TK Techniker
Mo. 27. Sep. 2021

水彩画からのぞく芸術の世界 寄り道 小貫恒夫

87. 旅先の釣り

グアダルキビル川の廃墟グアダルキビル川の廃墟

ドイツやオーストリアの川や湖で釣りをするにはライセンスが必要で、2週間ほどの講習を受けて試験に合格しなければなりません。その点、欧州のほかの国々では制約が緩い所もあり、旅に出る際は「延べ竿」を1本忍ばせて行くことがあります。日本の「延べ竿」はすばらしく軽く、たった40センチほどの竿から、4.5メートルくらいまでスルスルと延ばすことができます。さらに糸は弾力があって強く、ウキやハリも優れものです。

欧州の田舎の川辺や湖で釣っていると、周りにいる釣り人たちからは注目の的となります。釣りをする東洋人がいるだけでも珍しいのに、みんな見たこともない釣具に興味津々。しばらくは遠目に眺めているだけですが、そのうち近寄ってきては、「どんな仕掛けを付けているのか」とか、「エサは何を使っているのか」、さらには「釣り竿を一度持たせてくれないか」と話しかけられます。

スペインのコルドバに行ったある時、街外れに流れているグアダルキビル川で釣りをしました。そう、オペラ「カルメン」第1幕のフィナーレでカルメンが逃亡しますが、その目的地はこのグアダルギビル川の川向こうでした。それだけでも興奮するのに、茶褐色の川面には魚の背びれが見て取れます。ますます興奮が高まってきました。

釣っていると案の定、1人の釣り人がやって来ました。そして、お決まりの質問が始まります。エサに何を使っているかと聞かれ、パンを捏ねたものを使っていると答えると、「これじゃ駄目だ!」というのです。一旦帰っていったかと思うと、しばらくすると戻ってきて「これを使え! 」と。手渡されたのは、茶色くてフニャフニャした物体です。「これは何?」と尋ねると、「パタータ・フリットスだよ!」と数本手渡してくれました。

こんなもので釣れるのかと半信半疑ながら、このエサに付け替えてみることに。竿を下ろすと、何とすぐさま、ものの見事にヒットしました。しかも大物らしく、左右に力強く走り回ります。しばらく格闘していると、1人また1人と集まってきて、竿を押さえる人、網を持って走ってくる人など、手を貸してくれました。当の私はというと、呆然としてただ竿を持っているだけ。

結局は3人掛かりで、40センチはあろうかという大きな鯉を釣り上げました。みんな自分のことのように喜んで、日焼けした褐色の顔から白い歯がこぼれていました。

 
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小貫 恒夫

小貫 恒夫 Tsuneo Onuki

1950年大阪生まれ、武蔵野美術大学舞台美術専攻。在学中より舞台美術および舞台監督としてオペラやバレエの公演に多数参加。85年より博報堂ドイツにクリエイティブ・ディレクターとして勤務。各種大規模イベント、展示会のデザインおよび総合プロデュースを手掛ける傍ら、欧州各地で風景画を制作。その他、講演、執筆などの活動も行っている。
www.atelier-onuki.com
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