ラーディー・ケーキ
Lardy Cake
小学生のころ、給食に出てくるパンを食べ切れず、いつも残しては家に持って帰っていました。余った食パンを4つに切り分け、卵と小麦粉と砂糖を混ぜた生地にとっぷり付けて油で揚げ、上から砂糖をかける。母が時々作ってくれた、名前のないこのお菓子(もどき)が大好きでした。かなり油っぽくて、砂糖もいっぱいまぶしてあるから、子供心にも食べ過ぎては良くないだろうと気付いてはいました。でも、その甘くてサクサクとしたおいしさには勝てず、何度もお代わりした覚えがあります。
忘れていた子供のころの好物を思い出したのは、義弟が幼いころに大好きだったというパンの話を聞いたからです。それは「ラーディー・ケーキ」といい、ラードと砂糖と干しぶどうがたっぷりと入った甘~いパンです。ケーキと名前が付いていますが、使うのはパンを作る強力粉で、出来上がりも確かにパン。シナモン・ロールに近いイメージの、大型デニッシュ風パンといえば想像がつくでしょうか。
義弟いわく、とにかく甘くておいしくて、ラーディー・ケーキを食べるときは、一切れだけでは満足できず、必ずお代わりをねだっていたのだとか。隣で話を聞いていた義母が「昔はよく作ったけど、もう何年も作ってないね。今はラードっていうと、体に良くなさそうというイメージで、ラーディー・ケーキを作る人はほとんどいないかもしれない」と教えてくれました。「でも、実は私のお気に入りで、紅茶やコーヒーによく合うの。だから子供たちが小さいときには、よく作っていたわ」とも。
作り方を聞くと、義母は「すごくたくさんラードや砂糖を使うのでびっくりすると思うけど」と言いながら、古いレシピ帳を出してきてくれました。
いざ作る段階になって、確かにラードと砂糖の量が「半端ない」ことに気付きました。でも、後戻りはできません。とにかくレシピ通りに生地を作ってオーブンに入れました。しばらくすると、スパイスと甘さの混ざった何ともいい香りがオーブンから流れてきます。
「ラード=豚の脂肪」なので、名前を聞いたときには、あまり積極的に食べてみたいとは思いませんでした。でも、焼きあがったラーディー・ケーキを一口食べてみたら、義弟の言っていたことに納得。一切れでは止まらないおいしさです。温かいうちもいけますが、冷めてからの方がよりおいしく思えるのは私だけでしょうか。
養豚で知られる、サフォーク、グロスタシャー、ウィルトシャー、オックスフォードシャーなどがこのケーキの故郷だと言われていますが、伝統的には収穫期のお祝いとして英国中で作られていたという説も。食べ出したらやめられないおいしさのお菓子ですが、カロリー量を考えると、やっぱり年に一度か二度だけ、お祭り気分で頂くことにしておいた方がよいかもしれません。
ラーディー・ケーキの作り方(直径20センチの型1個分)
材料
- ラード ... 150g
- 強力粉 ... 450g
- イースト(インスタント) ... 7g
- ぬるま湯(約40℃)(生地の固さに合わせて調整) ... 300~400ml
- 塩 ... 小さじ1
- カランツ ... 70g
- サルタナ ... 130g
- カスター・シュガー ... 150g
- 製菓用ミックス・スパイス ... 小さじ1 【シロップ用】
- カスター・シュガー ... 大さじ1
- 水 ... 小さじ1
作り方
- 強力粉にラード大さじ1杯分と、塩、イースト、水を混ぜ、10分ほどこねてパン生地を作る。
- ❶を暖かい場所に置いて、約2倍の大きさになるまで1時間ほど発酵させる。
- 砂糖とミックス・スパイスを混ぜておく。
- ❷を20センチ×50センチ程度の長方形に広げ、50グラムのラードを一面に塗り、その上から1/3の❸を振りかけ、1/3のドライ・フルーツを散らす。
- ❹を三つ折りにして、麺棒で伸ばし、更に2回、❹と❺の作業を繰り返す。
- ラードを塗り、その上からカスター・シュガーをまぶしておいた型に❺を入れ、1時間ほど二次発酵させる。
- 220℃に予熱したオーブンで約30分焼く(表面が焦げそうならアルミホイルで覆う)。
- カスター・シュガーと水を煮てシロップを作る。
- 焼き上がったら、表面に❽を刷毛で塗って出来上がり。
memo
底の部分に溶けたラードと砂糖がキャラメル状になっているので、「タルト・タタン」のように、型をひっくり返した状態でサーブする人もいます。四角い型でもできますが、義母のレシピでは丸いケーキ型を使っています。