠しく感じるようになっているという、親にとっては何ともありがたい絵本。作者のトニー・ロスが自身の娘をモデルとして、少女の様々な成長段階に合わせて描いた「リトル・プリンセス」シリーズにおける最初の作品。他に「ごはんまあだ?」などがある。
BOOK TRUST: 英国の子供を対象に読書を推進する慈善団体。お勧めの児童書を多数紹介しているほか、本の寄付を行ったり、読書の習慣付けを目的とした教育プログラムを運営するなどしている。 www.booktrust.org.uk