大企業グループの英国事業における税務コンプライアンス
弊社は小規模運営の英国子会社ですが、本社はグローバル大企業です。弊社で注意すべき税法はありますか。
連結グループ売上が7億5000万ユーロ(日本では1000億円)を超える多国籍企業は国別報告書(CbC Report)を管轄国に提出します。これに応じて、同グループに属する全ての英国事業は、HMRCに国別報告書の提出状況に関する所定のフォームを提出します。英国に多数の事業体がある場合は、どこが中心となって通知を行うのか、通知対象リストに見落としがないか、グループ内で確認を取りましょう。
また税務コンプライアンス体制を説明する税務戦略文書(Tax Strategy Document)をウェブサイトで開示することも求められます。この公開文書では主に、具体的に該当する税法、英国における税務リスクの管理、税金プランに関する企業姿勢、許容できる英国租税リスク、税務当局との対応法などについて説明し、原則として毎年見直す必要があります。
数年前に本社が英国の大企業を買収し、弊社以外にも多数のグループ会社が英国にあるため、横の連携が不安です。
英国グループが大規模である場合、支払利息算入制限(Corporate Interest Restriction=CIR) についても検討します。英国グループの純支払利息が200万ポンドを超える場合は、損金計上で認められる上限の計算が求められ、固定比率法とグループ比率法の2種の計算法から選択します。ここで用いるTax-EBITDAの定義は企業が財務分析で使用するものと必ずしも一致している訳ではないので、注意が必要です。
英国グループの売上が2億ポンドもしくは総資産が20億ポンドを超える場合は、各事業体はシニア・アカウンティング・オフィサー (SAO)を任命します。SAOはそれぞれの英国事業の会計・税務管理システムをモニター、適正に管理されていることを確認することが求められ、HMRCに毎年これを証明しなければなりません。それには、管理システムやコンプライアンス体制の十分なモニタリングとドキュメンテーションは必須と言えます。
さらに四半期納税と納付期限の早期化にも注意してください。2019年4月1日以降に始まる会計年度より、一部大企業の四半期納税の納付期限が早まります。四半期納税が対象となる企業はこれまで通り課税対象利益が150万ポンド以上ですが、これが2000万ポンドを超える場合は4カ月早まり、つまり1回目の支払期限は会計年度開始から2カ月と13日後になります。なお150万ポンドと2000万ポンドについては、グループ内関連会社数で割った金額が対象となります。例えば関連会社総数が100社の場合、それぞれ1万5000ポンド、20万ポンドで計算され、比較的小規模な英国事業であっても新しい四半期納税期限が適用される可能性は十分にあります。
他にも考えるべき点はありますか。
キャピタル・アローワンス(税務上の減価償却)における年間即時償却枠(Annual Investment Allowance)は2019年に大きく引き上げられたものの、英国グループごとに割り当てられている点や、研究開発費の税制優遇措置やタックス・クレジットについて大規模グループは扱いが異なること、グループ・リリーフによる繰越欠損金のグループ内での活用法など、多くの注意点があります。これらのコンプライアンスには英国内の他のグループ会社との情報共有が必須で、グループ内の各担当の会計士や税理士同士でコミュニケーションを図ることも重要です。
高西祐介
監査・会計パートナー
英国大手会計事務所にて多くの英系大企業監査を担当。日系企業をサポートしたいという強い思いからGBAへ。監査、ファイナンスデューデリ、組織再編アドバイスを専門とする。