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Sat, 23 November 2024
ウェールズ西部 カーディガン町議会議員
島崎晃さん

[ 前編 ] ウェールズ西部にあるカーディガンという町に、日本人の町議会議員がいる。「ウェールズ人と日本人は本当によく似ている」と言う彼が、英国の片田舎で暮らし始め、やがてウェールズの独立を夢見るようになるまでの間には、地元の人々と紡いできたいくつもの物語があった。全2回の前編。
プロフィール
しまざきあきら - 1941年に栃木県の造り酒屋に生まれる。現在は、人口4500人のウェールズ西部の町カーディガン在住。学習院大学哲学科卒、ウェールズ大学大学院アベリストウィス校国際政治学科に留学。カーディガンでのカフェ経営、スコットランド、ナイジェリア、アルジェリアでのケータリング業務、日本でアンティーク販売などに携わった後にカーディガンへと戻り、日本語教師としての活動を始める。2000年に永住権を取得。2012年5月、英国からの独立を掲げるウェールズ民族党より、カーディガンの町議会議員選挙に出馬。2位で当選し、同町の町議会議員となった。地元では「Jack Bara Caws」のニックネームで知られている。

 

「ほかに外国人議員はいるか、ですか。
イングランド人も外国人ですよね?」 

ウェールズ西部に位置する海沿いの町、カーディガンの町議会に、この春、日本人議員が誕生した。国政を含め、日本人が議員となったのは英国史上初めてという。彼が所属する政党は、英国からの独立を掲げるウェールズ民族党。

「私のほかにこの町に外国人議員はいるか、ですか。あのー、イングランド人も外国人ですよね? なら一人います。あははー」。ほのかに残る栃木弁のイントネーションと快活な笑い声を交えながらそう話すのは、島崎晃さん、71歳。地元での呼び名は「Jack Bara Caws」。少数言語の一つであるウェールズ語で「パンとチーズ」を意味し、「お陰様で元気でやっております」という挨拶にも使われる言葉だ。「私が最初に英国にやって来たのは、まだ1ポンドが1000円の時代だった1967年。留学じゃないですよ。あれは遊学です。あははー」。

栃木県の造り酒屋に生まれた島崎さんは、学習院大学の哲学科を卒業後、郷里出身の国会議員による「島崎君、せっかくだから英国の風に当たってきたらどうだ?」という一言をきっかけとして、英国への「遊学」を決意する。まずはイングランド南東部コルチェスターで語学留学を1年半。病気の母親を看取るために1年ほど日本へ帰国した後に、今度はウェールズへ。ブリティッシュ・カウンシルに推薦されたウェールズ大学大学院アベリストウィス校で国際政治論を学んだ。「当時は日本では学生運動が盛り上がっていた時期で、政治には興味がありましたから。また我々の世代は、植民地主義という言葉に対して敏感。ウェールズ人はイングランドに対する強烈な劣等感を持っていますからね。さっきまでウェールズ語を話していたのに、イングランド人が通りかかると英語に切り替えちゃう、というような光景を何度も見ました」。

カーディガンのタウン・ホール
島崎さんが月に数回、町議会議員として登庁している
カーディガンのタウン・ホール

「私もよくピアノを弾きながら
ウェールズの民謡を歌いましたよ」

留学中のある日、ウェールズ民族党の党大会が北部で開催されるという話を聞いた。興味を持った島崎さんは、大学の友人たちと一緒に車で出掛けることにする。その車に乗り合わせたのが、カーディガンで英雄視されていた民族主義者。学生期間を終えて、すっかり馬が合ってしまったこの英雄がいる町へと移り住んだ。3年以上の留学期間を終えた学生には、ほぼ自動的に商業ビザが発給された時代。試しにカフェを開業すると、民族党の党員が会議の場として頻繁に利用するようになった。「30席ぐらいの、石造りの古い建物でしたよ。当時、英国のパブにはどこも店内にピアノがあったからうちの店にも置いたの。そうしたら皆ピアノ弾きながらよく歌うんですよね。ウェールズの男声合唱って世界的に有名でしょ。この地域には音痴がいないの。私もピアノを弾きながらウェールズの民謡をよく歌いましたよ。あとは近くにミサイルの開発研究所があったことも手伝って、民族党の過激派として警察ににらまれてね。私の名前がブラックリストに載っていたみたい。あははー」。

カーディガン
カーディガンの地元の人々との記念撮影

やがてカフェを閉店し、スコットランド、ナイジェリア、アルジェリアでも働いた。でも、彼の心には、いつもウェールズがあった。国外へ出稼ぎに出たのも、カーディガンに持ち家を購入し、カフェを再開する資金をつくるため。しかし、7年ぶりに戻ってきた第二の故郷で受け取ったのは、自発的帰国を促す英内務省からの通達だった。(続く)

 

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