ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Tue, 19 November 2024

あれは一体何なのか!? 英国の街中に晒されている
謎彫刻を追え!

英国の街を歩いていると至るところで遭遇する彫像たち。歴史的に重要な人物やモニュメントであることは明らかなのだが、次第に気にならなくなり、やがては日常風景にすっかり溶け込んでしまうような存在だ。近年はデモの一環として像が引き倒されたり、いたずらされたりと、災難に巻き込まれている像を目にする機会も増えてきている。今回は、街中にある彫刻や銅像、モニュメントの印象的なエピソードをまとめてみた。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.bbc.co.ukhttps://artuk.org ほか

街中で見られる彫像のあれこれ

英国の彫像や彫刻について知る導入として、絵画や彫刻、芸術作品などをデジタル化し、一般公開する英文化教育慈善団体ArtUKが2022年に1万3792点から分析したデータを参考に、興味深いネタをまとめてみた。

最も彫像化されている人物はヴィクトリア女王

ヴィクトリア女王バッキンガム宮殿前のヴィクトリア記念碑の石像

英国で最も彫像化されている人物はヴィクトリア女王。英国と英連邦諸国を統治していた1837〜1901年は「ヴィクトリア朝」と呼ばれ、産業革命により経済が著しく発展した時期だ。国民に愛された女王の彫像や記念碑は数なくとも国内で175点が確認されており、たいていは後年のふくよかで威厳ある姿をモデルにしているが、若いときのほっそりとした彫像もある。

英国各地に点在する像のほとんどが1890〜1900年代に作られ、2019年までに45体がイングランドにおける国家遺産リスト(National Heritage List for England)に登録されているが、リスト化されていない像も相当数あるようだ。また、カナダやオーストラリア、エジプト、マレーシアなど、連邦諸国にも設置されており、英国を代表する「スター像」の1人だ。

これまでに作られた人物像男性の割合が77.5パーセント

ネルソン提督の像、メアリー・アニングの像写真左: トラファルガー・スクエアにあるネルソン提督の像 / 写真右: メアリー・アニングの像

女性の権利向上についての国内各地の取り組みがニュースに取り沙汰されて久しいが、特定の人物を銅像、彫像として作っていた時代はまだまだ男性優位の社会であった。そのため、現在確認されている2600点以上の特定の人物像の77.5パーセントは男性、17パーセントが女性で、男女混合は5.5パーセント、有色人種は2パーセント以下だそう。うち王室関連の人物が全体の15パーセントを占めている。王室以外では100人以上の将軍、50人以上の提督が彫像化されており、ナポレオン戦争で活躍した英海軍のホレーショ・ネルソン提督は12体が確認されている。

近年になって、女性像を増やす草の根活動が広まっており、化石採集家としてヴィクトリア朝時代に生き、後の古生物学に影響を与えたメアリー・アニング(Mary Anning、1799〜1847年)の像が、アニングが生まれて223年後の2022年5月に建てられた。「大きな目的を持って生きた姿」を強調するため、アニングが大股で歩く様子が表現されているという。

女性像よりも多い動物の像

バタシーの犬の像4年あまりしか見ることのできなかったオリジナルのバタシーの犬の像

ロンドンで女性像よりも多く作られたのが動物の像だ。現在確認されているだけで、鳥、猫、犬、馬、ライオン、亀、リス、スッポンなどの像が建てられている。英国で動物愛護の精神はすでに20世紀初頭には目に見える形で発展していた。それを裏付ける出来事の一つが、1903~10年に犬の生体解剖をめぐり社会問題となったブラウン・ドック事件(Brown Dog Affair)だ。これは、ロンドン大学で解剖された茶色のテリアに、適切な麻酔が施されたか否かをめぐり、スウェーデンの動物愛護運動家たちが担当医師に対し訴訟を起こした事件。後に解剖された犬たちの慰霊碑が06年に英南部バタシーに立てられたが、10年に撤去されるまでこの像めぐる紛争が絶えなかった。

85年、犬だけでなく動物実験に対する反意を象徴するものとして、新しい記念碑がバタシー公園に建てられた。

何かと注目を浴びる英国らしい!? 銅像

ニュースに取り上げられたり、インスタ映え(?)で注目されたりと、良くも悪くも話題の尽きない像がある。そこには像への偏愛はもちろん、メインストリームの歴史に対し少なからず憎しみを感じている人が一定数いることを表している。

