EU離脱期限2019年10月31日後の製品輸入について
英国が予定通り欧州連合(EU)を離脱すると、2019年10月31日後の輸入に関し、どのような変更が適用されますか。
現在、EU諸国からの製品は自由に流通し、輸入関税や輸入VAT(付加価値税)は課されず、輸入書類も必要ありません。製品は、顧客による取得と供給者による発送だけで成り立ちます。
しかし、もし「合意なき離脱」になれば、EUからの製品はEU域外からの輸入と同じように扱われます。現在、EU域外から輸入される製品には、輸入関税とVATが課せられています。また輸入業者は、輸入申告書を提出しなければなりません。製品は歳入関税庁(HMRC)による検査が必要です。
HMRCは延期会計(Postponed Accounting)制度を導入すると聞いています。これは、どういうことですか。
この制度により、10月31日から全てのEUの製品に対する輸入VATの支払いは不要ですが、輸入申告書は依然として提出する必要があり、輸入関税は該当すれば引き続き支払うことになります。
現在、EUの製品には輸入関税は課されていませんが、「合意なき離脱」になれば製品はWTO(世界貿易機関)の税率の下で輸入されます。EUの製品には輸入関税を課さないようにするという議論がありますが、そのような政策が導入される場合には、日本を含めたあらゆる輸入にもEU製品に対する免除と同じ免除を適用しなければなりません。
輸入業者は、移行簡易手続きを申請する必要があると聞きましたが。
今回導入される重要な改正点の一つは、ロールオン・ロールオフ輸送に対する移行簡易手続き(TSP: Transitional Simplified Procedures)です。輸入業者と運送会社は、英国の法規を改正しなければ、特にドーバーを経由して輸入される製品に大きな遅延のリスクがあると英国政府を納得させたため、これによりHMRCはTSPを10月31日から導入することにしています。TSPによりEU諸国からの製品は、事前に輸入申告書を提出しなくても輸入ができます。業者は、輸入申告書を提出するまで30日間の猶予が認められます。
ただし、輸入業者はTSPを利用する前に承認を受けなければなりません。この登録に関するガイダンスが間もなく出される見込みです。この新制度は3カ月の試験期間を実施し、その後にHMRCが見直しを行います。HMRCがこの免除制度の取りやめを決める場合には、輸入業者に対して12カ月前に通知すると明言しています。つまりこの制度は、少なくとも15カ月間は実施されます。
サービスについてはどうですか。
「合意なき離脱」の場合では、英国外の各国に対して大半のサービスがVATの対象範囲外となります。EU諸国は他の非EU各国と同じように扱われます。これは金融分野や旅行代理店マージン課税制度(TOMS: Tour Operators Margin Scheme)、ミニ・ワン・ストップ・ショップ(MOSS: Mini One Stop Shop)規定に関わる企業に影響を与え、英国のVATの還付を受けられる可能性があります。
今の時点で企業が準備すべきことはありますか。
現在、EU諸国と貿易をしている企業は、経済事業者登録・識別(EORI: Economic Operator Registration and Identification)番号を申請するとともに、TSP登録の必要性の有無を注視することが重要です。
ポール・ブラッドリー
パートナー
VATパートナー。関税の領域で17年の経験を積み、通算20年以上この分野の専門業務に携わる。グローバル企業の頭を悩ますVAT問題を鮮やかに解決。F1観戦が趣味で、マクラーレンのファン。