薄桃色に染まっていく英国の春
現在造園中のロンドン・ブロッサム・ガーデンのイメージ
ロックダウンから1年。私たちの暮らしは今も新型コロナウイルスに脅かされる日々が続くが、そんななか、誰もが心待ちにしていた春がやって来た。気が付けば、英国の街角には淡い桃色の花を付けた樹木がそこかしこに立ち、その姿にほっと一息つき、癒やされた方も多いのではないだろうか。今回の特集では、現在英国で桜の植樹キャンペーンを行うナショナル・トラストの活動と、かつて英国に日本の桜を広めた20世紀の園芸家コリングウッド・イングラム氏の物語をご紹介。英国の春を、日本ともつながりのある桜の木から見てみよう。 (文:英国ニュースダイジェスト編集部)
コロナ禍のロンドンで始まった桜の植樹運動
歴史的名所や自然景勝地の保護団体として知られるナショナル・トラストは、新型コロナに疲れた市民を癒やそうと、今年3月から英国全土に桜をはじめとした花の咲く樹木を植えるキャンペーン「ブロッサム・サークル」を開始した。目まぐるしく変わる世界情勢のなか、自然は常に人々に慰めや心地よさを与えてくれるということで、同団体はより多くの人が自然とつながる機会を提供していくという。
ナショナル・トラストには今後10年間で都市部とその周辺に2000万本の植樹をし、緑地を作る大きな計画があるが、「ブロッサム・サークル」も、その一部。3月23日には手始めとして、ロンドン東部のクイーン・エリザベス・オリンピック・パーク内に、桜、プラム、サンザシ、リンゴなどのバラ科の樹木がロンドン行政区数と同じ33本、円状に植えられた。現在そこは「ロンドン・ブロッサム・ガーデン」として造園中だ。ロンドン以外では、ニューカッスル、ノッティンガム、プリマスでの造園が現在までに決定している。
ナショナル・トラストの関係者は、日本のお花見の伝統にも触れ、「花の美しさを愛でる行事だ」と説明し、この機会に英国人もこの良き日本の風習を取り入れてはどうかと述べている。その一方で、こうした庭園が「新型コロナで命を落とした全ての人々を思い出し、医療従事者を称え、この経験を振り返る場所になれば」という。また、ロンドンで植樹に参加した市長のサディク・カーン氏も、「花の咲く木々は、この信じられないほど困難な時期をずっと忘れず、ロンドン市民が互いに助け合うためにどのように協力してきたかを象徴したものになる」と語っている。
ちなみに、クイーン・エリザベス・オリンピック・パークに植樹された33本のうち主な桜は、白色の八重桜「白普賢(しろふげん)」、英国産で半八重咲きの「アーコレード」、次ページで紹介するコリングウッド・イングラム氏が愛した「太白(たいはく)」、日本で代表的な桜「染井吉野(そめいよしの)」。そして桜の仲間では、ピンクの花に赤紫の葉が出るブラック・チェリー・プラム、欧州原産のブラックソーン、サンザシなどが並ぶ。この春に開園予定だが、現時点ではまだ詳しい日程は発表されていない。いずれにしても、将来、見事な桜に囲まれながら2021年のロンドンを思い出す日がやってきそうだ。
National Trust
ブロッサム・サークルについて
www.nationaltrust.org.uk/features/helping-communities-blossom
London Blossom Garden
Queen Elizabeth Olympic Park, Honour Lea Avenue, London E20 1DY
Stratford/Hackney Wick駅
www.queenelizabetholympicpark.co.uk/the-park/things-to-do/blossom-garden