スターマー内閣が始動 閣僚たちの顔ぶれ
7月4日の総選挙で、2010年から14年にわたり続いた保守党政権が終わりを迎えた。それに伴い発足したのが労働党によるスターマー政権。キア・スターマー首相は、首相就任の初日である同5日、さっそく第一次閣僚名簿を発表した。今回は、英国政界の新たな扉を開くべく集合をかけられた内閣メンバーの中から、主要官僚8人の顔ぶれを紹介する。
参考: https://members.parliament.uk/Government/Cabinet
地味で堅実な元法廷弁護士
キア・スターマー首相 /
財務第一卿(61)
Keir Starmer: Prime Minister/First Lord of the Treasury
ロンドン中心部のサザック出身。労働者階級の家庭に生まれる。両親ともに労働党支持者で、名前のキアは労働党創設者の1人のキア・ハーディから取られた。オックスフォード大学で民法を学び、1987年に人権を専門とする法廷弁護士に。2008年に検事総長になり、議会の不正経理問題で与野党の議員を起訴するなど、刑事司法への貢献が評価され爵位を受ける。その後政界入りし、15年に下院議員に当選。20年には労働党党首に。当意即妙な物言いやユーモアとは無縁の地味で堅実な人柄だが、派手な演出や空約束ばかりで見せ物と化していた保守党政治にうんざりした国民にとっては、安心感のある首相といえる。魚菜食主義者で、アーセナルのファン。
英国初の女性財務相 レイチェル・リーヴス財務相(45) Rachel Reeves: Chancellor of the Exchequer
サッチャー政権の誕生した1979年に、ロンドン南東部ルイシャムで教師の両親の下に生まれる。英国14歳以下のチェス選手権でタイトルを持つ。父親の影響で16歳で労働党に入党。オックスフォード大学で哲学、政治、経済を学び、その後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済学の修士号を取得。ゴールドマン・サックスから就職のオファーを受けたが、イングランド銀行(英中央銀行)を選び、エコノミストとして日本担当デスクで働き、90年代の日本の停滞を調査。2010年に出馬。同僚からの評価は「常に用意を怠らず粘り強い」。英国初の女性財務相として、第二次世界大戦後最悪といわれる経済状況を引き継ぐ。
マンチェスター出身の元ヤンキー
アンジェラ・レイナー副首相 /
格差是正•住宅•コミュニティー担当相(44)
Angela Rayner: Deputy Prime Minister/
Secretary of State for Levelling Up, Housing and Communities
英北部マンチェスター出身。労働者階級の貧しい家庭に生まれる。16歳で妊娠し学校を中退。その後、社会福祉の研修を受け介護士として働く。労働組合の代表となり労働党に入党。2014年にアシュトン・アンダー・ライン選挙区から出馬し、15年の総選挙で当選。20年には副党首選に立候補し当選した。強力な支持基盤を持ち、将来のリーダーとしての可能性から、「ニュー・ステーツマン」誌で23年の左派政治界で最も影響力のある人物の第8位にランクイン。21年、議会で保守党幹部を強く批判し、「イートン校出身のクズども」と罵った。
秀才肌のベテラン政治家 イヴェット・クーパー内相(55) Yvette Cooper: Home Secretary
スコットランドのインヴァネス生まれ。父親は原子力廃止措置機関の元非常勤理事、英国原子力産業フォーラムの元会長のトニー・クーパー氏。オックスフォード大学を卒業後、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済学を学ぶ。1992年には民主党米大統領候補ビル・クリントンの下で働いた。95年から、97年に下院議員に選出されるまで「インディペンデント」紙の主任経済特派員。99~2005年にブレア内閣で政務次官を務める。05年に住宅・都市計画担当国務相、08年に女性として初めて財務長官に就任し、ノーザンロック銀行の国有化に携わった。初めて産休を取った英国の大臣で、夫は元財務経済担当相のエド・ボールズ氏。
イスラム系女性議員の草分け シャバナ・マハムード大法官/司法相(43) Shabana Mahmood: Lord Chancellor/ Secretary of State for Justice
