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Sun, 22 December 2024

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第17回 テロに便乗する極右組織 - ウーリッチ英兵刺殺事件の波紋

第17回 テロに便乗する極右組織―ウーリッチ英兵刺殺事件の波紋

英軍兵士リー・リグビーさん(25)がイスラム過激派に殺害された事件から1週間後の5月29日、ロンドン南東部ウーリッチの現場を訪れた。歩道にはあふれんばかりの花束が手向けられ、「リグビーさん、安らかに」「あなたのことは決して忘れない」と書き込まれたカードが添えられていた。事件発生と同じ時刻には1分間の黙祷が捧げられた。

 

現場は王立砲兵隊兵舎の近くだが、駅前ショッピング・センターのすぐそば。22日昼過ぎ、非番だったリグビーさんはイスラム過激派2人に車ではねられた上、ナイフと肉切り包丁で殺害された。2人はリグビーさんの首を切断しようとし、通行人にビデオ撮影を頼んだ。イスラム過激派の男は 「英軍はイスラム教徒を殺戮している。だから、英軍兵士の1人を殺害した。目には目を、歯には歯を、だ」とビデオに向かって叫んだ。血まみれの手と凶器がTV放映され、戦慄と恐怖をまき散らした。リグビーさんは、イラクやアフガニスタンなどで負傷した兵士やその家族を支援する慈善団体「ヘルプ・フォー・ヒーローズ」のTシャツを着ており、イスラム過激派はリグビーさんを英軍兵士と知って犯行に及んでいた。

今回の手口は、不特定多数の市民を無差別に狙った2005年7月のロンドン地下鉄・バス同時爆破テロとは異なる。英軍兵士を残忍な方法で殺害、アフガン駐留を続ける英軍に安全な場所はないという恐怖心を植え付け、西洋とイスラムの間にくさびを打ち込む狙いがあったとみて、警察は捜査している。

現場を訪れた退役軍人の男性は「何も言葉が出ない。これが私のメッセージだ」と言って、「ベテランズ・フォー・ピース」のカードをポケットから取り出した。男性の顔には戦場で負った傷跡が生々しく残っていた。「ベテランズ・フォー・ピース」は退役軍人が軍務経験を生かして戦争の原因や代償を市民に伝えている国際組織だ。イスラム系住民も「イスラム教徒として無辜(むこ)の命が奪われたことを嘆き悲しんでいます。リグビーさんの命を奪った凶暴な攻撃を私たちは憎み、非難します」と書いた看板を掲げた。イスラム系団体「英国イスラム社会」は「私たちを分断する凶行を許しません。これは私たちの国、私たち全員に対する攻撃です」と表明した。

容疑者の2人は警察の銃撃で負傷し、病院に運ばれた。2人はナイジェリア系英国人。うち1人はロンドン在住のマイケル・アデボラージョ容疑者(28)で、03年ごろ、キリスト教からイスラム教に改宗したとされる。同容疑者はかつてイスラム過激派組織の指導者オマル・バクリ師の説教礼拝に定期的に出席。過激思想を説教するバクリ師は05年、レバノン出国を境に英国への入国が禁止された。同容疑者は10年、国際テロ組織アルカイダ系イスラム過激派組織アルシャバブに参加するためソマリアに入ろうとして、ケニアで拘束された。ケニアの情報機関から受けた肉体的・性的虐待が同容疑者を最終的に残忍なテロへと駆り立てたとされる。同容疑者はケニアと英国の情報機関が内通していたと疑っていたようだ。さらに、同容疑者の友人がBBC放送で、「アデボラージョは英情報局保安部(MI5)に協力を求められていた」と告発したことから、MI5の関与についても大きな波紋を広げている。

言論の自由が認められている英国の大学ではイスラム系サークルの過激化が進む。同容疑者ら2人が通っていたグリニッジ大学を含む英国の大学では、学生に過激なイスラム原理主義を説教する公式イベントが実に年間200回も開かれていたという。同時に、インターネットを通じ過激な「一匹狼テロリスト」は増殖を続けている。

 

極右政党・英国民党(BNP)のニック・グリフィン党首はツイッターで「犯人にブタの皮をかぶせて、もう一度撃ってやるべきだ」「大量移民が問題だ」と怨嗟の言葉を書き連ね、極右過激団体・イングランド防衛同盟(EDL)も「イスラム過激主義と英国は交戦状態にある」と抗戦を呼び掛けた。イスラム系移民排斥を叫ぶ極右とイスラム過激派は鏡に映したように共振を始めた。リグビーさんの遺族はイスラム社会への攻撃を止めるよう呼び掛けたが、第二次大戦でナチスに勝利したことを誇りとする英国でも、極右が不気味な影を伸ばしている。

 

木村正人氏木村正人(きむら・まさと)
在英国際ジャーナリスト。大阪府警キャップなど産経新聞で16年間、事件記者。元ロンドン支局長。元慶応大法科大学院非常勤講師(憲法)。2002~03年米コロンビア大東アジア研究所客員研究員。著書に「EU崩壊」「見えない世界戦争」。
ブログ: 木村正人のロンドンでつぶやいたろう
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