ステーキ&キドニー・パイ
Steak & Kidney Pie
あけましておめでとうございます。英国にはおせちのようなお正月料理はないようなので、今回は英国料理の王道「ステーキ&キドニー・パイ」をご紹介します。「パイ」と言うと、私にとってはデザートとかお菓子という感覚でした。アップル・パイを始めとして、子供のころに食べた「エンゼルパイ」「源氏パイ」など。だから、英国でパイをご飯にするというのにはびっくりしました。それも、コテージ・パイ、ポーク・パイ、フィッシュ・パイというように種類も色々。おまけに日本でパイと言えば「これ」と思っていたサクサクの皮(パフ・ペストリー)だけでなく、ショートクラスト・ペストリーやマッシュ・ポテトでパイ皿に蓋をするタイプのものなどがあります。英国パイのバリエーションの豊富さは、世界を見渡してもトップ・クラスなのではないでしょうか。
中でも「ステーキ&キドニー・パイ」は、「最も英国らしい肉料理(the most British of British meat dishes)」とか、「英国の国民食(a British national dish)」などと呼ばれるほど親しまれているパイで、パブ料理の定番でもあります。でも、名前からは、私たち日本人にはちょっと想像しにくい料理だと思いませんか。「ステーキ」と聞けば、たいていの日本人は、焼いた一枚の牛肉を思い浮かべるでしょう。また「キドニー」は「キドニー・ビーンズ」から赤インゲン豆のことだと思う人もいるかもしれません。となるとこれは一枚の肉と豆をパイ生地で包んだもの? いえいえ、ステーキ&キドニー・パイは、さいの目に切った牛肉と牛または仔羊の腎臓部分をシチュー状に煮込み、パイ生地で覆って焼き上げたものです。
「The Oxford Companion to Food」という辞書によれば、元々この料理は「ビーフステーキ・プディング」という形で18世紀ごろから知られていたようです。ここで「プディング」と呼ばれているのは「スエット(suet)」と呼ばれる牛や羊の脂と、小麦粉を混ぜて作った生地のこと。この牛肉だけのプディングにキドニーが加わったのは、1861年に出版された「ビートン夫人の家政読本」でのことだそうです。その後、このメニューがポピュラーになるにつれ、プディングよりもより簡単に作ることのできるパイを使ったレシピへと変化していったのだとか。
キドニーについては、仔羊のキドニーか雄牛のものを使うかで、有名シェフたちの間でも意見は分かれます。近所の肉屋さんで「ステーキ&キドニー・パイを作りたいのだけれど、何のキドニーを使うのがいいの?」と尋ねると、「どちらでも好きな方でいいよ。ここではラムのキドニーしかないけど」と言われたので私はラムで作りましたが、スーパーで売られているレディーミールのものには雄牛のキドニーが使われていることが多いようです。いずれにしても英国人が「stodgy food」と呼ぶ、どっしりと食べ応えのある料理になることに変わりありませんが。
簡単ステーキ&キドニー・パイ(4人分)
材料
- 牛肉(シチュー用) ... 400g
- 仔羊のキドニー ... 2個
- 小麦粉 ... 大さじ2
- 玉ねぎ ... 1個
- ビーフ・ストック ... 600ml
- 塩・胡椒 ... 適量
- ウスターシャー・ソース ... 適量
- ベイリーフ ... 1枚
- 市販のパフ・ペストリー ... 300g
- 植物油 ... 適量
- 卵 ... 適量
作り方
- 牛肉をサイコロ状に切り、塩・胡椒と小麦粉をまぶしておく。
- 薄切りにした玉ねぎを、油をひいたなべでしんなりと透き通るまで炒める。
- 油をひいたフライパンで❶の牛肉を焦げ目がつくまで焼き、よけておく。
- ❸と同じフライパンでみじん切りにした仔羊のキドニーを焦げ目がつくまで焼く。
- ❸と❹を❷のなべに入れ、ビーフ・ストックとウスターシャー・ソース、ベイリーフを加えて沸騰させ、沸騰後は弱火で肉が柔らかくなるまで煮込む。
- 塩・胡椒で味を整え、冷めたら耐熱皿に移す。
- パフ・ぺストリーを5mmくらいの薄さに伸ばし、耐熱皿の上から被せる。
- ペストリーの上からフォークで穴をあけ、表面に溶き卵を塗る(余ったペストリーやタイムの枝で飾りをつけても)。
- 220℃に予熱したオーブンで30分程度焼けば出来上がり。
memo
キドニーが嫌い、あるいは手に入らないという場合には、キドニー抜きの「ステーキ・パイ」にしてもおいしいです。エールやスタウトなどのビールを加えるレシピもあるので、お好みで試してみてください。