いつもカラーコーンをかぶっている グラスゴーの初代ウェリントン公爵の騎馬像

グラスゴーの初代ウェリントン公爵の騎馬像

ナポレオン戦争を勝利に導いた指揮官の一人で、首相を2度務めた初代ウェリントン公爵像(1769〜1852年)の像。スコットランド、グラスゴーの王立取引所の前にあり、イタリアの芸術家カルロ・マロケッティ(Carlo Marochetti)によって1844年に作られた。この銅像は、1980年代ごろから何者かによって頭にカラーコーンがかぶせられ、以来40年あまり、このおかしな伝統が続いている。像の保護の観点から、これまで市議会と警察がカラーコーンを撤去し、地元住民にも止めるよう呼び掛けてきたものの、撤去しても数日後には新しいものがかぶせられるという、取り留めのない攻防戦を今日まで続けてきた。カラーコーンはオレンジと白のノーマルなもの、英国が欧州を離脱した2020年1月31日には欧州旗である紺色に星模様がついたもの、ウクライナがロシアに侵攻された22年にはウクライナの国旗を模したものなど、社会の流れに応じてさまざまなものがかぶせられている。「匿名の誰かによる介入」というアーティスティックな点が、正体不明のアーティスト、バンクシーにもインスピレーションを与えているらしい。

Equestrian statue of the Duke of Wellington
16 Royal Exchange Square, Glasgow G1 3AG

引きずり倒されアートに転じた エドワード・コールストン像

エドワード・コールストン像

2021年に米国ミネアポリスの路上で、アフリカ系米国人のジョージ・フロイドさんが死亡した事件をめぐり、世界的に「ブラック・ライブズ・マター」の活動が活発化した。英西部ブリストルでも、17世紀に奴隷商人として富を築いた同地出身のエドワード・コールストンの像が、この活動の余波で市民たちの手により台座から引きずり下ろされ、乱暴にペイントされ、ブリストル港から海に投げ込まれた。この事件により広く注目を浴びることとなったものの、1895年に建てられたこの銅像は20世紀末にはすでにその存在をめぐる論争の的であり、1990年代には銅像の撤去を求める運動が活発化していた。引きずり下ろされたコールストンの銅像は後に同地の博物館Mシェッドにて横たえられた状態で期間限定で展示され、現在は同館で定期的に開催される無料のツアーでのみ見ることができる。

Statue of Edward Colston
M Shed, Princes Wharf, Wapping Road, Bristol BS1 4RN
www.bristolmuseums.org.uk/m-shed/whats-on/behind-the-scenes-tours

盗まれた像は一体どこへ? スティーブ・オヴェット像

スティーブ・オヴェット像

英南東部ブライトン出身の陸上競技選手で、1980年モスクワ・オリンピック男子800メートルの金メダリスト、スティーブ・オヴェット(Steve Ovett、1955年〜)の像。2012年のロンドン・オリンピックを記念し、地元ランナーを勇気付けるように走る姿が海沿いの道路に建てられた。実はこれは2代目で、等身大の初代の銅像は元々市内のプレストン・パークにあった。しかし、07年に無慈悲にも右足首だけを残して何者かによって切断され、体の大部分が盗まれてしまった。目撃者もなく、監視カメラの映像にも何も映っていなかったことから、迷宮入りの事件となっている。

Steve Ovett Statue
299 Madeira Drive, Brighton BN2 1EN

一生家に帰れない男 タクシー!

一生家に帰れない男 タクシー!

ロンドン中心部のブラックフライアーズ駅近く、瀟洒な建物が並ぶ小道に突如現れるスーツ姿の男性像。これは1983年に米アーティスト、ジョン・スワード・ジョンソン2世によって作られた銅像で、米ニューヨークで披露された当時は青と赤のネクタイをしたポップな見た目だった。2014年に現在の場所に移動され、雨風に長年晒された結果、現在は渋い男性に変貌。しかし何の間違いか自転車専用レーンに面して設置されてしまい、家に帰ることができない像として知られている。Google mapのストリート・ビューで見ると、人物と認識され顔にモザイク加工がされているのもネタの一つだ。

Taxi!
1 John Carpenter Street, London EC4Y 0JP

外せない記念写真のスポット ロンドン中心部にある彫像

広場などを中心に、至るところに歴史上の重要な人物や英国の文化を担う像や記念碑が設置されている。特に外国から多くの観光客が訪れるロンドン中心部には、日本人にもなじみのある人物やキャラクターの像が点在している。

バッキンガム宮殿の金ピカ像 ヴィクトリア記念碑

ヴィクトリア記念碑

ロンドン中心地、バッキンガム宮殿前にあるヴィクトリア女王の記念碑で、彫刻家トーマス・ブロックによって作られた珠玉の作品。1911年に公開となったが、完成は24年。記念碑はペンテリック大理石で作られており、頂点には古代ローマで勝利を神格化した青銅製の金色の女性像「勝利の翼」が輝き、コンパスを持つ忠誠とこんぼうを持つ勇気を擬人化した2人の像が立つ。

