11月頭の金曜日、コーミッシェ・オーパーでミュージカル「シカゴ」を観た。この劇場はオペラだけでなく、オペレッタやミュージカルも積極的に取り上げる。東京やロンドンで観るミュージカルに比べ、公共劇場であるコーミッシェ・オーパーのチケットは比較的安価で、14~29ユーロ程度の割安のカテゴリーの席もあるのがありがたい。主役2人の女性の見事な歌やダンスをはじめ、1920年代のシカゴを舞台にした名作をたっぷり楽しんだ。
コーミッシェ・オーパー本館の美しい内装
今回観に行った会場のシラー劇場はコーミッシェ・オーパーの仮の住まいで、1892年建造の本拠地はミッテ地区のベーレン通りにある。ベルリンにはほかに二つのオペラ劇場があるが、19世紀末からの時の経過を封じ込めた建物はコーミッシェ・オーパーだけ。私はこの本拠地の空間が大好きで、天井を見上げるたびに幸せな気分に浸ったものだ。老朽のため現在大規模な改装工事の最中で、6年もの工期を要すると目されていた。
11月19日、ベルリンに激震が走った。来年度の文化分野における予算削減を予告していたキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)による州政府は、約1億3000万ユーロの削減を発表したのである。これは従来の約12%の節減に相当する。
ドイツの首都ベルリンは、文化的魅力によって成り立っている街だということに私はちゅうちょしない。この削減策が可決された場合、オペラ劇場、オーケストラ、演劇、ミュージアム、クラブカルチャー、図書館など影響が多分野に及ぶことになるが、ここではコーミッシェ・オーパーの話に絞りたい。
2025年の運営費削減に加え、この劇場はベルリン州と進めてきた改修工事の中断という二重苦に直面している。「州との長年の対話を通じて準備し、練り上げてきた計画が、一夜にして否定されてしまった」と劇場の共同インテンダントは苦渋の声明を述べた。かつて首席演出家だったバリー・コスキーは、カイ・ヴェーグナー市長らに宛てた公開書簡の中で、ワイマール時代の黄金期からナチス時代、東西分断を経て壁崩壊にいたる歴史を振り返りながら、「この劇場は全てを見てきました。喜びと悲しみ。多くの死と破壊。しかしこの場所の魔法も全て。この家そのものがベルリンなのです。(シラー劇場に留まった場合)本拠地とその魂から引き裂かれ、ゆっくりと確実に死に向かうでしょう」と書いている。
コーミッシェ・オーパーの代替公演地、シラー劇場
コスキーはオーストラリア出身のユダヤ人。彼はワイマール時代の多くのユダヤ人芸術家が文化的に貢献してきたことや、ナチス時代のユダヤ人迫害に触れつつ、他方では現在ドイツで議題になっている「反ユダヤ主義条項」に反対する(例えば、イスラエルの政治批判によって表現の自由が制裁される可能性があることを危惧して)。「愛するコーミッシェ・オーパーを守ってください」と締めくくられる書簡を読み終えて思った。文化生活の維持は単に予算に関する問題ではない。この街が身をもって味わってきた自由を守ることと深く関わっているのだ。
ベルリン・コーミッシェ・オーパー
Komische Oper Berlin
コーミッシェ・オーパーとしての歴史は、1947年、演出家ヴァルター・フェルゼンシュタインによって設立されたことに始まる。ムジークテアターの先駆として現代のオペラ演出に大きな影響を及ぼし、数々の名作・話題作を世に送り出してきた。2023/24年シーズンからシラー劇場を代替地として公演を行っている。
オープン(シラー劇場のチケット窓口):水~金16:00~18:00
住所:Schillertheater Bismarckstr. 110, 10625 Berlin
電話番号:030-202600
URL:www.komische-oper-berlin.de
シャウビューネ
Schaubühne am Lehniner Platz
今回の削減策は、文化芸術の分野に大きな衝撃をもたらしている。例えば、ベルリンの先端的な劇場の一つであるシャウビューネは、180万ユーロの削減を告知されたことを受け、実験的な上演を行うスタジオを閉鎖する緊急措置と共に、2025年末の破産を危惧する声明を発表。削減策の影響は、ベルリン国際映画祭にも及ぶとみられている。
オープン(チケット窓口):木~土11:00~、日祝15:00~開演前まで
住所:Kurfürstendamm 153, 10709 Berlin
電話番号:030-890023
URL:www.schaubuehne.de