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観世宗家が欧州ツアーへ ドイツの舞台で見る能楽

この9月、日本最大の能楽流派である観世かんぜ宗家が欧州ツアーにやって来る。ドイツは、9月21日にベルリン音楽祭の一環でベルリン・フィルハーモニー、24日にはミュンヘンで開催されるmusica vivaでプリンツレーゲンテン劇場、28日にケルン・フィルハーモニをめぐる。ドイツの名だたるコンサートホールに組まれた舞台で、700年の伝統を受け継いできた能楽はドイツの人々の目にどのように映るのか。ベルリン音楽祭およびmusica vivaの芸術監督を務めるヴィンリッヒ・ホップ氏に話を聞いた。((文:ドイツニュースダイジェスト編集部)

参考:KANZE.net、ベルリン日独センター公式サイト

公演予定の演目「羽衣」公演予定の演目「羽衣」

能楽を知らなくても大丈夫

「以前日本の方から、日本の若い人たちは能楽についてあまり知らないと聞きました」。インタビューの冒頭、ヴィンリッヒ・ホップさんは日本人としては少しドキッとする一言を放った。たしかに、能楽に馴染みがある日本人は限られるかもしれない。「でも、ドイツの子どもだって14~15世紀の音楽を知っているでしょうか?」とホップさんは笑顔で言う。彼はベルリン音楽祭の芸術監督として、2019年の梅若研能会の公演を支えた人物だ。今回のドイツ公演を日本人にも観てほしい、と喜んで取材を受けてくれた。

そもそも能楽とは、うたい・舞・囃子はやしが一体となった音楽劇。現実と夢、生者と霊が交錯する物語を、能面をつけた演者たちが優雅な所作によって織りなしていく。2008年にはユネスコ無形文化遺産にも登録され、世界最古の舞台芸術として知られる。今回ツアーを周る観世宗家は、能楽を大成した観阿弥かんあみ世阿弥ぜあみの子孫で、室町時代から伝統を守り続けてきた。

ドイツ人の目から見た能楽

1970年代終わり、ケルンで学生生活を送っていたホップさんは、日本学者のイングリット・フリッチュ氏とその夫で作曲家のヨハネス・フリッチュ氏と知り合ったことで、雅楽をはじめとする日本音楽と出会った。ケルン日本文化会館にも足しげく通い、長らく日本文化のファンだ。一方で能楽は映像で見たきり。初めてライブで鑑賞したのは、2019年に梅若研能会がベルリン・フィルハーモニーで公演したときだったと話す。「舞台上に本格的な能舞台を組み立てたのですが、本当に素晴らしかった。木造の舞台が建築空間に見事に調和して、フィルハーモニー全体の空気感が一変したのです」とホップさんは目を輝かせる。

「能楽で素晴らしいと思うのは、圧倒的な完成度と集中力。長い静寂からの準備、そこから一気に繰り出される動き、その驚くほどの正確さに驚異を抱きます。言葉、声、響き、音楽、それら全てが一体となっていて完成度が高い。能を見るとき、私はまるで子どものような目で見入ってしまいます。

ドイツでは、能楽は決して分かりやすい芸術ではありません。言葉はもちろん、演技も時間の流れも音楽も、欧州の観客にはなじみのないものです。それにもかかわらず、2019年の公演では観客が本当に集中して舞台を見つめていたことが印象的でした。つまるところ、芸術は理解できるかどうかではなく、心を動かされることが大事なのです」

能舞台2019年にケルン・フィルハーモニーに組まれた能舞台

「日本文化を大切にしてほしい」

2019年の公演が大成功を収めると、ホップさんは「また公演を実現させたい」と思い続けていたという。その思いが通じたのか、ベルリン日独センターから今回のツアーの相談を受けた。「私は何か日本関連のプロジェクトを企画するたびに、真っ先にケルン・フィルハーモニーに連絡します。2019年の時もそうでしたし、今回も同じでした」。その背景には、西ドイツの時代からケルンが日本文化の発信地だったことと同時に、ホップさん自身が日本音楽に出会った思い入れの深い場所であることも関係している。「ドイツの公演はきっと日本とは違う体験になるのではないかと思います。全く違う文脈で建てられた建物に舞台を組むわけですから」

ドイツの格式ある舞台を巡回する今回のツアーは、二十六世観世宗家・観世清和氏にとっても特別な公演になる。それはこれから息子の観世三太郎氏へ宗家を受け継いでいくための、一つのステップとなるからだ。

「日本にはたくさんの素晴らしい文化がありますが、あまりに身近な存在がゆえに、その価値が十分に感じられないことがあるかもしれません。私たちヨーロッパ人から見ると、能楽も雅楽も歌舞伎も、本当にかけがえのない芸術です。ですから、その文化をぜひ大切にしてください。同時に、海外には日本文化に関心を持っている人がたくさんいることを知ってほしいです」

能楽ファンも初心者も、ドイツで能楽を鑑賞できる貴重なチャンス。日本では体験できない特別な公演にぜひ足を運んでみてほしい。


ケルン・フィルハーモニ

 
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