Victoria Memorial
London SW1A 1AA

存在感が半端ない ウィンストン・チャーチル像

ウィンストン・チャーチル

国会議事堂横のパーラメント・スクエアに立つ、約7メートルの存在感あるウィンストン・チャーチル元首相の像。この像は第二次世界大戦中の1941年、爆撃を受けた議場を視察する様子を撮影した写真に基づいて作られた。制作の過程で「額がムッソリーニ* に似ている」と指摘が入り、完成前に顔の造作が大幅に変更されたという。
*イタリアのファシスト指導者で英国の敵だった

Statue of Sir Winston Churchill
Parliament Square, London SW1P 3JX

意匠を凝らした装飾芸術 アルバート記念碑

アルバート記念碑

1872年に建てられた、ケンジントン・ガーデンズ内のロイヤル・アルバート・ホール北側にあるヴィクトリア女王の夫アルバート公の記念碑。ゴシック・リバイバル様式の華やかなシボリウム* の中にアルバート公の像が鎮座し、完成までに10年を要した。こちらの像も何度か制作され、3度目にして納得のいく出来栄えになったそう。
*教会特有の建築様式で祭壇を覆う天蓋のこと

Albert Memorial
Kensington Gardens, London W2 2UH

もたれる姿が妖艶…… ウィリアム・シェイクスピア像

ウィリアム・シェイクスピア像

ウェストミンスター寺院内にあるウィリアム・シェイクスピアの記念碑をモデルに作られ、1874年に完成した大理石の像。レスター・スクエアの中心部にあり、シェイクスピアが触れている巻物には「十二夜」より「暗闇とはすなわち無知のこと」(THERE IS NO DARKNESS BUT IGNORANCE)の一節が。頬づえを付き、佇む様子はほかの彫像とは一味違った雰囲気だ。

Statue of William Shakespeare
Leicester Square, London WC2H 7DE

意味深なメッセージが込められた マハトマ・ガンジー像

マハトマ・ガンジー像

国会議事堂横のパーラメント・スクエアにインドとの友好的な関係を願って2015年に設置された像。インドの政治指導者ガンジーはロンドン大学に留学した経歴を持つ。ガンジーの「(自分は)人民の民である」という生前の思想を反映し、台座は意図的に低く設定。インドに対し差別的見解を持っていたチャーチル元首相の像の近くに設置されたことは、大きな意味を持っている。

Statue of Mahatma Gandhi
Parliament Square, London SW1P 3JX

談話の名手に溺愛された猫 猫のホッジ像

猫のホッジ像

18世紀の文学者サミュエル・ジョンソンの旧宅、ジョンソンズ・ハウスの前のゴフ・スクエアにある猫の彫像。ジョンソンは数匹の猫を飼っていたが、この黒猫のホッジはジョンソン自らがカキを毎日市場に買いに行き、与えていたほどかわいがられていた。ジョンソンが完成させた英語辞典の上にはカキの殻が彫られており、時折訪問者が残したコインが入っていることもある。

Hodge The Cat Statue
2 Gough Square, London EC4A 3DE

公共エリアに裸の像!? エロスの像

エロスの像

地下鉄ピカデリー・サーカス駅前にある噴水。通称「エロスの像」と呼ばれるこのシャフツベリー記念噴水の頂部には、ギリシア神話の返愛の神アンテロースの像が。1893年に完成した際、公共スペースに裸の人物像を置くことに対し一部で物議を引き起こしたものの、市民はおおむね好意的に受け取ったという。「イブニング・スタンダード」紙のロゴはこの像が元になっている。

Shaftesbury Memorial Fountain
Piccadilly Circus, London W1J 9HS

パディントン駅の顔 くまのパディントン像

くまのパディントン像

英作家マイケル・ボンドの児童文学作品に登場するくまのキャラクター、パディントン。南米ペルーから密航者としてパディントン駅に到着した姿を元にした像だ。像はパディントン駅1番線ホームにあり、人々が足を止めて撮影してる様子がうかがえる。訪れた人がパディントンを触っていくため、鼻と帽子がちょっと剥げている。真横にはパディントンが描かれたベンチもある。

Paddington Bear Statue
19 Eastbourne Terrace, London W2 6LG

隠れた名スポット 見落としがちな場所にある像

人通りの多い場所にあってなかなか足を止めることができなかったり、反対にあまりにも目立たない場所にあったりと、名作でありながらあまり知られていない像を紹介。出掛けた際はぜひ積極的に回り道をして像を見てほしい。

