パン・ハガティー
Pan Haggerty
「パン・ハガティー」とは、なんだか変わった名前の食べ物だと思いませんか? 「パン」とは食べるパンではなく、フライパンのこと。熱々のフライパンで、薄切りにしたジャガイモ、細く切ったタマネギ、チーズを重ね焼きするだけのシンプルな料理がその正体です。ミルフィーユ状になったジャガイモとタマネギとチーズ。焼きたてのそれは、ほくほくとしておいしく、特に、フライパンの端っこの方で、タマネギやジャガイモが焦げてカラメル状になった部分の、ほんのり甘い香ばしさはたまりません。少し肌寒くなってきた今の時期には、調理中の香りだけでも体の中がほかほかしてくるような、こういう料理が恋しくなります。
パン・ハガティーのふるさとは、スコットランドと国境を接するイングランド北端のノーサンバーランドです。ジャガイモは、冷涼な土地でもよく育ち、安価にカロリーと栄養補給が可能ということで、英国では長く貴重な食材とされてきました。北国の、決して裕福とはいえない暮らしの中で、そのジャガイモを使い、簡単に調理ができて、かつ満腹になり、おいしいものをと考え出されたメニューが、パン・ハガティーだったのでしょう。名前の後半、「ハガティー」の明確な意味は、歴史家の間でもいまだミステリーとされていますが、フランス語の「haché=小さく刻む」に由来するという説があるそうです。
フランス語といえば、フランスには、薄切りにしたジャガイモを牛乳やクリームで煮て、チーズをかけてオーブンで焼いた「グラタン・ドフィノワーズ」という、パン・ハガティーによく似たジャガイモ料理があります。英国では、レシピ本や雑誌、レシピ・サイトなどでは、パン・ハガティーよりも、このフランス家庭料理の方がよく紹介されているような気もします。
そういえば以前、英国人がグラタン・ドフィノワーズを「ポッシュなパン・ハガティー」と表現するのを聞いたことがあります。耐熱皿などは使わず、調理したフライパンのまま食卓に置いて取り分ける、極めて気楽な料理のパン・ハガティー。一方、グラタン・ドフィノワーズは、フランス料理というだけで、なんだか上等に思えるのかもしれません(?)。
かつては、ドリッピングと呼ばれる、肉をローストした時に出た脂を固めたものや、ラード(豚脂)などを使って作られていたと言われますが、近ごろのレシピではバターを使うものがほとんど。そのため、ベジタリアン用の一品として紹介されることも多いです。また、バターやチーズを植物性由来のものに変えれば、ヴィーガン料理にもなりますね。
パン・ハガティーの作り方(直径20センチのフライパン1枚分)
材料
- ジャガイモ ... 400g
- タマネギ ... 250g
- バター ... 60g
- チェダー・チーズ(グレーターで削る) ... 100g
- 塩・コショウ ... 適量
作り方
- 温めたフライパンにバター30gを溶かし、細切りにしたタマネギを透明になるまで炒める。
- ❶をフライパンから取り出した後、フライパンで残りのバター30gを溶かす。
- ❷の上に薄くスライスしたジャガイモを並べ、その上に❶とチェダー・チーズを重ね、塩・コショウをする。これを繰り返して、最後はジャガイモで全体を覆い、上からチーズを散らす。
- フライパンにふたをして中火にかけ、しばらくしたら弱火にして約25分焼く。焼き上がったらナイフでジャガイモを刺してみて、中まで調理されているか確認する。
- ❹をグリルに入れ、表面にきつね色の焦げ目が付くまで焼いて出来上がり。
memo
これだけで食べても十分おいしいのですが、ソーセージや肉料理の付け合わせにもできます。また、これにベーコンなどを混ぜてボリュームをアップしたバージョンのレシピもあります。