英中部バーミンガムで生まれ。幼児期は父親の仕事の都合で家族でサウジアラビアに暮らす。帰国後父親が地元の労働党の議長になったことから、10代で地方選挙の選挙運動を手伝う。マンチェスターの労働者階級に育った法廷弁護士が活躍するTVドラマ「カヴァナQC」の影響を受け、オックスフォード大学で法律を学ぶ。1学年上にリシ・スナク氏がいた。2002年の卒業後、03年にインズ・オブ・コート法科大学院の弁護士職業課程を修了。賠償責任法を専門とする法廷弁護士になり07年までロンドンで勤務。10年の総選挙で、バーミンガム・レディウッド選挙区の下院議員に当選。英国初の女性イスラム教徒下院議員の1人となった。
ブレア似のコックニー ウェス・ストリーティング保健社会福祉相(41) Wes Streeting: Secretary of State for Health and Social Care
ロンドン東部ステップニーで十代の両親の下に生まれ公営住宅で育つ。両親の離婚で母親に育てられる。当時はジョン・メージャー首相率いる保守党政権の末期にあたり、片親家庭に厳しい暮らしを強いる政府に反感を覚える。「上流階級の人たちに先を越されるのは我慢ならない」と考えてケンブリッジ大学へ。全国学生連合の会長となり、政界進出をめざす。2015年、ロンドン東部イルフォード北部選挙区から立候補し、保守党の多数派を覆して勝利。自信に満ちたメディア出演と率直な物言いは、トニー・ブレア元首相にも比較される。ゲイであることを公表しており、10年来のパートナーがいる。敬虔なキリスト教徒でもある。
24年の政治キャリア デービッド・ラミー外相(51) David Lammy: Foreign Secretary
南米ガイアナ共和国出身の両親の下、ロンドン北部アーチウェイに誕生。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)で法律を学び、1994年にリンカーン法曹院で弁護士資格を取得。その後、米ハーバード大学に進学し、同校の法科大学院に通う最初の黒人英国人となった。卒業後97~2000年まで米国で弁護士として勤務。同年ロンドン北東部トッテナムの労働党候補に選ばれ当選し、下院最年少の26歳で議員となる。ブレア政権時には文化・メディア・スポーツ相などを歴任。12年にロンドン市長選挙で労働党のケン・リヴィングストン氏を支持し、同氏の選挙運動委員長を務めた。自身も16年に立候補し4位に終わる。妻は画家のニコラ・グリーン氏。
元労働党党首が復活 エド・ミリバンドエネルギー安全保障ネットゼロ担当相(54) Ed Miliband: Secretary of State for Energy Security and Net Zero
ロンドン北部でポーランド系ユダヤ人移民の家庭に生まれる。父親のラルフ・ミリバンド氏はマルクス主義の学者。17歳で労働党に入党。このころ労働党左派のトニー・ベン議員のインターンとして働いた。オックスフォード大学で学び、さらにロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済学を修め、理学修士の学位を取得。テレビ局で短期間、記者として勤務した後、93年、労働党で影の主席財務相を務めていたハリエット・ハーマン氏のスピーチ・ライター兼リサーチャーとして働き始める。初当選は05年5月。兄は元外相デービッド・ミリバンド氏で、10年には兄弟で激しい労働党党首争いをし、僅差で兄を破り党首に当選。
そのほかの閣僚
- 国防相:ジョン・ヒーリー
- 労働年金相:リズ・ケンダル
- ランカスター公領尚書・内閣府相:パット・マクファーデン
- 教育相: ブリジット・フィリップソン
- 運輸相: ルイーズ・ヘイグ
- ビジネス貿易相/商務省長官: ジョナサン・レイノルズ
- 科学・イノベーション・技術担当相: ピーター・カイル
- 北アイルランド相: ヒラリー・ベン
- スコットランド相: イアン・マレー
- ウェールズ相: ジョー・スティーヴンス
- 文化・メディア・スポーツ相: リサ・ナンディ
- 財務省政務官: アラン・キャンベル
- 財務長官: ダレン・ジョーンズ
- 下院院内総務・枢密院議長: ルーシー・パウエル
- 環境・食糧・農村地域相: スティーブ・リード
- 国務相: アネリーゼ・ドッズ
- 上院院内総務・王璽尚書: バロネス・スミス・オブ・ビジルトン