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Sun, 22 December 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 83

アップル・パイ
Apple Pie

Apple Pie

「ウィンドフォールズ(windfalls)。ご自由にどうぞ」と書かれた箱にいっぱいのリンゴが、近所の家の歩道沿いに置かれていました。これを見ると「また今年もリンゴの季節がやって来たな~」と感じます。庭の木にたくさん実ったリンゴをこうしておすそ分けするのは、英国らしい習慣。林望氏の大ベストセラー「イギリスはおいしい」の中でも紹介されています。

さて、頂いてきたリンゴで早速作ったのは、誰もが一度は食べたことがあるアップル・パイ。この国では最もポピュラーなパイの一つです。そして多分、そのパイにたっぷりとカスタードをかけて食べる英国人の様子を初めて見たときには、「どうしてわざわざアップル・パイにカスタードをかける必要があるのか?」と疑問に思った方も少なくないと思います。

一方で、アップル・パイといえば、米国のもの、というイメージを抱いている方もいるかもしれません。というのも、「極めて米国らしい」とか「米国を象徴する」といった意味で使われる有名なフレーズ「as American as apple pie」があるから。もちろん、英国人の多くはこれに異議を唱えています。著名な食文化史の研究者のアイバン・デイさんもその一人。デイさんによれば、欧州の人々が米国に入植する以前から、英国では「アップル・パイ」を食べていたというのですから、当然でしょう。

では、アップル・パイがいつごろからこの国で食べられていたかというと……はっきりとした年代は分かっていません。最も古いレシピとしては14世紀のものが残っていますが、それは、スパイスとイチジク、レーズン、ナシと、更にサフランを加えて焼いたというもので、現在のアップル・パイとは少々趣が異なっていたかもしれません。

また、デイさんが紹介するところによると、シェイクスピア時代のアップル・パイは、分厚く、どっしりとしたパイ生地に、皮をむいた丸ごとのリンゴをいくつか入れて焼いたもの。焼き上がったら、パイの上部(蓋となる部分)を切り取り、上からアルコールで作った(!)カスタードをじゃぶじゃぶかけて食べたのだとか。アップル・パイにカスタードをかけるのは、既にシェイクスピア時代から行われていたのですね。

ちなみに日本のアップル・パイは、サクサクとした食感の、英国では「パフ・ペイストリー」と呼ばれる生地を使ったものが多いですが、こちらでは小麦粉にバター(脂類)、塩と水を混ぜただけの「ショートクラスト・ペイストリー」が一般的。これは、小麦粉に対して脂肪分が多く、どちらかというと、パサパサとした食感の生地です。

生地がポロポロしやすいので、こぼさず上手に食べるには、やっぱり、パイが溺れそうになるほどカスタードをたっぷりかけるのが良いのかもしれません。

アップル・パイの作り方
(直径20センチの浅いパイ皿1個分)

材料

  • リンゴ(好みの品種で) ... 650g
  • 小麦粉 ... 225g
  • 塩 ... ひとつまみ
  • バター ... 140g
  • 水 ... 大さじ6
  • カスター・シュガー ... 50g+飾り用少々
  • シナモン ... 小さじ1

作り方

  1. ボウルに小麦粉と塩を入れ、サイコロ状にカットしたバターを加えて、生地がそぼろ状態になるまで指先でよく混ぜる。
  2. ❶に水を加えてこねてまとめたら、ラップに包んで冷蔵庫で1時間ほど冷やす。
  3. リンゴをいちょう切りにしてボウルに入れ、カスター・シュガーにシナモンを加えて全体にまぶす。
  4. 冷蔵庫から出した❷を、3:2の割合の大きさに分け、大きい方を、パイ皿全体を覆える大きさに伸ばし、パイ皿に敷く。フォークで底の部分にいくつか穴をあけておく。
  5. ❹の上に❸を全体が均等の高さになるように並べる。
  6. 生地の縁の部分に水をつけて、❹で分けた小さい方の生地をパイ皿の大きさに伸ばし、上から被せる。
  7. 生地を押さえてくっつけたら、はみ出している部分をカットして形を整える。
  8. 縁の部分に指で波型の模様をつけるようにして、更にしっかりとくっつける。
  9. 蒸気が抜けるようパイの真ん中に十字の切り込みを入れ、200℃に予熱したオーブンで20~30分焼く。
  10. 焼き上がったら、上からカスター・シュガーを振りかけて出来上がり。好みでカスタードやダブル・クリームなどをかけて召し上がれ。
 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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