英国を代表するバレエ団、ロイヤル・バレエ団が昨年、新たに4人のプリンシパル(最高位のダンサー)昇格を発表した。そのうちの一人、高田茜さんは2009年に同団に入団。以来、怪我に悩まされつつも次々と大役を務め、26歳の若さでプリンシパルの地位にまで上り詰めた。今回は、先日開催された時事通信社主催のロンドントップセミナーで講演された高田さんのお話の一部をご紹介する。(協力: 時事通信ロンドン支局)
これまで「ドン・キホーテ」や「眠れる森の美女」「白鳥の湖」などの大作で主役を踊ってこられていますが、その中でも特に好きな役や思い入れのある演目を教えてください。
ドラマティックで演技力が求められる役が好きなので、そのような役を踊りたいと芸術監督のケビン・オヘアにずっとお願いをしていました。そうしたらケビンに「君の次のステップはジゼルだよ」と言われて、去年、「ジゼル」のデビューをすることができたのです。ジゼルの役も、物語も大好き。ジゼルは心臓が弱い役で、母親から踊ってはいけないと言われている。でも踊りが大好きだから踊って、そして死んでしまうという非常にドラマティックで儚い役です。コンクールなど節目のときに踊っていることもあり、大切な役ですね。ケビンが私をプリンシパルにしたのも、ジゼルを観て決めたと言っていました。
自分のバレエ・ダンサーとしての特徴や強みは、どういうところにあると思いますか。
まだここが私の強みだと胸を張って言えるところは自分では分かりません。ただ、こうなりたい、こういう風に踊ってみたいという点では頭の中がクリアな方だと思います。あと、努力するのが苦ではないというところでしょうか。こういう風になりたい、だからトレーニングをしたりリハーサルをしたりするのは当たり前、と考えているので、決めたらガーッといけるタイプ。そこがバレエで生かされているのかなと思います。
ロイヤル・バレエ団に入団されてから、怪我やトラブルに悩まされることもあったと思います。
12歳のときに左ひざの内側じん帯を切る怪我をしたのですが、それ以来、左ひざが弱いのです。2011年に「眠れる森の美女」の主役に抜擢されたのですが、そのとき私はまだソリストという、コール・ド(群舞)も主役も踊る一番忙しいランクにいたんですね。怪我人が多い時期でもあり、毎回の舞台に出演していて、積もりに積もった疲れがひざにきて、その役を踊ることができませんでした。同じ年に「くるみ割り人形」の主役シュガー・プラムにも選ばれていて、これだけでも踊りたいと訴えて踊ったらやはり無理がたたってまた怪我をしてしまって……。その翌年の「白鳥の湖」の主役も踊れなくなってしまったのです。そのときはせっかくこんなにチャンスをいただいているのにと悔しかったのですが、その2年後に「眠れる森の美女」を踊る機会があって、このときになって「怪我をして良かった」と思えました。
というのも、怪我をしたからこそ、身体が資本なのだから、身体が強くなければ自分が目指す演技はできない、筋力がないと忙しいカンパニーでは生きていけないと自覚できましたし、それ以来、カンパニー内にあるジムで35キロほどあるウェイトを持ってスクワットするなどトレーニングを毎日行うようにもなりました。怪我のお陰でトレーニングの重要性、そして毎回のリハーサルを100%に仕上げる大切さを学ぶことができたと思っています。
講演する高田さんと会場の様子
昨年、最高位のプリンシパルになられましたが、誰から、どのように伝えられたのでしょうか。
私たちダンサーは年に1回、シーズン最後のころに芸術監督とミーティングする時間が設けられていて、そのシーズンの出来を話し合うほか、昇進についても伝えられます。私のときはほとんど皆終わっていて、あと2、3日後にはツアー公演のために日本へ行くというタイミングでした。皆から「茜、まだミーティングないの? おかしいね」などと言われて、私も「何でなんだろう、また何かやらかしたのかな」と思っていたのですが(笑)、出発間際の朝に呼び出されて、ケビンから「ここはこうした方がいいよ」などとかなり注意されたんです。ちょっと落ち込んで、「来シーズンも頑張ります」と答えたら、「君は毎回の公演で成長が見えるし、君のことをリスペクトしているダンサーがたくさんいる」と。そして「今でも後でも変わらないから、君をプリンシパルにするよ」と伝えられました。本当にびっくりして、「何を言ってるんだ、この人」って5秒くらい止まってしまって(笑)。それから泣き出して、「早すぎます」と言ったのを今でも覚えています。
ロイヤル・バレエ団はどのようなバレエ団だと思いますか。
ロイヤル・バレエ団には色々な国籍のダンサーが所属しています。パリ・オペラ座やロシアのカンパニーだと、団員の大半がフランス人やロシア人となりますが、ロイヤルでは英国人のプリンシパルは3人しかいないんですね。非常に個性豊かなカンパニーだと思います。ケビンが個性を大切にしていて、私はよく「君は本当にユニークだよね」と言われます。良い意味だと思うのですけれども(笑)。型にはめるのではなく、ほかとは違う光を出していくことを応援してくれる、素晴らしい芸術監督だと思います。
高田さんご自身はそのカンパニーの中でどのような役割を果たしていきたいか、またどのようなダンサーになりたいのか、抱負をお聞かせください。
個人的には、プリンシパルだからというのではなく、階級は関係なく、自分の求めるクリアな目標があるので、それに向かっていきたいです。立っているだけで物語を伝えられるダンサー、一つの動きで物語を伝えられるダンサーっているんですね。例えば今は女流作家バージニア・ウルフの代表作3作をモチーフにした「ウルフ・ワークス」という作品でアレッサンドラ・フェリという非常に有名なダンサーと共演していて、彼女を間近にするとやはりこういうダンサーになりたいと思います。
人の感情を動かすのはとても大変なことなのだと日々感じていまして、だからこそ自分でもそういうダンサーになりたいという思いが強いです。
高田茜さんの今後の予定
- 2017年3月16日(木)~24日(金)
「The Human Seasons / After the Rain / New Crystal Pite」
(「The Human Seasons」に出演) - 2017年4月1日(土)~21日(金)
「Jewels」 - 2017年5月18日(木)~31日(水)
「The Vertiginous Thrill of Exactitude」 - Royal Opera House
Bow Street, Covent Garden, London WC2E 9DD
Tel: 020 7304 4000
Covent Garden駅
www.roh.org.uk
*高田さんの出演スケジュールに関してはサイトを参照