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Tue, 19 November 2024
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再確認できた芸術の力YOSHIKI

YOSHIKI

アルバム「Yoshiki Classical」のリリース10周年を記念し、10月に世界ツアー「REQUIEM」を行うYOSHIKI。ロンドンでも10月13日に、クラシック音楽の大家たちによる名演奏の舞台となってきたロイヤル・アルバート・ホールで公演が開催される。7月末に自らのシングルとX JAPANの新曲発表を控えるYOSHIKIに話を聞いた。(取材・文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

YOSHIKI

1989年にロック・バンド「X」(のちにX JAPANと改名)としてメジャー・デビュー。作詞家、作曲家、「X JAPAN」「THE LAST ROCKSTARS」のリーダーとしてピアノ、ドラムを担当。また、ソロ活動を通じてクラシック音楽の分野での楽曲も多数手掛ける。これまでに天皇陛下御即位十年記念式典の奉祝曲、愛知万博公式イメージ・ソング、米ゴールデングローブ賞の公式テーマ・ソングを作曲するなどグローバルに活動。YOSHIKI率いるX JAPANは、これまでアルバムとシングル合わせ3000万枚を超える売上げを誇る。2014年に米マディソン・スクエア・ガーデン、17年にウェンブリー・アリーナで公演を成功させ、米クラシックの殿堂カーネギー・ホールでの単独公演とあわせ、アジア人として初めて音楽の3大殿堂を制覇。10月13日にはクラシックを中心とした世界ツアー「REQUIEM」の一環で、ロンドン公演を行う。

欧州で感じる居心地の良さ

ロンドンは何年ぶりになるのでしょうか。2014年に「Yoshiki Classical」でロンドン公演をなさいましたが、その後もいらしていますか。

X JAPANとしては2017年にウェンブリー・アリーナでコンサートをやりましたが、それ以外でも僕は結構ロンドンを訪れているんですよね。たとえば、今はキングですが、19年にチャールズ皇太子にバッキンガム宮殿でお会いしました*1。故エリザベス女王にもお会いしています*2。あとは楽曲を提供しているサラ・ブライトマンのステージに出たことがあるので、かなり頻繁にロンドンには来ていますね。パリほどではないですが……。パリへは2カ月に1回、いやほぼ毎月来ています。

そんなに! YOSHIKIさんは現在、米ロサンゼルスに生活の拠点を置かれていますが、そういえばかつては欧州への移住も検討されていたと、以前のインタビュー*3でお話しされていましたね。

おっしゃる通りです。ロンドンかパリ、僕は欧州が好きなので。ただ、ハリウッドとか仕事のことを考えるとロサンゼルスにいるのがいいのだろうなと思います。ですから拠点はロサンゼルスですが、こうして今でもかなり頻繁に移動しているわけです。コロナ禍のときは2年間ロサンゼルスに留まっていましたけれど。

クラシックの公演は、前回はロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールで行われました。このときの印象はいかがだったでしょうか。また全体として、日本や米国のオーディエンスと欧州の違いはありますか。

欧州はX JAPANでもソロでも結構回っているのですが、やはり僕の音楽性とすごく合うんだろうなというのはいつも感じます。オーディエンスの反応が非常に「深い」といえばいいのか。リアクションが良いですし、僕自身もすごく満足感があります。

それはもともとYOSHIKIさんが英国の音楽がお好きだったこととも関係があると思われますか。

そうですね、僕はクイーンとかそういった英国のグループにも影響も受けていますし、クイーンのドラマーのロジャー・テイラーさん*4ともコラボをさせていただいたことがあります。以前のYoshiki Classicalのステージで、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」やデービッド・ボウイの「スペース・オディティー」をピアノ・ソロで弾いたときも、非常に会場が盛り上がりました。今回もやろうかな?(笑)

今回のロンドン公演には、以前のクラシック・コンサートとは異なる新しい楽曲や、日米とは違う特別なセットリストは用意されていますか。

はい、もちろんです。僕はもともと挑戦することが好きなので、毎回コンサートのたびに新しい挑戦を自分に課しているのですが、今回は、クラシックで今ちょっと葛藤している曲があります。それとはまた別に、ツアー・タイトルともなっている新曲「REQUIEM」は、昨年母を亡くした直後に書いた曲ですが、現在オーケストラ・アレンジしていますので、それを演奏します。

また、ロンドン公演に関してはスペシャル・ゲストが来る予定です。ただ誰が来るかは今のところ秘密ですけれど(笑)。あとはロイヤル・フィルハーモニー・コンサート・オーケストラとの共演。バレエ・ダンサー*5の起用は、今回はどうしようかなあと考えている最中です。ともかく、結構壮大なステージになると思います。

