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独断時評

伊達 信夫
伊達 信夫 経済アナリスト。大手邦銀で主に経営企画や国際金融市場分析を担当し、累計14年間ドイツに在住。2年間ケルン大学経営学部に留学した。現在はブログ「日独経済日記」のほか、同名YouTubeチャンネルやX(旧Twitter)(@dateno)などでドイツ経済を中心とするテーマを解説している。デュッセルドルフ在住。

第28回円安ユーロ高は結局いつまで続くのか?

今年は日銀の利上げと欧州中央銀行(ECB)の利下げが続いているため、これまでの日欧政策金利差拡大を背景とする円安ユーロ高トレンドが反転し、円高ユーロ安が進むと期待されていた。しかし、実際には再び円安ユーロ高が進行している。今回はその背景をひも解き、2025年後半のユーロ円相場の見通しを探ってみたい。

  • 日欧政策金利差縮小にもかかわらず、大幅な円安ユーロ高が定着
  • 日欧実質長期金利差が円安ユーロ高のけん引役であり、トレンド反転は期待薄
  • ユーロ円は今年後半165~175円のレンジ/米ドル安誘導政策発動による上抜けリスクあり

期待外れの「円高」転換

為替レートは金融政策の方向性や金利水準に大きく左右される。昨年以降、ECBが利下げに舵を切る一方、日銀が利上げを継続していることから、今年は円安ユーロ高が修正され、ある程度円高に向かうものと期待されていた。

しかし実際には、かなりの円安ユーロ高が定着している。コロナ禍前に1ユーロ=120円程度だったユーロ円レートは、ECBの大幅利上げによる日欧金利差急拡大を背景に上昇を続け、2024年7月には一時1ユーロ=175.42円の歴史的高値を付けた。足元6月30日時点では1ユーロ=169.54円と、長期的均衡レートの目安とされている購買力平価:1ユーロ=129.56円(2025年、IMF)を3割程度上回る円安ユーロ高水準となっている。日欧政策金利差が縮小すれば円高になるはず、という従来の期待が完全に裏切られている格好だ。

カギは「実質長期金利差」

最近のユーロ円レートは、「政策金利差」よりも長期金利とインフレから導かれる「実質長期金利差」との連動性が強まっている。長期金利(10年物国債利回り、下表①④)からインフレ(②⑤)を差し引いた、実質金利(③⑥)の日欧間の差(⑦)とユーロ円レート(⑧)はほぼ比例関係にある。

ECBは2024年6月から利下げに転じているものの、長期金利はドイツの大規模財政出動などを背景に上昇しており、インフレ低下と相まってユーロ圏の実質金利は上昇し続けている。トランプ米大統領からの強い要請を受けて、北大西洋条約機構(NATO)加盟国は軍事費をGDP比5%に向けて大幅に増やす方針であり、その資金調達の過程でユーロ圏の長期金利には今後上昇圧力がかかりやすい。ユーロ圏における実質長期金利はプラス圏で推移する可能性が高そうだ。

一方の日銀は利上げを続けてはいるものの、そのペースは年+0.5%程度と非常にスローペースである。加えて、日銀は来年度から国債買い入れ減額ペースを落とす(金融引き締め度合いを減らす)ことを決めたため、長期金利の上昇は抑制されやすい。日本のインフレは欧州を上回る水準での高止まりが続いており、日本の実質長期金利はマイナス圏にとどまりそうだ。

2025年後半のユーロ円の行方

以上を踏まえると、今後さらに日欧政策金利差の縮小が続いても、日欧実質長期金利差が高止まりする限り、ユーロ円の下落は期待薄ということになる。筆者としては、今年後半に向けて1ユーロ=165~175円という高水準でのレンジ推移が続く可能性が高いとみている。日銀短観(6月)で明らかになった日本企業の想定為替レート(上期157.89円、下期157.68円)に近づくには、ECBの市場予想以上(政策金利1.5%以下へ)の利下げや、日銀の市場予想以上(政策金利1.5%以上へ)の利上げにより、実質長期金利差が縮小する必要があろう。

トランプ大統領は米国の貿易赤字を敵視しており、その解消のため高率の関税だけでなくドル安誘導政策(通称「第2プラザ合意」「マールアラーゴ合意」)を使ってくる可能性がある。今後もし米国が貿易赤字是正のために本格的なドル安誘導政策を打ち出してきた場合、為替市場には大量のドル売りニーズが発生する。基軸通貨ドルの売りを受け止める主役は、実質金利が低い円ではなく、実質金利が高く、代替基軸通貨として長年筆頭候補であったユーロになる可能性が高い。そうなれば、円安ユーロ高方向に一層の圧力がかかるため、ユーロ円は175.42円を上抜けして歴史的高値を更新するだろう。

日欧の実質長期金利差

時期 ユーロ圏 日本 実質長期金利差
⑦=③-⑥
ユーロ円レート
長期金利
インフレ
実質金利
③=①-②
長期金利
インフレ
実質金利
⑥=④-⑤
2021年末 ▲0.18% +5.00% ▲5.18% +0.07% +0.80% ▲0.73% ▲4.45% 130.47
2022年末 +2.56% +9.20% ▲6.64% +0.42% +4.00% ▲3.58% ▲3.06% 140.30
2023年末 +2.03% +2.90% ▲0.87% +0.62% +2.60% ▲1.98% +1.11% 155.63
2024年末 +2.36% +2.40% ▲0.04% +1.09% +3.60% ▲2.51% +2.47% 163.01
2025年
6月末
+2.60% +2.00% +0.60% +1.44% +3.70% ▲2.26% +2.86% 169.54
※▲はマイナス
 
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