批評家からは不評だが市民にはウケけている オスカー・ワイルドとの会話

オスカー・ワイルド

アイルランド出身の詩人、作家、劇作家のオスカー・ワイルドに捧げられた彫刻。1980〜90年代初頭にかけて、英映画監督のデレク・ジャーマンを含むワイルド作品のファンによって設置運動が行われ、デザインが面白いという理由で採用された石棺のような異色の作品だ。ベンチとして使っている人もおり、すっかり市民の生活に溶け込んでいる。上部にぱっと見なんだか分からない顔が付いているが、これがワイルド。笑いながら喫煙しているさまが表現されている。度々手元のタバコが盗まれることに管理者は頭を悩ませているらしい。

A Conversation with Oscar Wilde
3 Adelaide Street, London WC2N 4HZ

悪魔感の薄れた平和な ピーターパン像

ピーター・パン

英童話作家、劇作家のジェームス・マシュー・バリー著作「ピーター・パン」に登場するピーター・パンの像。バリーの自宅にある像から鋳型をとり、1912年に制作された六つの像のうちの一つがケンジントン・ガーデンズにある。高さ約4.3メートルの円錐形の像の上に少年が乗り、フルートのような楽器を吹いている姿が表現されている。バリーは同著のモデルになった少年マイケル・ルウェリン・デイヴィスを元に依頼したものの、別の少年がモデルにされ、「ピーター・パンの悪魔的な要素が全然出ていない!」とその出来栄えに肩を落としたそうだ。

Peter Pan Statue
Hyde Park Street, London W2 2UH

栄光に隠れた闇を表現 エイミー・ワインハウス

エイミー・ワインハウス

観光客で常ににぎわうロンドン北部のカムデン・タウンにある、英歌手エイミー・ワインハウスの像。ワインハウスの曲は世界を席巻し、華やかな印象の表の顔とは裏腹に、私生活では薬物乱用や精神疾患に苦しみ、2011年にアルコール中毒で27歳でこの世を去った。夭逝して3年後の14年、由縁のあったステーブルズ・マーケットに像が設置された。ハイヒールを履き、アイコニックな髪型で強い女性をイメージさせるような立ち姿だが、よく見ると表情に少し陰りがあり、ワインハウスが晩年に抱えていた生への不安をあえて表現している。

Statue of Amy Winehouse
407 Chalk Farm Road, London NW1 8AH

視線を空に向けてみよう バットマン像

バットマン像

常に多くの人で混み合うレスター・スクエアは、前を見ていないと真っすぐ歩けず空を見上げる機会が少ないエリアかもしれない。次回レスター・スクエアを訪れる際は、映画館オデオンの上をぜひ確認してみてほしい。このバットマン像はレスター・スクエアの誕生350年を記念し2020年に作られたもの。同時にくまのパディントンやチャーリー・チャップリン、ミスター・ビーンなど、映画界の大スターたちの像もお目見えとなったが、それらが手の届く路上にあるのに対し、バットマンはロンドンの街を威厳を持って見下ろし、下界と一線を画している。

Batman Statue
ODEON Luxe Leicester Square,
22-24 Leicester Square, London WC2H 7JY

像にまつわるコラム

1. 美しいお尻をめぐる壮絶な争い

2020年、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で、英国でも美術館や博物館が一時的な閉鎖されていたころの話。英北部にあるヨーク美術館の学芸員たちが、芸術を愛する市民に対し、SNSなどオンラインを通じて月ごとのお題に合った画像を投稿するキャンペーン「#CuratorBattle」を行った。その一つのテーマが「最高のお尻博物館」。世界各国の美術館のキュレーターたちが、所蔵作品の中で美しいお尻を持つ像を撮影して投稿し競い合い、ちょっとした話題になった。人だけでなく動物のお尻など、ユーモアにあふれた作品は今もX(旧ツイッター)で#BestMuseumBumで見ることができる。

2. 新しく彫像を設置するには?

英国は美術館や博物館の常設展示を無料で鑑賞できるなど、芸術にオープンな国だ。また、街中の彫刻に比較的新しい年に制作されたプレートが付いていたりと、作品が定期的に設置されていることが分かる。こういった公共スペースにふさわしい現代彫刻の設置、管理に関しては、基本的にその地域の評議会(Council)に任されているそう。ウェストミンスターの場合、同地の公園や庭園などで、6カ月または12カ月の期間限定で展示する彫刻作品の出願を受け付けている。制作費用は自己負担の出展となるものの、展示スペースは無料で提供される。
 

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