ツアーではクラシックの名曲のほか、X JAPANの往年のヒット曲も演奏される。バレエ・ダンサーが登場する可能性もあり、クロスオーバーな形態の芸術がYOSHIKIの名のもとに集まるツアーではクラシックの名曲のほか、X JAPANの往年のヒット曲も演奏される。バレエ・ダンサーが登場する可能性もあり、クロスオーバーな形態の芸術がYOSHIKIの名のもとに集まる

  • *1: 2019年8月6日、チャールズ皇太子(当時)が支援する音楽関係のチャリティー・イベントにゲストとして招待された。YOSHIKIはチャールズ皇太子と握手する写真をインスタグラムにアップしている
  • *2: 2019年6月23日、ロンドン郊外ウィンザーで開催されたポロの世界大会「ロイヤル・ウィンザー・カップ」で、ゲストと共にエリザベス女王の間近でポロ観戦をした。エリザベス女王が来賓席の前を通り階段を降りようとしたとき、風が吹きYOSHIKIの長いスカーフが女王の肩に巻き付くようにかかってしまった。その様子は「デーリー・テレグラフ」紙や「メトロ」紙などでも紹介された
  • *3: www.news-digest.co.uk/news/features/12122-yoshiki-interview.html
  • *4: 1994年、ロジャー・テイラーの3作目のソロ・アルバムに参加。2作を共作・共演したほか、同年に開催されたライブにも共演した。2020年にはブライアン・メイとロジャー・テイラーが、NHK紅白歌合戦にリモートで出演し、YOSHIKIと「Endless Rain」をコラボするなど、クイーンとは親交が多い
  • *5: これまでにも、ウクライナから日本へやってきたバレエ・ダンサー、ネリア・イワノワさんや、牧阿佐美バレエ団とステージ上でコラボレーションをしたことがある

涙がメロディーに変わっていった

ツアーのタイトルにもなっている「REQUIEM」は、昨年5月に亡くなったお母さまへの追悼の意を込めた曲ですが、作曲のプロセスで感じたことを教えていただけますか。曲作りに取り組む中で、ご自身の感情にどのような変化がありましたか。

本当にここ数年仕事ばかりで、母と過ごす時間が全然なく、そういった中で母が旅立ってしまったんですね。そのショックがもう大きすぎてー。僕はいつか世界的なアーティストになって、それを母へのプレゼントにするんだという気持ちでいたのです。それでこれまでいろいろ頑張ってきたのですが、もう心にぽっかり穴が空いてしまいました。穴が空いたというよりも、精神的にどん底に落ちてしまって、もう涙が止まらない日々が続きました。しゃれにならないくらい泣いていたので、このままだと生活に支障が出ると思い医者へも行きました。実際、テレビや生放送など、入っていた仕事を何本もキャンセルしましたしね。お医者さんに行ってもまあ、「涙を止める処方箋はないです」なんて言われたりしていました。

でも、そんな状況でなんとなく曲を作り始めたら、なんだか涙がメロディーに変わっていくような気がして、ああ、やっぱり僕は音楽で気持ちを表現していけばいいのだと。そうしているうちに、涙も治ってきた。もちろんまだ止まりはしないものの、人前に出られるまでにはなってきました。

作品を作ることで、心の整理ができてきたということですね。

まあ、そう簡単に整理なんてできないですけれども、曲にその想いを込めることができたし、自分で言うのも変ですが、今まで自分が作った中で1番美しい曲だと思っています。そして、芸術家っていうのはこういうことなんだ、苦しみをアートに変えていくのは、ある種の使命なのだ、と。苦しいときに立ち止まってしまうんじゃなくて、それを糧に前に進むのが芸術家なんだろうと思いました。そしてその作品が今後、誰かの支えになるのだとか、そういうことをどんどん考え始めまして。それで今に至っているというところですね。

YouTubeで拝聴しましたが、とても繊細で美しい曲だと思いました。

ありがとうございます。自信はあるというか、自分でも、ああこういう曲が僕の中から出てくるのかと思いました。

一方、X JAPANの8年ぶりの新曲「Angel」は、もともとYOSHIKIさんのソロ・プロジェクトViolet UK*6のために書かれたものですね。今回X JAPANの新曲として選んだ理由はなんでしょうか。

確かに、もともと僕がソロ・プロジェクト用に書いたものです。ただ、X JAPANに強力なバラードが必要だと思ったのと、「Angel」はいい曲なので、どんな形であれ世の中に出るべきだと感じたため、あの曲を選びました。先日、自分でもテレビで歌ってしまいましたが*7

  • *6: YOSHIKIが率いる音楽ユニット。メンバーはYOSHIKI、ケイティ・フィッツジェラルド、SUGIZO。2005年にロサンゼルスで結成
  • *7: 7月1日、日本テレビ系「THE MUSIC DAY 2023」で「Angel」のパフォーマンスを披露。最愛の母に捧げ、X JAPAN バージョンとは歌詞が一部異なっていた

メロディーは不変的なもの

「Angel」が作られたときと比べて、現在の音楽シーンや社会の状況は大きく変わっています。それに伴い、曲の意味やメッセージが変わったと感じますか。

それが不思議と感じないんですよね。例えば30数年前に「紅」(1989年)という曲をX JAPANで作り、「Endless Rain」(89年)「Forever Love」(96年)なども作ってきました。しかしどの曲も基本的な部分、人の心に刺さる、感動する部分は変わらないと思っています。もともとそういうところを意識して僕は書いてきました。

例えばベートーベンの200年以上前の曲を今も自分が演奏しているように、時代によって少し解釈は違うにしても、メロディーや歌詞というのは不変的なものなのだと思います。伝達方法、ディストリビューションの方法は今後もどんどん変わっていくと思いますが、人が聴くという行為は変わらないし、感動も変わらない。自分だって何十年前の曲、クリームやクイーンの曲を聴いて今も素晴らしいと思うのと同じこと。だから僕も、時代を越えるメロディーを作ろうと思っています。

では逆に、AIの技術が発達して非常に簡単に音楽が作れたり、小説が書けたりするような時代が来ていますが、それについてはどのようにお考えですか。

かなりの大混乱が近い将来に起こると思います(笑)。いろいろな規制がかかるでしょう。AIを使って作った楽曲はグラミー賞を受賞できないとか、SpotifyがAIの作った曲を削除するといったことはすでに起きています。だけどもうAIの流れは止められないでしょうね。例えば、レコーディングのエンジニアは、サウンド・エフェクトなど一種のAIを使っているわけですよね。すでにいろいろな分野でそうした技術は使われてしまっているので、規制をするにしても、どこからどこまでがAIなのかという基準がはっきりしないことには、法整備が大変だろうと思います。テクノロジーはこれから先、もっと早い速度で進化していくと思うので、果たして規制が追いつくのかというところですね。

ただ、僕は作曲家であると同時にパフォーマーでもあります。パフォーマンスに関してはAIはまだ人間のレベルについてこられないだろうと思います。しかし、作曲やペインティングなどアート制作に関しては、もうAIと共存する世界が始まっているので、その中でベストを尽くしてやっていくしかないですね。

ほかのアーティストとのコラボレーションや、XY*8などのプロデュース活動をする上で大切にしていることは何ですか。

プロデューサーとしてであれば、そのアーティストの魅力を最大限に引き出すことだと思いますね。それを1番心掛けています。その上で、僕じゃなきゃできないこと、自分だから引き出せることは何かを考えます。それはミュージシャンだから、というだけではなく感性にまつわること。同じ何かを見ても人によって見え方が違うと思うけれども、僕は自分が感性を磨いてきたと思っているので、結構そういうところは見抜く自信があるというか。まあワインとかも作っていますし、ファッションも今やっていますが、芸術全般において、魅力を見抜いてその方向を開花させるというね。そういうことを自分なりの解釈としてやっています。プロデュースに関しては基本的に、音楽のジャンルは問わないと思っています。

10月のロンドン公演は1日だけですが、ゆっくりできるとしたら、ロンドンでしたいことはありますか。

ふふ(笑)そうですねぇ、大きい公園で寝転がりたいですね(笑)。行きたいところは、うーん、前回ロンドンに行ったときミュージアム*9に招待していただいて、ずいぶん見させていただいたんですけど、ミュージアムは落ち着くので好きですね。そういうところをゆっくり回ってみたいです。

最後に、英国に住むファンに一言いただけますか。

ロサンゼルスにここ数十年住んでいるから分かるのですが、海外に暮らすと日本とは違い、それなりにスムーズにいかないこともいろいろありますよね。今回は、米国に限らず海外に住むそういった方たちに少しでも寄り添えればなという気持ちがあります。例えば米国でいうと、社会的な分断やコロナ禍、暴動などで情勢があまり思わしくないですけど、そんな中で日本人も頑張ってる、というところを見ていただけたらと思います。世界のいろいろなところで皆さんが応援してくださって本当にありがたいですが、このコンサートで僕からも皆さんを応援できたら、と思っています。僕が母の死から立ち直りつつあるのは芸術のおかげですし、芸術の力が皆さんの力になればいいなと思います。

2023年7月、米国で行われたアニメ・エクスポにゲスト出演し、ファンに囲まれるYOSHIKI2023年7月、米国で行われたアニメ・エクスポにゲスト出演し、ファンに囲まれるYOSHIKI

  • *8: YOSHIKIのプロデュースする、ロック・バンドとダンス&ボーカル・グループからなる13人のボーイズ・バンド
  • *9: 2020年、Vicoria&Albert MuseumのKIMONO展に自身の作品を出品した
World Tour with Orchestra 2023
REQUIEM
World Tour with Orchestra 2023 REQUIEM

Royal Albert Hall
10月13日(金)19:30 £35~80
Kensington Gore, London SW7 2AP
Tel: 020 7589 8212
www.royalalberthall.com
最寄り駅: South Kensington

 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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